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争う二人

「ティツィ!!無事か!!」


「公爵様……??」


私を抱きしめる公爵様の腕が温かい。

幻聴でも、幻覚でもない。


思わず視界が滲む。

 

「無茶をして……。」


そう覗き込んでくる公爵様の顔面凶器に一瞬呼吸が止まる。

こんな直近で見つめられて、呼吸の止まらない女性はいないだろう。


「ティツィ……?」

 

吐息まじりに言いながら、私を見つめる公爵様は心配そうな瞳から、怒りの色を宿していく。


「ティツィ……。こんな……こんなに怪我を……。セルシオ!!回復魔法を使える者を呼べ!」


青ざめて震える彼は、……綺麗な顔から血の気が引き、目を見開いている。


「あ、あの。私は大丈……。」


「お嬢様!!ご無事ですか!」


声のした方に目をやると、母に、父。リタやテト、騎士団のみんなが来ていた。

リタが真っ青になって駆け寄ってきた。


「あぁ……こんなに……ひどい怪我を。血もこんなに……。」


リタが目に涙を溜めながら回復魔法をかけてくれているが、その後ろから私を凝視する母の顔が怖い。さらにその上をいく怖さでリタの治療を凝視する公爵様も怖い。


 


もう、ただただ、怖い。



公爵様はくるりと振り返り、ベルタ騎士団長に対峙した。


「貴様か。リトリアーノ騎士団長、ベレオ……。」


「……否定はしない。」


ベレオ団長は静かにそう言った。

モンテーノ男爵のことは言う必要はないと判断したのだろう。今からの戦いを心待ちにしている様に見える。



「……消しクズにしてやる……。」


腹の底から搾り出したような、暗い、澱んだ声で公爵様が言った。


「……これはこれは、氷の公爵とは思えない感情の揺れ方ですね。」


「おい、待て。レグルス公爵。ここは私に譲れ。私がミンチにしてやる。」


そう言いながら母がベレオ団長よりさらに大きな大剣を抜きながら言った。


「お断りします。サリエ殿。彼は私の獲物です。」


「下がれ、レグルスの小僧。私の可愛いティツィを傷つけた報いを受けさせてやる。」


「それは私の言葉です。ティツィの柔肌を傷つけ、血を流させたこと。後悔する間も無くあの世へ送り届けてやります。」


 


いや、今そこで小競り合いしてる状況じゃなくない?


っていうか、なんか恥ずかしい単語並べ立てるのやめてもらえません?



「えー……。私は誰と戦えばいいんですかね?」


べレオ団長が呆れたように揉める二人に言った。


その時、空気を壊すようにパンパンと手を叩く音が響いた。


「はーい。じゃあ、これにて僕たちは国に帰りまーす。」


「何を仰るんですか!カミラ王子!!」


場の雰囲気に合わない、のほほんとした顔と口調で現れたカミラ皇子にベレオ団長が駆け寄った。


「えーだってさ、さっき斥候から主要道路が石やら木で塞がれて進行に時間がかかるって言うしさ、サルヴィリオ=サリエと、レグルス=レオンがいたんじゃどう考えても勝ち目ないよ。ベルタは強いヤツと戦いたいかもしれないけど、分かってるだろ?武器庫も、食糧庫ももう目も当てられない状況だし。」


 メリルさん達は間に合ったようでホッとする。相手の戦意を喪失させるだけでこちらの勝利は頂いたようなものだ。


「カミラ殿下、ここまでの事をしておいて簡単に国に帰れるとお思いか?」


公爵様はカミラ王子に剣を向け、仄暗い瞳で王子を見た。

 

「そうだね。じゃあ取引をしよう。そっちの王子からもらった魔石、三つ全部返そうじゃないか。」


「三つ!?」

 

あのバカはそんなに渡していたのかと呆れてしまう。

国宝である魔石はかなり高度な付与技術を要し、その効果は同じ付与をしたとしても段違いに質が高い。


防御魔法や魔力の無効化、移動魔法に治癒魔法など、どれも効果は完璧と言っていい。

 

その魔石は国の技術の粋を集めて作った王家のためだけの魔石だ。



その魔石一つで城が一つ買えるとまで言われている。



「「断る。」」


 公爵様と母の声は同時で、その場にいた全員が二人を「何で!?」という顔で見た。


「あれー?おかしいな。王家の魔石って言ったら十分取引材料になると思うんだけどなー。三つもウチに取られたなんて事になったら国の威信にも関わるでしょ?」


あれれ?とカミラ王子が首を捻る。


「王家の威信などどうでもいい。問題は貴様らがティツィを傷つけた事だ。」


カミラ王子がそう言った公爵様と、その言葉に唖然とする私を交互に見た。


「へぇ……。これはこれは。」


「その通りだ、公爵。私のかわいいティツィに血を流させた罪は己の血と命で償ってもらう。」


狂気を宿した目で口角を吊り上げる母は、全員を滅殺せんと大剣に魔力を流し込んでいる。

 

待って待って待って!!

魔石と私の怪我を、天秤にかける事がそもそもおかしいから!!

王家の威信に関わるのもそうだけど、それが争いの火種や後継者争いの、理由になりかねない。



後ろにいるセルシオさんや、ルキシオン達に、目で助けを求めるも、全員が無理だと首を振る。



「は……母上!公爵様!!魔石で手を打ちましょう!私の怪我はもうリタが治癒してくれましたし!!」


「ダメだ!!娘がこんな怪我をさせられて黙っていてやるほどお人好しではない!!だから公爵貴様は下がっていろ。」


「サリエ殿の言う通り、ティツィの痛みは死を以て償ってもらう。サリエ殿こそ、昨日から領地との往復でお疲れでしょうからお下がりください。」

 


全く聞く耳を持たない公爵様と母は、どちらが相手を殲滅するか言い争っている。



 


「………………いい加減にしてください!!」

 


 



 






 

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