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第22話 勇者パーティはモテる

 海の見えるオープンテラスデッキ。


 テラス席はゆったりとしており、手入れされた植栽が目の保養になるが、やはりそれ以上に目を奪うのは夜の海の景色。


 夜空を写した海はまるで宇宙空間の様に水平線の彼方まで広がっている。


 月明りと相まって幻想的な風景がオープンテラスデッキから見渡せる。


 ♫~♫~♫~。


 オープンテラスデッキの中央にあるステージでは演奏隊が今のシュチュエーションに合った音楽を演奏してくれている。


 プロの音楽を生で聞ける機会というのは中々ない。極上の音楽をオープンテラスデッキが包んでくれる。


 目で風景を楽しみ、耳で音楽を楽しむ。


 そして。


「にゃはは! 美味しいね! あ! お姉さん! おかわり!」


 すこーしだけ、この雰囲気とは合わない声を張り上げてローラが酒のおかわりを注文していた。


 相変わらず酒を水のように飲んでいるので、他の客からも一目を置かれている。


「ふふ。リッタくん。楽しいね。2人だけのディナー」

「そうだね」


 昼間の浜辺で行われたゲームで勝利したのはローラだったみたいだ。


 約束通り、俺とのデート権を手に入れたローラは2人っきりのディナーをご所望だったらしい。


 いや、もうね。俺なんかとディナー行ってくれるだけで本当にありがたいよ。昼間にナンパしてきた女性にイカ臭いって言われてから自信というか喪失感とかいうか、なにかしらを失っているからね。


 勇者パーティが仲良くしてくれるだけで、俺はもう、この人達とずっと一緒にいようって気になるよね。よもやモブ姉さんよ。改めて勇者パーティというありがたい存在の意義に気が付させてくれてありがとうと礼を言いたいよ。


「あ、ローラ。飲むのも良いけど、このタコ料理美味しいぞ」

「タコか……。タコはルナちゃんの彼氏だからねぇ」

「おい。本人の前で言ったら消されるぞ」

「にゃははー。そだねー。気を付けないと」


 多分、気を付ける気はないだろう言い方をすると、彼女はひな鳥みたいに口を開けて待機する。


「あ~ん」


 なるほど。所謂あ~んをご所望か。


 いつもなら普通にあ~んをするところ、今日は昼間の件もある。


「ローラ。全力でいかせてもらう」

「全力ってなに!?」

「ああああああんんんんんん!!」

「なんか怖いんだけど!」


 イケボを意識してローラの口にタコ料理を突っ込んだ。


「もぐっ……」


 俺の誠心誠意込めたああああああんんんんんん!! を普通に食べるローラは、ニコッと微笑んだ。


「ふふ。美味しいね」

「だろ?」

「じゃあ、次はあたしがしてあげるよ」


 そう言ってローラが俺の口元にタコ料理を持ってくる。


 流石は元お嬢様だけあって、口調とは裏腹に食器の使い方が上品である。


 その上品にあ~んされるタコを食べた瞬間、泣けてきた。


「リッタくん?」

「相手がタコなら……臭くなかったのかな……」

「なんの話し」

「こっちの話しだ……」


 ぐすんと鼻を鳴らしていると「あ……」と珍しく若い男性の声が聞こえてくる。


「朝のお嬢さん」

「あ、朝のタコ貸してくれたお兄さんだ」


 声をかけてくれたのはハチマキを巻いた細見のお兄さん。


 若い男は珍しいので、顔もばっちり覚えている。


「早速来てくれて嬉しいよ」

「ここってお兄さんの店だったんだ。偶然だね」

「あ、そ、そうだよな。偶然か……あはは」


 彼は頭をかいて恥ずかしそうにしていた。


「あ、俺はエシオ・オールコック。お嬢さんは?」

「あたしはローラ・ヴァレリーだよ。よろしくねー」

「ローラ……。素敵な名前だな」


 こりゃ完璧なる一目惚れだな。


 目が恋する男子になってやがる。


 彼の目を見ていると、エシオと名乗った若者はこちらに視線を向けた。


「ええっと……彼は?」

「リッタ・フィリップです」

「あ、そっすか……」


 お前の名前など聞いていないと言わんとす反応が少し寂しかった。


 まぁ、彼の聞きたいことはわかる。


「その、彼氏……っすか?」

「えー。あたし達そう見えるのかなぁ。にゃはは」


 ローラは少し嬉しそうにしており、満更でもないと言った反応。


 その反応に便乗して、ここで彼氏と嘘を言って、ローラに変な虫が寄って来るのを防ぐことはできるだろう。


 ただ、そうなると後がややこしくなる。ルナ、フレデリカ、エリスがなにをするかわからないからな。


 その場しのぎの嘘は後がしんどい。


「いえ。彼女とお付き合いはしていませんよ」


 ここは正直なことを言っておこう。


「そうなんだけどさ。なんかそう言われると悲しくなるよ」


 ローラは口を尖らせて少しだけ拗ねていた。


「だ、だったら俺がローラさんを誘っても文句ないっすよね?」


 凄い食い気味で俺に言ってくる。


 この人、今仕事中じゃないのか?


 こりゃあれだ。恋すると周りが見えなくなる系の男子だな。


 今のご時世なら、若い男はもてはやされるから良いかも知れないが、ひと昔前なら確実に嫌われる系だぞ。


「にゃははー。モテる女は辛いですなー」


 ローラもローラで、このご時世で若い男から言い寄られるなんて、よっぽどの美人でないとあり得ない。


 つまり、絶世の美女とうわけだ。


「それは……」


 本人と話し合ってください。


 そう言おうとして止まる。


 急にセリフを変えようとしたので、別に睨む必要性はないのだが、キッと彼を睨んでしまった。


「今、あなたは業務中ではありませんか? 業務の最中に女性をデートに誘うなんて非常識ではありませんか?」

「お言葉ですが、俺の仕事はもう終わっていまして、今は勤務時間外です。プライベートなのであなたに言われる筋合いはありません」


 絶対嘘やん。


 なんで自分の店に客がわんさかいるのに仕事終わってるねん。


 え? なに? 笑かしてきてるの? 俺を一旦笑わせて場を和ましてからローラを改めてデートに誘う──感じじゃないね。その睨み方は間違った肉食系男子だよ。草食系男子が肉食系に頑張ってなろうとしている感じがぬぐえないよ。


「今の言い方は俺がローラさんをデートに誘うのを拒む言い方に聞こえましたが……。あなたはローラさんの他に綺麗な女性と一緒でしたよね?」


 若い男性が珍しいと思ったのは相手も同じか。


 どうやらあちらさんも俺の顔を覚えていたみたいだな。


「他の女がいるのに、どうして俺がローラさんを誘うのを拒むのか理解に苦しみます」


 遠回しが効かないエセ肉食系には真正面から言ってやるか。


 俺は立ち上がりローラの手を差し伸べる。


「え……」


 少し驚いた顔をした彼女だが、すぐに手を取ってくれて立ち上がってくれる。


 そんな彼女の肩を抱いて言い放つ。


「この人は俺の大事な人だ。彼女とか許嫁とかじゃない。だけど大事なパートナーだ。誰にも渡さない」

「リッタ……くん……」


 そう言うと彼は、ふぅと大きく息を吐くと、睨むのをやめた。


「そう……ですか。大事な……。まぁそんな感じはしましたが……」


 小さく言ったあとに柔らかい顔をする。


「ですが、それで諦めるほど素直な人間ではありませんので。また俺はローラさんをデートに誘います。では、俺は業務に戻りますので」


 やっぱり嘘やったやん。仕事中やん。あかんやん。仕事中に女の子口説いたらあかんやん。


 まぁでも恋は盲目。


 なにがなんでも手にしたいというのは男の性なのかもしれないな。


「美人過ぎるのも考え物だな。昔の美人達はこんなんばっかりだったのかね」


 軽く言ったつもりだったのだが、ローラが小刻みに震えていた。


「ローラ?」

「や。あの、その……」


 珍しく顔を赤くしている。


「あ、ごめん。いやだった?」

「いや、じゃない。このままが良いんだけど……その……いきなりあの時と全く同じセリフ言うから……あの頃の弱いあたしに戻ったというか……」


 ぶつぶつと呟いている彼女がらしくないので、俺の心に悪戯という悪魔があらわれる。


「弱くなんてない。あの時からお嬢様はお強いお方ですよ」

「も、もう……リッタくんのばか……」


 そう言うと、軽くぽこっと叩かれる。


「あはは。懐かしいね」

「掘り返さないでよ」

「今日はその設定でいく?」

「いかない! いかないから! ああ、もう!」


 言いながらローラは酒を一気に煽った。


「今日は飲むから! リッタくんも付き合ってもらうからね!」

「お付き合いさせていただきます。お嬢様」

「がああ! やーめーろー!」


 終始そんなノリでローラと楽しい時間を過ごした。

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― 新着の感想 ―
[一言] これは本当にルナの彼氏を食べてしまったかもしれない… なむなむ。
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