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第32話 勇者パーティと虹のオカリナ

「そういえばフレデリカ。その帽子どこにあったの?」


 船底まで落ちて行ったエリスだが、なにごともなかったかのように勇者パーティと合流し、俺の持っているキャプテンハットをどこで見つけたのかを尋ねる。


「廊下に落ちてたのを拾った」

「そう。良かったわ」

「どうして?」

「そりゃあんた、亡骸が被っているのを勝手に取ったら言ったら問題よ」

「フレデリカも死者を冒涜する真似はしない。廊下に落ちてたから拾っただけ」

「亡骸かぁ。物騒だねー」


 本当にそう思っているのか疑うレベルで、ローラが鼻歌混じりで船内の廊下を歩いている。まるで観光してるかのようだ。


「きゃぁん。リッタ様ぁ。こわーい♡」


 言いながらルナが俺の右腕に抱き着いてくる。


「しまっ……!」

「あらあら? ローラさんは余裕に見えますぅ。勇敢ですぅ」

「ちょっとルナちゃん! 語尾の♡が見えたけど!?」

「怖いけど、リッタ様に抱き着いたら落ち着いた証の♡です」

「うそつけ! ルナちゃんこの前『お化けを利用してリッタくんに抱き着いたらあたしに惚れるだろ』って言ってただろう!」

「言葉の改悪! そんな言い方してません!」

「じゃあなんて言ったんだよ?」

「お化けが出たら怖がるフリしてリッタ様に抱き着いて口説くって言ったんです!」

「ほら! 怖くないじゃん! 離れなよ!」

「しまっ!? 油断した……」

「あー。フレデリカも。フレデリカも」

「あんたらほんといつも通り過ぎて羨ましいわ……」

「あはは……」


 もう、なにも言うまい。


 と、言っても少し気になるのは先程話題に上がった亡骸。


「亡骸といえば、1つも見当たらないな。こんな海の真ん中に沈んでいるのなら、航海中に沈んだと思うのだけど……」

「きゃぁん。リッタ様ぁ」

「あざといよルナちゃん!」


 ローラがルナを引き離したところでエリスが憶測を説明する。


「つまり、骨も残らない程の昔ってことじゃない? 魔物も巣食っているみたいだし、骨も食べられたとか。つまり、まぁ、そういうことよ」


 最後の意味は、だからあんたの父親とはやっぱり関係なさそうと言いたいのだろう。


 キャプテンハットの古代文字『ジャック』と書かれた文字を見ながら父さんを思い返す。


 父さんは異世界人らしいけど、海賊でもタイムトラベラーじゃない。骨まで残っていない沈没した海賊船には縁もゆかりもないだろう。


「おっと。突き当りの部屋まで来たね」


 キャプテンハットから視線を前方に向けると、ローラの言う通り、突き当りの部屋までやって来る。


 ドアはなくなっており、廊下から中の様子が伺る。


 部屋は広く、大きな机の上に筆やら紙やらが広がっているのがこちらからわかる。


 部屋の広さと机の上にあるものから会議室かなにかだと予想できる。


 特に罠とかもなさそうだし、魔物の気配も感じないので全員で中に入るが、5人入っても部屋の広さは十分にある。


「これは……」


 壁に貼ってある地図のようなものに目をやると違和感しかなかった。


『アスガイア』は4つの大陸と小さな島国ダイセンからなる世界。


 壁に貼ってある地図は大陸が6つもある。


 それに形がアスガイアのものと違う。


「間違いなく『地球』の地図ね」


 隣にやって来たエリスが地図を見ながら言ってくれる。


「これが……」

「見たことなかったの? エルフの里にも似たようなものが保管されてたけど」

「父さんは自分の世界の地図なんて持ってなかったからな。それに『社会の授業は苦手だった』と言って地図を嫌っていたな」

「ふふ。授業なんて言葉久しぶりい聞いたわね。わたしも魔法学の先生によくしかられたっけ」

「だね」

「あんたなんかもっと叱られてたでしょ」

「えー。エリスの方がげんこつくらってた気がするけど」

「リッタの方が1回多いわよ」

「ぷっ」

「ふふ」


 懐かしみながらの笑みがこぼれる。


 エルフの里での授業。


 厳しくも優しい先生の顔がすぐに思い出して、少し泣きそうだった。


 エリスも同じ気持ちなのか、泣きそうだったけど堪えていた。


 俺も我慢して、違うことを考えることにする。


 そういえば、父さんは『社会の授業は苦手だった』と言った後に『ま、俺らの時代はこれがあるから』とか言ってなにかを出した気がする。


「そういえば……」


 それは黒い物体だったような……。


 こちらの呟きにエリスが首を傾げる。


「どうかした?」

「いや……」


 彼女へ曖昧な返事をしながら、俺は黒い物体を取り出した。


 手に持ってそれを見つめながら遠い昔の記憶の糸を辿って行く。


「『俺らの時代にはこれがあるから』……『ググレカス』だったっけ……」

「え……。その黒い物体『ググレカス』って言うの?」

「あ、いや、違うと思うんだけど……。父さんと昔そんな会話をしたような……」

「ふぅん。まぁ黒い物体って呼ぶのもあれだし固有名詞つけてあげたら?」

「『ググレカス』って?」

「なんか、バカにされている感が否めないけど……」

「まぁ。いっか。なんでも」


 俺はググレカスをしまった。


「リッタ。エリス」


 テーブルの方でフレデリカが声をかけてくれる。


 彼女が手招きをするので俺達はテーブルの方へ足を運ぶ。


「これ」


 テーブルに広げられている紙はボロボロでなにを書いているのかわからないが、その隣にあった日記のようなものを俺に渡してくる。


「古代文字」

「古代文字か」


 オウム返しで返事をしながら中をパラパラと見ると紛れもなく古代文字。それも全て古代文字の英語で書かれている。


 日記の裏にはキャプテンハットと同じ『ジャック』と名前が書かれていた。


「この人の航海日誌かな?」

「内容わかる?」

「この量を分析するのには時間がかかるな」

「そう」

「でも、これは拝借しようか。普通に興味あるし」


 もしかしたら異世界のことが書かれているかもしれない。


 ダイセンを出たらググレカスの調査も兼ねてフレデリカに手伝ってもらおう。


「リッタくーん! 見て見てー!」

「あ、ローラさん! 私が見つけたんですよ!」


 奥の方から走ってやって来たルナとローラ。


 ローラの手には虹色に輝くオカリナが握られていた。


「キラキラだな」

「すごくない!? こんなキラキラなことある?」


 エリスがそれに興味を示し、まじまじと見つめる。


「エリスさん? なにか知っているのですか?」

「これ……いや、まさか……」

「なになにー?」


 興味を引く言い方をするのでローラが聞く。


「『イリスのオカリナ』」


 エリスは生唾を飲み込んで説明してくれる。


「『その笛を吹いた者を天空の城へ誘う』なんて言われている笛よ。おとぎ話だと思ってたけど、実在していたのね」

「そんなおとぎ話があったのですね」

「古いおとぎ話よ。私も曾祖母から少し聞いただけ。曾祖母の時代からおとぎ話扱いだったのだけど……。まぁ長い間海底に沈んでいたのだから実話がおとぎ話になるのも納得よね」

「あれ? でも、この船って異世界の船って言ってたよね? だったら、天空の城ってのも異世界の話?」


 ローラが鋭いことをエリスに聞くと首を横に振る。


「さぁ……。わからないわね。もしかしたらさっきフレデリカが見つけてくれた日誌を解読すればわかるかも」

「ああ。そうだな。そもそも日誌を解読する気ではいたから、そのことについてもわかったらすぐに知らせるよ」


 みんなに言うと、ローラが俺に虹色の笛を渡してくれる。


「だったらこれはリッタくんに預けた方が良いよね」


 みんなの顔を見ると、ローラの意見に賛成と言わんばかりに頷いたので素直に受け取る。


 イリスのオカリナをしまったところで「さて」と手を合わせるルナ。


「では『海のオーブ』を」


 ゴゴゴゴゴゴゴ!


 足元がぐらつく。まるで地震が起きたみたいな振動。


 しかし、それ以上に。


「な、なんですか!? この巨大な魔力!?」


 感知のスキルか、ルナが驚愕の声を出す。


「これって……」


 エリスも感知の魔法で左手を突き出していた。


「これ、凄い強いよね。絶対強い奴!」


 ローラはテンションが上がっていた。


「リッタ」

「うん。間違いないだろうな」


 フレデリカが俺を見るので頷いて答える。


 リヴァイアサンが現れたのだろう。


 しかし、どこだ? 膨大な魔力を俺ですら感じられるが……。


 キョロキョロと辺りを見渡していると。


 ボッ!


 下から衝撃波のようなものを感じると、俺達は船事一気に海面へと上昇していったのであった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 舟自体が異世界転移しているのかな。 異世界、電波飛んでないから、ググるのも大変だよねえ/w そして決戦か。結局オーブはまだ見つかってないのに。
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