舞踏会 2
「嗚呼、美しい人。」
「……はい?」
あまりの予想外の言葉に思考も動きも停止する。
「貴方のあまりの美しさに居ても立っても居られず、自分の部屋から飛び出してしまいました。」
そう言って切なそうに私を見上げて、彼自慢の顔に満面の笑みを広げる。
やっぱり謹慎中だったんじゃない……。
そう思いながら跪く彼を見下ろす。
「はじめまして、私はこの国の第一王子、アントニオ=エリデンブルグと申します。この国でお見かけしたことのない方ですが、今回の舞踏会に招かれたルミラ公国の姫君でしょうか、それともウィリア帝国の姫君でいらっしゃいますか?」
「………………。」
いや、お前、ホントどうした?
会話をすることすら煩わしく、彼の顔面に苛立ちを隠しきれない。
「姫君、どうか恥ずかしがらずお名前を教えて下さい。そして貴方の声をお聞かせ頂けないでしょうか。」
恥ずかしがってないから、嫌がってるから。
姫君じゃないし。
ねぇ。空気読めない?
読めないよね。
「殿下……。」
思わずため息と共に呆れ果てた声が出た。
一度ならず二度までも…ちょっと化粧をしたぐらいで分からないとは。
「あぁ、まるで小鳥の囀りの様な、鈴を転がした様な素敵な……のわっ!?」
そこまで言ったところで、彼が後方に……広間の軽食が置かれたテーブルに吹っ飛んだ。
「クソ王子が……。」
レオンが背後から彼の肩を掴み、後ろに投げ飛ばしたのだ。
恐らく没収されたであろう魔石を付けていないアントニオ王子は、投げつけられた後方のテーブルから痛そうにしながら顔を上げた。
「何をするんだ!レグルス公爵!!」
「殺す。」
ドス黒い怒りを纏いながら彼にそう吐き捨てる。
「よし、許可する!」
と、母がレオンの背後から発言を後押しした。
「なんで貴様が許可をするんだ。関係ないだろう!!」
そう怒りをあらわに壊れたテーブルから這い出て来た。
「大体レグルス公爵もいきなり何なんだ!貴様は野ザルの面倒を……。」
「野ザルで悪かったですね。」
「…………ん?」
進み出た私の顔をじっと見つめ、頭の先から爪先まで数回往復する。
みるみる顔色が悪くなり、まさかと口を開く。
「お、お前……まさか…ティツィアーノ……?」
「そうですが、殿下。もう婚約者でもないので呼び捨てはやめていただけますか?」
冷ややかな視線でそう告げると、彼はグッと顎をひき、私とレオンを交互に見ると、悔しそうに彼を睨みつけた。
ねぇ、なんなの!?
イラッとしながら、彼の視線に耐えていると、レオンがスッと私を庇う様に彼のマントで、私を隠した。
その瞬間また会場から御令嬢達の悲鳴があがる。
彼の香りにふわりと包まれ、思わず顔に熱が集まった。
「殿下。私の婚約者に不躾な視線を向けるのをやめて頂こう。それから、先程の暴言に対して謝罪を求めます。」
アントニオ王子にバンバン殺気を当てながらレオンが言うと、更にアントニオ王子がレオンに睨み返す。
「何の騒ぎだ。」
集まった人垣が割れた先には、国王陛下が立っていた。
その後ろには王妃様に、第二王子も一緒にいる。
「父上……。」
思わずアントニオ王子が安堵の声を漏らす。
「またお前か、アントニオ。謹慎しておくよう言ったはずだが。」
諦めとも、呆れとも取れないため息と共に息子を見る。
その目にはもう怒る気力もないというところだ。
「父上、私は嵌められたのです!!マリエンヌがあんな女だなんて知らず。魔石も身の危険を感じているから貸してほしいと言ったから渡したのです……。」
「それ以上喋るな!!!恥晒しが!!!」
あまりの怒りに、陛下の声がホール全体に響き渡る。
「は……恥晒しというなら、ティツィアーノを国境騎士団長に任命したサルヴィリオ家や、それを許可した父上は何なのです!!」
は?
私?
「何を言っておる?とうとう気が触れたか?」
陛下は怪訝そうにアントニオ王子に聞き返した。
「僕にすら毎回稽古で簡単に負けるティツィアーノを、国境警備の要に?その判断こそが恥ずかしいとお思いになりませんか!?それに、ティツィアーノとレグルス公爵の結婚が上手くいけば僕の王位継承権剥奪は無かったことにと約束したのに、陛下ともあろうお方が反故にするおつもりですか!!??」
顔を真っ赤にして、陛下に噛み付く。
「……陛下。私から殿下に前者に関してご説明しても?」
レオンのマントから抜け出し、そう言って進み出る。陛下は一瞬思案した後「思うようにして構わん。」と言った。
アントニオ王子の前に立ち、彼を見下ろす。
「殿下。いつも稽古や模擬戦で貴方に負けていたのは本当に実力だとお思いでしたか?」
「何だと?」
ピクリと眉根を寄せ、訝しげに言った。
「だって、貴方は負けると周りに当たり散らすでしょう?その姿がみっともなくて、見てると気分が悪くなるんです。だから態と負けていたんですよ。」
「はっ。そんなの負けた言い訳だろう?」
すると、リタがスッと剣を差し出した。
空気読むのが上手すぎよ。
そう思いながらその剣をアントニオ殿下に差し出す。
「戦りますか?」
「いいだろう。」
口元に笑みを浮かべて彼は剣を受けとった。
テトが私の黒龍の剣を持ってきたので受けとると、それを見たアントニオ王子が過剰反応を示した。
「ちょっと待て!!それは卑怯だろう!!黒龍の剣で戦うなど恥を知れ!」
お前にだけは言われたくない!と思いながらそれを差し出した。
「使いますか?」
「何だと?」
「でも、これは繊細な魔力操作が求められますから、殿下には扱えないと思いますけど。」
わざとらしく心配なふりをして言うと、ぎりっと歯軋りをして、強引に剣を取った。
「操作を誤ると、暴発しますよ。」
そう忠告するも、
「ふん、魔力操作など容易いわ。お前に出来て俺様に出来ない事はない。」
そう言って剣を抜いた。
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