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母の願い 2

「こんの、クズ王子がぁぁぁああああ!!うちの娘に何しょんならぁぁぁぁぁあああ!!」


そう言って勢いよくアントニオ王子の顔面を掴み、後方に投げ飛ばしたのは、見間違うことのない母親で……。



「貴様……、婚約時から散々ティツィをコケにしてきた挙句、どの口が!!!どの口が再婚約?!大事な娘を散々傷付けた挙句、公衆の面前で婚約破棄をし、くだらぬ自尊心を満たしたカスが……。」


まさに鬼の形相で怒り狂う母を呆然と見ることしか出来ない。


「さ、サササルヴィ……。ぶぶぶぶ……無礼な。」


もはや母の威圧に全身ガタガタと震えるアントニオ王子は見苦しい以外言葉が見つからない。


投げ飛ばされたアントニオ王子は意外に無傷だ。胸元のブローチが淡く光っているので、恐らく防御魔法を施した

魔石が発動したのだろう。


いくつか身につけているアクセサリーは国の技術の粋を集め、付与魔法を施した魔石だ。


これをつけていなければ重症……いや、即死だったのではないだろうか……。


もはや母を前にして護衛騎士など無用のものだった。


母の後ろから慌てて走ってきた副官のルキシオンがわたしたちを取り囲むように防御結界を張る。


高さ二メートル、半径三メートル程度の壁で、強度重視の為か天井は無いが、その分壁が厚い。


上空に魔力が逃げても屋敷や使用人に被害は無いだろう。


母のことを熟知している流石のルキシオンの判断に感服する。


母は、右手に異常に強力な魔力を込めながらアントニオ王子を仄暗い目で見た。



「かわいい、かわいいティツィが……今まで貴様の為にしてきた事を未だにその腐った脳みそは理解できておらんのだな。使い物にならない腐ったものなど捨ててしまえ。いや、私が廃棄処分にしてやろう。大事な娘への愚かな行為の代償は貴様の命で償え。」


か……かわいい、かわいい?

大事な娘?


信じられない言葉が思いもよらない人の口から発せられるとこんなにも思考が停止するものなのだろうか……。


青ざめて母を見つめるアントニオ王子ははたと防御壁内の後方にいた父親である国王陛下を視界に捉え、安堵の表情を見せる。


「父上!!ご覧になられましたか!?お聞きになられましたか!?サリエ=サルヴィリオが私に暴力に暴言を!!不敬罪でこの者を処罰して下さい……!!」



そう言って父親を見るアントニオ王子は折角美形に生まれた顔を醜く歪め、立場は逆転とばかりに母を見た。




その言葉に陛下が小首を傾げ、




「はて?お前は誰かな?」


と言い放った。


「…………へ?」


アントニオ王子の顔は目が落ちそうなほど大きく開かれ、口はだらしなく開いている。


「儂は、息子であるアントニオに婚約破棄による名誉を挽回したければ今回の魔物の件で別に調べることを指示しておる。ここにおるはずがなく、そんな愚かな息子などおらん。」


いや、だからこそどう考えてもお宅の息子さんでしょうよ。と、全員が陛下を見る。


「と、いうわけで。王子を騙り、屋敷に入り込み、ティツィアーノ嬢の髪を掴み乱暴に扱った其方をサリエ殿が不審者として攻めるのは当然であろう。が、殺生はいかん。殺生は。」


そう言って、そばに控える陛下の護衛騎士に向かって、


「この王子の名を騙る不届き者を引っ捕らえ、王城に連れて帰り、取り調べよ。」


そう指示を出すと、彼らはアントニオ王子を連れて行った。

殿下は、見えなくなるまで、「俺様は本物の王子だ!!」とか、「無礼者、全員牢屋送りだ。」とか、大声で無駄な抵抗を続けていた。



そんな様子を、貴方が本物ということくらい全員分かっていてこの判断ですよ。と誰もが白けた目で彼を見ていた。


不穏な殺気を感じ母を見ると、ものすごい形相で陛下を睨んでいて、思わず一歩後ずさってしまう。

その陛下は母の視線をものともせず飄々とした顔でアントニオ王子の連れて行かれた先を見ている。



「おい?まだ奴との話は終わっておらんが?このクソジ……。」


「サリエ!!!落ち着きなさい!」


「母上!落ち着いて下さい!」


陛下ににじり寄る母を父トルニアと、弟のオスカーが諌める。


「止めるな、トルニア!オスカー!!そもそもコイツがティツィをバカ息子の嫁に欲しいと言ったんだ!」



コ……コイツ??

陛下をコイツ呼ばわりする母に青ざめながらも、陛下は動じる事なく相変わらず飄々としている。



「確かに言ったが、ティツィアーノ嬢の意思を尊重すると言ったであろう?そなたも反対しなかったではないか。」


「まさか、あんなボンクラ王子の嫁になりたいなどと言う訳ないと思ったんだ。何度あのガキをシメに行こうかと思ったか。」


え??ええ??内々に決まっていた事でなく私に意見する余地があったの??


「実際王宮に乗り込んで来たではないか。」


「はっ。無駄に勘がいいのか、のらりくらり隠れていたようだがな。」


お前が隠しただろう?という目で陛下を睨みつける。


「なんにせよ、あやつの処遇はもう決まっておる。こちらに任せてもらおう。……バカ息子と話さねばならんことが山ほどじゃ……。」


飄々とした顔から諦めの表情になった陛下の声は段々と小さくなっていった。


「そなたも娘ときちんと話さねばならんことがあるんじゃないか?」


母を見ると、グッと顎を引き一瞬固まった後、ゆっくりとこちらを見た。


その目には苦悶の色が濃く、私の胸を苦しいほどに締め付けた。



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