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太陽のタッセル 2

やはり、彼女には思い人がいた……。

あのタッセルを握りしめて、少し頬を染めたのを見れば一目瞭然だ。


騎士という事までは絞れた。


七歳の時に作ったという事は恐らくサルヴィリオ騎士団の誰かだとは思うが、可能性が高いのはサルヴィリオ騎士団副団長だ。


ならば、ここには何をしに来たのか。彼女の言う『愛する人の為』とは…。


今現状でリリアンや使用人達から得られる情報はない。彼女の目的は直接聞くのが一番だ。


ふと部屋の鏡を見るとそこには見慣れない茶髪に、平凡な青色の目の男が見返している。


この姿なら彼女は警戒を解いて話をしてくれるだろうか……。


その時執務室のノック音がした。


マジックアイテムの銀の指輪を外して、机の引き出しに収める。


「どうぞ。」


そう促せば、アンノと、リタ……そして、先程彼女と一緒にいたリタに似た男もいた。その後ろから執事とセルシオも一緒に入ってくる。


「公爵様、先ほどの魔物の件でお伺いしたのですが……。」


「ああ、それならアンノと一緒にいたウチの諜報員から話は聞いている。……アンノ。」


「はい。」



「先ほどの諜報員と一緒に情報収集をしてもらえるかな?」


「私がですか?」


彼女が協力しないはずがない。



「彼の話だと、彼らは我が公爵領を撹乱し、この国に付け入る隙を狙っていると聞いた。そしてそれをサルヴィリオ伯爵家の仕業に見せかけ、公爵家と伯爵家の関係に亀裂を入れることと聞いたが。」


「はい、そうです。」


「であれば、サルヴィリオ領から来ている君たちに疑いの目を向けられるのを、黙って見ているかい?」


「いえ、調査に加えていただけるなら喜んでそうさせていただきます。」


誇り高い彼女は自ら潔白を証明するだろう。


「ところで、……差し支えなければ先ほどの彼の名前をお伺いしてもよろしいですか?」


諜報員ということで、名前を聞くのを躊躇っているのだろう。


「彼の名前は……レイだ。」


「レイ……。」


そう呟いた彼女の表情が緩んだ。


その瞳の柔らかな色に思わず自分に嫉妬しそうになる。


「公爵閣下。僕も情報収集に混ざっていいですか?」


彼女の横に控えていたリタと顔立ちのよく似た少年が尋ねた。


「君は?」


「サルヴィリオ騎士団のティツィアーノ団長の補佐のテト=クアトロです。」


そう彼が言った言葉にティツィアーノがほんの僅か……よく見てないと気づかない程度にピクリと反応した。

彼女は結婚式の前日に騎士団長としての退任式を済ませているはずだ。

後任が決まるまで、サリエ=サルヴィリオが兼任するはずだ。


――――――団長補佐ね……。


何が言いたいのか。

結婚していない以上彼女はサルヴィリオ家のものだと言いたいのか……。


挑発に乗るつもりはない。

ここで、余計なことを言わすつもりもない。


「では、テトとやら。君にはサルヴィリオ伯爵への連絡係として動いてもらおう。団長補佐になるくらいだから伯爵家からの信頼も厚いだろう。早期解決の為、伯爵領内でも不穏な動きがないか、あちらからも情報を共有してほしい。」


「……了解しました。」


ティツィアーノと一緒の情報収集ではない役割が不満だったのだろうか、少し不服そうな顔をしたが、「では、早速戻って現在の情報を伝えて来てほしい。」と退室を促すと、最低限の礼を執り部屋を出ていった。


彼もティツィアーノに心酔している一人だろうか。

テトは何かしらの対抗心を含んだ目でこちらを見ていた。

このまま、彼女と共に行動をして、サルヴィリオ家に連れて帰られる訳には行かない。


「では、アンノもリタもリリアンのところに戻ってもらって構わない。今後のことは追って連絡する。」


そう言うと彼女たちも出て行き、残ったのは副官と執事だけになった。





「――――――で、公爵様。彼女と諜報活動すると仰っていましたが仕事はどうするんですか?」


決済の必要な書類を小脇に抱えた執事が聞いてきた。


「……彼女はどうしてあんな事になっているんだ?」


「「は?」」


二人が声をそろえて素っ頓狂な声を出した。


そんなことはお構いなしに思わず頭を抱えてしまう。


「だから何故彼女が化粧をしているんだ。街で魔物を倒した後彼女が店から出てきて心臓が止まるかと思ったじゃないか。」


「いや、ティツィアーノ様のお化粧の話ではなく、わたくしは仕事の話をしているのですが……。」


半目でこちらを見る執事にイラっとしながら副官を見ると、彼の目は死んでいる。


「彼女が化粧をする必要はないだろう?彼女はそのままでも綺麗だが、化粧をした彼女のあまりの神々しさに何人の男が平伏すると思っているんだ。」


彼女の美しさを知っているのは自分だけでいい。


「公爵様。恋は盲目と申しますが…………嫉妬深い男は嫌われますよ。」


「うるさい。彼女に気づかれなければ問題ない。」


隠蔽魔法を使った時、彼女を抱きしめたまま、このまま時間が止まればいいと思った。

彼女の背中から伝わる心音に、支えた体の柔らかさ、髪から香る石鹸の香りにくらりとめまいを覚えたほどだ。


「いや、気づいていないのは彼女だけですから。……恐らくリタ殿は少し不審に思っていますよ。」


「どういう意味だ?」


「魔物騒ぎがあった時、あなたがティツィアーノ様が不審者を追うのを呆然と見つめるのを訝しげに見ていました。」


「訝しげ?」


「はい、あの時のご自身がどんなご様子だったか自覚はありますか?」


あの時は……うっすらと化粧を施した彼女が店から飛び出してきて、何かに反応して路地裏に走って行ったのを目で追って……。


「さぁ?」


「一目見れば分かるほど彼女に見惚れた顔をしていました。」


「…………。」


「先日も申し上げましたが、逃げられたくなければ、自制して下さい。」


無自覚なんだからしょうがないだろうと思いながらも、無言で肯定を示した。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] なぜ今更、叙任式をしてるのか…。 騎士団長になったときにしてなかったのかな??
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