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街へ 2

――――――『最悪だ。』


別室でリリアン様やリタ達と更に数着試着をしながらも、さっきの言葉が頭から離れなかった。


やっぱり結婚式を挙げなくてよかった。


普段ならあまり着ないデザインは少しウエディングドレスに似ていた。


リリアン様の見立てで色々とドレスを持ってきてくれるが、服に負けるんじゃないかと思いながら試着したドレスは思いのほか似合っていた。……と思っていた自分が恥ずかしい。


もう、……それはもう、ものすごく恥ずかしい。


あの結婚式の日も飾り立てた自分が惨めだったのをこの数日で忘れていた。


彼には綺麗で、洗練された恋人がいるのに、辺境から出て来た田舎者が彼の目にどう映るかなんて分かりきっていたのに。


「……ンノ?アンノ?」


リタが心配そうに顔を覗き込んでいた。


思わずハッとして、顔を上げると、リリアン様も眉尻を下げて心配そうな顔をしている。


「あ……、ごめんなさい。リリアン様、私はドレスのことは分からないので、やっぱり実際ティツィアーノ様が来られてから選ばれた方が宜しいかと……。」


そうだ、ここに残るつもりも、結婚するつもりもない。


公爵家に無駄なお金を使わせる訳にはいかない。


公爵家にはドレスを数着購入したところでなんの痛手にもならないかもしれないけど、私が辛い。


買ったドレスは誰も着ないまま処分される。

公爵様の恋人も、婚約者に贈ったドレスなど着たいと思わないだろうし、私だったら絶対に嫌だ。

まだ誰か着てくれるなら良いけれど、処分されるドレスはまるで私の心が処分されるようで……。


「……では、何か他のものを見に行きませんか?私のドレスはもう注文しましたし、今流行りの新しいコスメが見たくて。」


リリアン様が気を遣ってくれたんだと分かる。


侍女の分際で仕えるべき主人に気を遣わせて申し訳ないと思いながらも、なんと言って良いか分からず、笑って「そうしましょう。」というのが精一杯だった。




――――――きっと、今日はこれ以上私に勧めてくることはないかな。と思い少し安心して、次の店に向かった。









「お姉様!!このリップの色がお似合いですわ!!」


そう思っていたのに、なぜか次の店でも押しがすごかった。


男性陣は先程の一件の為、リリアン様によって別行動をとらされている。

おかげで気は楽だが、こんなに椅子に座り、メイクの為にじっとしているのは性に合わない。


リリアン様が、店内の化粧品を物色しに行った時、思わずリタに言ってしまった。


「私、こんなに化粧品勧められてもいらないわよ。」


「良いじゃないですか、お嬢様。公爵邸を出る時、慰謝料がわりにドレスもコスメも全部いただいて行きましょう。」


「いや、こっちが一方的に婚約破棄したんだから、慰謝料払うのは私でしょう。」


「いいえ、愛人だか、恋人だかがいるのに関係を続けたまま結婚しようとしたのはあちらですから。」


「ええ??」


そういうもの?誰にもきちんと言わず出てきた私に問題があるのは明白だが、リタは常に私の味方だから言ってもしょうがないと思い、反論しなかった。


「良いじゃないですか。綺麗になってお嬢様をぞんざいに扱ってきた男達に一泡吹かせてやるんでしょう?この際利用できるものは利用しましょう。どうせ普段着が騎士服のお嬢様一人ではこういった事はどうしたら良いかも分からないんですから。」


ざっくりと図星を言われ、容赦なく傷口に塩を擦り込んでくるリタに反論できるわけもなく、「そ……そうね。」と項垂れるのが精一杯だった。


その時、リリアン様がウキウキで白粉を片手に戻ってきた。


「お姉様は普段お化粧されないからお肌に負担がかかっていなくてとってもすべすべですね。これだけでとても綺麗に見えますよ。このお粉はお肌に潤いを与えるキリイオアの成分が入っていて、その働きを補佐するキナの実も一緒に――――――……。」


リリアン様は嬉々とし説明してくれるが、ごめんなさい。さっぱり分かりません。横でうんうんと頷くリタを横目に化粧をされていく。


「あぁ……、本当に綺麗。」


私の顔を見ながらうっとりと呟くリリアン様の脳内には何か補正が入っているようで、夢見る乙女のような瞳になっている。


「あ、あのリリアン様。そろそろ私ではなく、皆様のものを……。」


そう言うと、ハッと夢から覚めたように真顔になり、



「そうですわね。ティツィアーノ様の物を探しましょう。」


と宣った。


いや、結局私の物かい!!


とがっくりと肩を落とすと、リタが真顔であるが、嬉々として説明を始めた。


「ティツィアーノ様はいつも普段着は動きやすい服装で、騎士服をお召しになっていることが多いですが、かわいいものが大好きです。」


思わず、リタの口を塞ぎたい衝動に駆られるが、そんな事は出来ない。


「まぁ、可愛いものがお好きなんですか?」


当然意外だったのだろう。


可愛いものより、武器が似合うと散々言われてきたし、自分も似合わないと思っていたので好きではないふりをしてきた。


「はい、いつも街に出ると、ドレスや可愛らしい小物にも興味を惹かれていらっしゃいますが、ご自身に似合わないとお思いの様で、見るだけにされていらっしゃいます。」


ねぇ、なんで言うかな?ていうかばれてたのね。

てか、何で言うかな。

公開処刑ですか?


「先日は仔犬に見とれて柱にぶつかっていらっしゃいました。」


ねぇ!!!

だからさ!!!


羞恥心で死ぬから!!


イメージじゃないって笑われるからやめてくれない!!??


「ふふっ。」


そう笑ったリリアン様の目に嘲るような色は無かった。


「私も可愛いものが大好きです。以前仔犬が飼いたいと言ったらお兄様や両親に反対されたけれど、ティツィアーノ様が飼いたいと言ったら、きっとお兄様が飼ってくれるわ。」


そう優しく言ったリリアン様は、初めて会った時の彼女と随分印象が違った。


あんなに『ティツィアーノ』に敵意を剥き出しだったのに……。

この数日で何があったのだろうか。


私に言った内容を咎められた?


そんな事を考えていると、店の外から悲鳴が上がった。



「きゃぁぁぁぁぁぁああ!!魔物よ!!」

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