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母の願い 1

レイの言う通り、サルヴィリオ家が公爵家に進捗状況の確認に来た。


昨日帰宅してリタに母が来るので話をすると言うと、朝早くからリタがリリアン様から教えてもらったという私に似合う最新のメイクをして、


「これで完全武装です。お嬢様には分からないかもしれませんが、化粧は女の武器です。」


そう言って念入りに化粧をしてくれた、手は込んでいるが、色味などを控えめにされた私に似合うと言う「ナチュラルメイク」とやらは少し大人っぽく見えた。


二階の窓から父や母、弟に続き数人の騎士が案内されるのを見ていると、その後ろから王家の馬車もやって来た。

国の守りである二領を引っ掻き回そうとする問題は当然王家も看過できないと言うことだろう。


馬車から出て来たのは陛下だけで、会いたくない元婚約者はいないようだった。


こっそり裏庭掃除のふりをして、話の内容を聞きに庭に出るも、公爵様の書斎は結界が張ってあり、防音効果も高いようで全く話が聞き取れなかった。


こうなったら、公爵家の人たちにバレないように会うにはギリギリの距離から母が出てくるのを待つしかない。

どこかのタイミングで一人になったところで声をかけるか、ダメなら屋敷を出たところで馬車を止めよう。


そうして必ず通るであろう庭園の中廊下の茂みで、一定の距離を保ちつつ、掃除のふりをしながら様子を窺っていた。


しばらく経つと公爵様とセルシオさんだけが出てきて、部屋の中の人間に「では、調査結果が分かり次第ご報告します。」と言って会釈をし足早に出ていった。


現場調査でもいくのだろうか?


その後は誰も出てこない。

自分の心音がどくどくと聞こえ、足もすくんでいるが、このチャンスを活かさなければ私は成長できない。

全てのことから逃げる癖がついてしまうだろう。


……今までがそうだったように。


母はいつ出てくるのかとあまりに集中しすぎたのか、緊張しすぎたのか、不覚にも『奴』が近くに来るまで気づかなかった。


覚えのある不快な香水の匂いがしたかと思うと、後方から横柄で、不機嫌そうな声で話しかけられた。



「おい、そこの女。公爵の執務室はどこだ。」





何故、アントニオ王子がここに!?


先ほど王家の馬車には乗っていなかったはずなのに!!


「ん?なんだ貴様、自国の王太子も分からんのか?俺はこの国の王位継承権第一位のアントニオだ。」


ドヤー!!!と書かれていてもおかしくない顔面をぶん殴りたくなる衝動を抑え。どうやら一人称の『俺様』は止めたんだなと思いながら、目元が隠れるよう俯き挨拶の礼をとる。彼の後方には三人の護衛騎士もいる。


主人の横暴を止めるそぶりのない彼らは、ただただ王子に付き従うだけだ。


「ここの執事とやらに、今は重要な話をしているから待てと言われて待ったんだが、俺は急いでるんだ。案内しろ。」


つまり恐らく案内されたであろう別室から勝手に出てきて屋敷をうろついているという事だろう。


「もちろん存じ上げております。アントニオ=エリデンブルグ王子殿下。今公爵様はお出掛けになられましたが、執務室に向かわれますか?」


「当然だ。公爵に会うのがメインじゃない。俺の王位継承権のことで父上に至急聞きたいことがあったんだ。」


 

いや、王宮で聞けよ。


思わず心でそうツッコんでしまう。


 

そりゃぁ、誰も執務室に案内しないはずだ。

継承権のことなんて重要な事人ん家で聞かなきゃいけない訳?

常識なさすぎでしょうよ?


「左様でございますか。公爵様の執務室には、陛下もサルヴィリオ家の皆様もいらっしゃいます。ただ……」


待った方がいいと話を続けようとした私の言葉をぶった斬って、


「そうか。ではその部屋に行って、俺が来たからと言ってサルヴィリオ家は部屋から出せ。陛下と二人で話がしたいから邪魔だ。」


と、まさに世界の中心は俺様だという揺るぎない自信に不快感がマックスまで上がる。


突然他人の家に来て、自分の都合で来客を追い出せとは何事か。

しかも多忙な陛下が直々に現場の様子を見に来ているというのに。

本来なら公爵家や伯爵家が王宮で報告するのが通常だというのに、事が事だけに公爵領に足を運んでいらっしゃるのだ。


というか、アントニオ王子は私の家族が苦手だ。

俺様王子の癖に、母には絶対に近寄ろうともしない。


だから自分では追い出す自信がないから私に言ったのだろう。

「皆様、重大なお話をされていらっしゃるので、お話を終えられるまでお待ち頂くのがよろしいかと思います。」


「……っき、貴様。メイドの分際で俺を誰だと思っている!!」


彼の魔力がゆらりと揺れるのが分かる。


王宮では誰も彼に逆らわない。

すぐ感情的になって権力と暴力に訴えるからだ。


王家の人間は総じて魔力が強い。


けれども彼は自身の魔力のコントロールや、鍛錬を行わない。

強大さが、強さが全てだと思っている。


単調な大きな魔力の塊をぶつけるしか能がない。


避けるのも簡単だし、弱い魔力でも、コントロール次第で受け流すのも簡単だ。


「メイドの分際で俺様に意見するとは……死にたいのか?」


あ、感情的になると『俺様』に戻るのね。


そう冷めた思いで彼の言葉を聞いていた。

こちらから彼を押さえ込むのは得策ではない。

騒ぎになって執務室にいる人たちに気づかれたくない。


ここと反対方向の違う部屋に案内しようかと思っていると、


「……ん?貴様。どこかで見たことが……。」


腐っても元婚約者だ。


そもそも髪型と雰囲気が少し変わったからと言って、一眼見た時点で気づくのが当たり前だと思うが、腐っているからしようがない。

でも、ここでバレたく無いので、俯き加減で「いいえ、初めてお目にかかります。」と言った瞬間。


「ティツィアーノではないか!!」


彼の表情が愉悦で醜く歪んだ。


「なんだ貴様、ここにいる事にも驚いたが、色気付いているのか?化粧なんぞしよって。」


ぎくりとした瞬間、彼の手を避けることができなかった。


前髪ごと髪の毛を掴まれ顔を上に上げさせられる。

抵抗すれば彼は騒ぎ出すだろう。


後ろの護衛騎士達は微動だにせず、成り行きを見守っている。


なすがままに、上を向かされ彼を睨みつけた。


「なんだ?愛する男の元へ行ったと聞いていたが、俺様がここに来るのを待っていたのか?そんなに恋しかったか?」


吐き気のする言葉とともに、理解できない思考回路に嫌悪感しか無い。


「そうかそうか、それならもう一度婚約をしようではないか。レグルス公爵より、俺様の方が若くカッコイイから忘れられなかったんだろう?俺が継承権を失うくらいなら第二妃でも耐えられるとマリエンヌは目に涙を堪えながら健気な事を言ってくれたからな。」


やっぱり私との婚約破棄で継承権を失ったようだ。


何が王位継承権第一位だ。



思わず小さな笑いが溢れる。


「どうせ、公爵に嫁いでも猿なんぞ相手にもしないだろうさ。潔く俺の元へ戻ってこい。」


勝ち誇った顔で彼が言った瞬間、後方でドアの開く音が聞こえ、何かがすごい勢いでこちらに向かってきた。




「こんの、クズ王子があぁぁぁ!ウチの娘になにしょるんならぁぁぁぁああああ!!」


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