第36話 勇者パーティ半分報告へ戻る
エリスの制裁が終わったところで、3人はそれぞれの部屋に戻って行った。
ラウンジには俺とエリスが残っている。
「偉い目にあったわ……」
ぽこすか喧嘩劇場を終えたエリスは妖精王という名とは不釣り合いなほどの傷を負っていた。
しかし、どこか嬉しそうにしていたので多分Mだと思う。
「しかも、どうしてわたしがクエスト失敗の報告に行かなきゃいけないのよ」
「あはは……」
エリスの制裁はぽこすか喧嘩劇場だけではなく、クエスト報告もしないといけないらしい。
失敗の報告ってのは何を言われるかわかったもんじゃない。だから誰もやりたがらない。
しかも今回は王都からのクエスト。ノーシュヴァイン王がなにを言うかわかったもんじゃないな。
「はぁ……。なんて説明しようかしら……」
まぁエリスも妖精王という立場だ。エルフとの友好関係もあるし、ノーシュヴァイン王はなにも言いそうにないけどな。多分。
「すぐ帰るし、良い言い訳も思い付かないわね」
ダイセンの定期便はリヴァイアサンのことで遅れており出航は明後日らしい。
そこで巻き込まれたのはフレデリカだ。
瞬間移動の魔法を使えるので、瞬時に戻ることができる。
瞬間移動の魔法の魔力消費はかなり大きいので極力使わないみたいだが、フレデリカは「構わない」と言っていたな。
「まぁ魔王、魔物ってのはパニックの素になるだろうし、リヴァイアサンと対立して話しをしたくらいで良いんじゃない?」
「そこら辺が無難かしらね」
エリスは視線を下に向ける。
「さっきはありがとね」
唐突なお礼に首を傾げてしまう。
「ん? それくらいの言い訳、エリスなら思いついていたろ?」
「違うわよ」
ゆっくりと首を横に振る。
「さっき取り乱してた時」
「ああ。さっきの話し合いの時か」
小さくエリスが頷く。
「取り乱している時。あんたの言葉に救われたわ。わたし達のやることは変わらない。言われてみればそうね。変わらない。相手が誰であっても変わらないわ」
彼女の瞳は決意に満ちていた。
「まぁでも、魔王はいない、魔物じゃないってのは気になるポイントではあるから、平行して調べようとは思うけどな」
普通に気になる。
敵は変わらないと言っても、そこはかなり気になるので調査はしようと思う。
言うとエリスは心配するような顔で見てくる。
「そうは言うけどあんた……。調べること大量にあるんじゃない?」
「大したことないさ。ググレカスの研究に、海賊船で拾った日誌の解読。そして魔王、魔物じゃない件」
「やることしかないじゃない。大丈夫なの?」
「勇者パーティが世界を救うことに比べたら大したことない。そっちが優先だし、なにかあれば呼んでくれれば良い」
「あんた……そのうち体壊すわよ?」
「その時はまた面倒みてくれる?」
「ばーか。知らないわよ。ふん」
そう言って可愛くそっぽを向かれた。
いつも通りの妖精王様を見ていると「エリス」と声をかけるフレデリカの姿があった。
「こちらの準備はできた。いつでも出れる」
「あら、早いわね。もう良いの?」
「良い。帰ってやることがあるから早めに帰りたい」
「やりたいこと?」
「リッタの研究の手伝い。研究所の準備があるから」
「あー。そいえばあんた研究所造ってたわね。だから帰りたがってたのね。リッタも研究が多いだろうし、そっちの方がありがたいわね」
エリスがこちらに視線を配るので頷いて答えておく。
フレデリカは、トコトコと俺の前に来る。
「リッタ。寂しいだろうけど先に帰るね」
「ごめんな。研究所の準備のために先に帰ってくれるなんて、どうお礼すれば良いか」
「お、お礼……。そうか、お礼」
「俺でできることならなんでもするよ。また考えておいて」
「なんでも……。くぷぷ。それは……やばい……」
なにかイヤらしいことを企んでいそうな雰囲気。
「こぅら。変なこと考えるな」
「あでっ」
エリスのチョップがフレデリカの頭部に炸裂した。
「全く……この年頃の人間は……ん?」
エリスは首を傾げて天上を見上げた。
「あいつらも同じか……。年齢関係ないわね」
ルナとローラのことを言っているのだろうな。
「ふっ」
含み笑いをしたかと思うとフレデリカが俺の前に頭を持ってくる。
「リッタ。痛い。撫でて」
多分痛くはないだろうが、断る道理もない。
「よしよし。大丈夫かぁ?」
なでなでと、サラサラのサファイヤショートヘアを撫でる。
ネコがご主人様に撫でられて気持ちよさそうにしている幸せそうな表情をしていた。
「もう大丈夫?」
「まだ……。リッタのなでなで好き。というかリッタが好き」
おっふ。
「いきなりですね」
「えへへ。照れた?」
「そりゃフレデリカみたいな可愛い子に言われたら照れるよ」
「もっと言ってあげよっか?」
グイグイくるフレデリカに「調子乗るな」ともう1発チョップをかますエリス。
次の1撃は強かったのか、頭から煙が上がっている。
涙目でフレデリカは笑っていた。
「リッタのなでなでを考えれば、年増のチョップなど甘んじて受け入れよう」
「そ、そんなにリッタのなでなでって良いの?」
エリスはゴクリと生唾を飲み込むと、俺の前に頭を持ってくる。
「リッタ。頭撫でても良いわよ」
『エフュージョン』
フレデリカが魔法を唱えると「ああああああ!」とエリスの叫びが聞こえる。
「バイバイリッタ」
手を振るフレデリカに「バイバイ」と手を振り返す。
「このクソガキゆるさ──」
言葉の途中で2人の姿は消えた。
ノーシュヴァイン城に帰ったのだろう。




