第21話 勇者パーティだけ。優しいの
うふふふー。
あはははー。
えへへへー。
浜辺の水着美女が出す声というのは、こんな感じではなかろうか。
しかし、実際は……。
「おりゃ!」
「そりゃ!」
「どりゃ!」
激しい声の出し合いと同時にキラーパスが炸裂している。
ルールではキラーパスはアウトということだったが、ルールを制定した妖精王は脱落している。
俺の横で鼻血を出して、砂に埋められている。
埋められている付近には『尻軽』とか『尻癖』とかなかなかにえぐい言葉が書かれているが『尻上り』と書いたフレデリカの意図は読めない。なんで後半から調子が上がるのだろうか。
あと、胸の辺りに大きな山を生成されており、貧乳のエリスにはよく効くだろう。
これが1番の罰ゲームではないだろうか……。
しかし、3人の勇者の決着がなかなかに着かない。
ローラが圧倒的に有利と思ったのだがそうでもないみたいだ、
身体能力の高さは同じくらいってことなのだろうか。
「きゃああああああ!」
くだらないことを考えていると悲鳴が聞こえてきた。
それに続いて。
「うわああああああ!」
「魔物だああああああ!」
「魔物!?」
ここは安全な場所のはず。こんなところに魔物なんて……。
いや、そんなことを考えるとは後だ。
俺は体を起き上がらせて声の方を見る。
「なんだ……巨大な……イカ……?」
そこには巨大なイカが、クネクネとしていた。
その足には誰かが巻き付かれているのが伺えた。
「やばいな。みんなっ!」
俺は遊んでいる勇者3人に声をかけた。
「セイクリッド・シュート!」
「灼熱超頭蹴!」
「『ウルティム・パス』」
「あかん!」
勇者パーティなのに魔物に気が付いていない。遊ぶのに必死で独自の必殺技を付けて遊んでる!
「エリス!」
は、チーンとお亡くなりになっているし、どうなってんだ勇者パーティ。傲慢が過ぎるぞ。
「た、たすけ……!」
「くっ……俺が行くしかない!」
俺は魔物の方へと駆けだした。
「どうしてこの浜辺に……」
「安全じゃないの!?」
「魔王軍の手がここまで?」
走りながら、絶望に打ちひしがられている民衆の声を聞きいてしまう。
このままではパニックになる。
速攻で終わらしてやる。
『アッパーコンパチブル』
スキルを使用して巨大イカのつぶらな瞳を見つめた。
ちょっと可愛いとか思ってしまった自分がもどかしいが、巨大イカの能力を得た。
「誰かっ! た、すけてっ!」
「今、行くぞ!」
クネクネクネクネ。
あ、なに、この感じ。ちょっと良い。
イカの能力を手に入れたので体が柔らかい。
そんな感じで巨大イカに巻き付かれている人のところに向かう。
「きゃああああああ! それはそれで、きゃああああああ!」
助けに向かおうとしたら、巻き付かれている人が俺を見て叫んだ。
「まともな人! まともな人来てええええええ!」
まともな人? 俺が来ているだろう。
そうか……。巻き付かれている人がパニックになっているんだな。
早く助けないとだめだ。
『イカ炭ブラスター』
口から黒い液体を出してイカにぶつける。
「ぎゃあああああ! きもい! きもいよおおおおおお!」
イカの断末魔ではなく、泣き叫ぶ巻きつかれた人。
なぜだ? なぜあの人が叫んでいる。これが極限のパニックか?
『イカ鞭の舞』
俺は2本の腕をしならせて、巻き付いているイカの足を攻撃した。
『きゅりえええええ』
独特の鳴き声を出すと巨大なイカは巻き付くのをやめて、人を離した。
そして、急いで海深くまで逃げて行ってしまった。
もしかしたらそこまで悪い魔物ではなく、ただの迷子だったのかも知れないな。
それはさておきとして。
離された人は宙から落ちてくるので、俺はその人をキャッチする。
「うう……」
「大丈夫か? って、さっきの……」
その人はさっき俺をナンパした1人の女性だった。
「あ、あ……」
俺を見るなり、口をパクパクしている様子。
「礼ならいらない。俺は当たり前のことをしただけさ」
「当たり前……?」
そう小さく言うと、すかさずビンタが飛んでくる。
「イカくせーんだよ! イカに巻き付かれて叫んでる私をおかずに海でシコッてんじゃねぇよ! そんなもんイケメンだろうが普通に引くわ!」
ええええええ!?
「けっ」
そう言って綺麗めのお姉さんは去って行った。
「うわーん。こわきもかったよぉ!」
「大丈夫?」
「あれはきもかったね」
「本当に人間か? 魔物の亜種じゃ……」
ひそひそと俺を見る目が怖い……。
若い男ならなんでも許されるんじゃないの? 流石にイカはだめなの? 勇者パーティが傲慢って言ったけど、俺が傲慢なの?
せっかく助けたのに……。つらたん……。
「うう……。海でシコるとかないだろ……。シコるならベッドだっての……。くっ、う、うっ」
アッパーコンパチブル。
イカにはもう二度と使わない……。
トボトボと職を失った人のように勇者パーティが遊んでいる所まで戻ると、もう勝負が付いたのかボール遊びをやめていた。
俺が戻って来たのに気が付いて4人が駆け寄ってくれる。
「リッタ様。いきなりいなくなるから探しましたよ!」
「リッタくん! あたしを置いてどっか行くなんてだめだよ!」
「リッタ。心配した」
「リッタ。どこか行くならちゃんと行ってから行きなさい」
4人はいつも通りに優しい言葉を発してくれる。
俺は俯いたまま小さく尋ねた。
「俺って……イカ臭い……かな……」
こちらの質問に4人は顔を見合わせて首を傾げたが、すぐに返事をしてくれる。
「そんなことありませんし、思ったこともありません」
「そうそう。仮にそうだとして、どうだって言うんだよ」
「そんなの関係ない」
「わたし達はリッタと一緒よ」
「うっ……うう……みんな……」
ガシっ。
俺の居場所はここだけなのかもしれない。
世間との溝が深まり、いつも優しい勇者パーティとの絆が深まった。




