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ドレス


 

 


「お嬢様! 時間かかりすぎですよ! 遅刻も遅刻、大遅刻ですよ!」


 

翌朝、王宮の、庭を全速力で駆け抜けながら、フィローラ皇女の待つ部屋に向かっていた。


「分かってるわよ、時間が過ぎてることくらい!」

「大体お嬢様は大袈裟に狩りすぎなんですよ」

「しようがないでしょう! 選べる駒は多い方がいいし!」



 昨日、バタバタしていたおかげで、『狩猟大会』の目的を忘れていた私は、朝一番に昨日の獲物の管理をしているアーレンドさんのところに行き、私の狩った魔物の魔石を受け取るはめとなった。


 張り切って狩りすぎたせいか、集めた魔石の中から『私の瞳の色』と同じ物を探すのに時間がかかった。


 私が狩った魔物の魔石は赤みや黄色味を帯びた茶色の魔石を持つ魔物に限定していたので、レオンが取りに行ったら、私が考えていたことがバレるかもしれないと思って、明日にすると言ったのだ。


「大体、全部自分で見るから分からないんですよ。魔石を受け取った時点でさっさと相談に来てください!」

「だって、これかな? って思ったら『こんなにキラキラしてない』って思われるのも恥ずかしいじゃない」


「変なところで恥ずかしがらないで下さい! ルーイさんにも迷惑かけて、めちゃめちゃ急がせて! 特別手当お渡ししてくださいよ!」

「分かってるわよ!」


 そんなやり取りをしながら、王宮にあるフィローラ皇女の待つ来賓客用の建物に向かって必死に走った。

 




 

「遅いわよ! また結婚式をダメにする気⁉︎」 


 いつもの凜としたフィローラ皇女はどこへやら、ドアを開けた瞬間、怒声が飛んできた。


 迫力美人が怒った時の怖さは、常人の比ではない。


「ご、ごめんなさ……。ちょっと所用……」

「いやぁぁあ! 汗もこんなにかいて! 髪も乱れて! 風呂係! 洗髪係!」

「「はい‼︎」」


 まるで、物語に出てくる魔王でも目の前に現れたかのような、恐怖に引き攣ったフィローラ皇女が叫ぶと、私は浴室に連行されていった。


「メイク係! 着付けと同時進行でやって! ドレスも早く微調整しましょう」


 そう言って、「縫製スタッフ」「美容スタッフ」に取り囲まれ、少しでも動こうものなら子どもの様に「じっとなさい!」と怒られる始末。


「ふぅ。あとはアクセサリーだけね」


 そう言って、フィローラ皇女が少し遅れて王宮に来ていたルーイさんの処に行くと、私も思わず肩の力が抜けた。


「訓練よりキツいわ……」


 思わずそう呟くと、横からふふふと笑う声が聞こえ、視線を移すと、そこにはフィローラ皇女の侍女長が微笑んでいた。


「昨日から殿下は貴方が来られるのをずっと楽しみにしてらしたんですよ」

「楽しみ……ですか」

「ええ、殿下はいつも気を張ってらして、国でもこちらに来ても休まる時なんてございませんでした。でも、昨日貴方がニコラス様に『所詮女と罵った女がどれほどのものか、指を咥えて見てろ』とおっしゃたでしょう? それで火がついたみたいです」


「火……ですか」


「ええ、国に帰ったら『目にもの見せてやる』そうですわ」


 くすくすと楽しそうに笑う侍女長に私も思わず笑ってしまった。




「さぁ、これをつけて完成ですよ」


 そう言ってルーイさんがパールのアクセサリーを首元につけてくれた。


「ふふ、完璧だわ」


「完璧ですね」


 満足げにキラキラと目を輝かすフィローラ皇女とリタの二人に対して、フィローラ皇女の部屋の真ん中で、みんなから完成の拍手をいただく私はぐったりだ。


「ティツィアーノ様、ところで本当に歪んでしまった白金の飾りは修理しなくてよろしいのですか? ベイリーツ宝飾店に戻ればお直しできますが」


 眉根を寄せて遠慮がちに言ったルーイさんに「良いんです」と笑顔で返す。


「あれは、私への戒めとして残しておきます」


「戒め……ですか?」


「はい、私はすぐに体が動いてしまうので……、あれを見て一回立ち止まれるように、無謀な事をしないように」


 もう単なる騎士ではなく、公爵夫人として正しい道が選べるように。


 家族や領民を、守る為にも。


「……では、お嬢様参りましょうか」

「そうね」


 そう言ってドアに向かうと進路を塞ぐように私の前にリタが立ち塞がった。


「お出口はあちらです」


 満面の笑みでリタが示した先は『ドア』ではなく、『窓』だ。


「は?」


「時間がありませんから。挙式の時刻は過ぎております」


 私の手をとり、「ささ、どうぞ」と窓に連れてこられ、その視線の先には……。



「ねぇ、リタ? ……本気?」

「ええ、急いでますから」


 そう言って、リタが窓を大きく開ける。


 開いた窓から風が吹き込み、ふわりとヴェールが舞い上がった。


「お嬢様らしいでしょう?」


 リタはそう言って笑顔で窓から私を突き落と……送り出した。






 

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