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お茶会と香り

「さ、お姉様。お好きなお菓子を召し上がってくださいね。」


気持ちの良い風が吹くテラスで、右隣に座りふわふわの金髪を揺らしながらリリアン様がお菓子を勧めてくれる。


目の前には豪華なスイーツやサンドウィッチの載った三段のケーキスタンドが鎮座し、左隣にはウォルアン様が座り……対面の席では公爵様が優雅にお茶を飲んでいる。


「あ……あの、リリアン様。私は侍女ですのでご兄弟の大事なお時間にご一緒するわけには……。それにお姉様は……。」


私だってリタやテトと一緒にお茶をすることはあるけれど、私達だけの時だけで、父や母がいる時にはそんなことはしない。


「そんな事気にしないでくださいませ。私がそうしたいんだから。お兄様もウォルもいいでしょう?」


断られるわけがないという絶対の自信を顔に浮かべ、そう二人に言った。

是非とも反対して欲しいと思ったが、


「私は構わないよ。」


「僕もぜひご一緒したいです。」


と言われ、後ろに控えるリタやメイドさん達に助けを求める。渾身の悲壮な表情を浮かべるも、スッと視線を逸らされた。


リタは平常運転の真顔を保っているが、肩がプルプル震え、笑いを堪えているのが丸わかりだ。

もちろん王太子の婚約者としてお茶会のマナーは叩き込まれているが、一介の侍女が令嬢並みのマナーをこなせる訳がないので、不自然なマナーが演技出来るか自信がない。




「あ、あの……私は皆さんのように上品に出来ませんので……。」


そう言って何とか逃れようとするが、公爵様と目が合って固まってしまった。


目の前にすると、彼の美しさは圧巻でサラサラの肌は健康的な色をしているのに、シミひとつない。


ダークブルーの瞳は冬の海のように澄んでいるけれど、とてもじゃないけど冷たい印象は全く無い。

穏やかにこちらを見つめる瞳はとても柔らかい。


色気を含む唇に釘付けになってしまうと、彼がそれを動かした。


「マナーは気にせず、リリアンが君のために用意した物だから楽しんでくれるだけでいいよ。」


そう言うと彼は小さなお菓子を2つつまみ、口に放り込んだ。

それから微かに音を立ててお茶を口にした。


そして、何を言うでもなくこちらを見ながら小さく口元を緩めた。


彼はさっきまで音を全く立てる事なくお茶を飲んでいたから今のは絶対にわざとだ。

私にマナーは本当に気にしなくていいと示してくれたのだろう。


私がポカンと彼を見ていると、


「マナーが気になるならリリアンが喜んで教えてくれると思うよ。」


と言ったものだから、リリアン様は本当に喜んで教えてくれた。


「こ、こうですか?」


彼女の指導に慣れない振りをしながら、お茶を飲むと、リリアン様のこれでもかというお褒めの言葉を頂いてしまい、とても心が痛んだ。


下手なマナーが分からない!!

 

チラリと後ろを見ると、リタが、引くほど真顔でガクガクと震えていた。


 

そのリタを見て横にいるメイドさん達もドン引きしている。


後で説教だと思いながら視線を戻すと、


「さ、お姉様。お菓子は何がお好きですか?」


そう言いながらリリアン様がニコニコと覗き込むように尋ねた。

そして自ら給仕してくれようとする。


「あ、ではその苺の乗ったタルトを頂けますか?」


ここまでしてもらっているのだ、遠慮をしては逆に失礼だろうと思い、素直に答えた。


「お姉さまは苺が使われたお菓子お好きですか?」


もう『お姉様』はデフォルトなのねー。と諦めながら答える。


「そうですね、ムースやジャムになっている物よりそのままの苺が乗ったものが好きですね。他の果物も好きですよ。」


そう答え、リリアン様のお好きなものは私が給仕しますねと言うと、頬をピンクに染め、嬉しそうにフルーツケーキをリクエストしてくれた。


「そういえば、最近新しいお茶を手に入れたので、お姉様も試飲してみませんか?」


そう言って後ろのメイド達にリリアン様が指示を出すと、赤毛のメイドがお茶を運んできた。



その瞬間、覚えのある匂いが微かに鼻を刺激した。




一瞬で緊張が走るその香りはティーポットからカップに注ぐとより一層強くなる。


彼女がリリアン様に給仕しようとした瞬間、メイドの腕を横から捻り上げ、彼女を地面に抑え込んだ。


「リタ!誰もここから動かさないで!!」


そう指示した瞬間、リタは全員の動きが把握できる位置に瞬時に移動し、隠していた小さな短剣を構えた。


その異様な光景に思わず護衛に立っていた騎士達がこちらに剣を向ける。


「なんだこの侍女達は……。」


「マリアを……押さえているメイドを放せ!」


騎士達は理解できないものに不安を覚え、私に剣を向ける。

公爵がいる前で失態を犯すわけにはいかないというのも強いだろう。

 

「やめろ!剣を下ろせ。」


凍るような、公爵様の声が騎士達を制し、それからこちらに問いかける。


「アンノ、そのメイドが何か?」


「そのカップに口を付けないでください。ティーポットにタリオアの毒が入っています。」


タリオアは北部の一部で咲く花の一種で、根に毒がある。

その毒は無味無臭で、吐き気、腹痛と食中毒と同じような症状を引き起こし、二日ほど苦しみ死に至らしめるものだ。


即効性ではないが、致死率は高い。


押さえつけてるメイドが笑うように言った。


「タリオアの毒?なぜ無味無臭の毒が入っていると分かるの??タリオアと断言するあなたが一番怪しいし、私はそもそも毒なんて入れていないわ。」


その通りだ。この毒は口にしても特定が難しい。でもこの香りはタリオアだ。普通の人間の嗅覚では分からないから説明がつかない。


その時もっと強い香りがした。


思わず何処かと集中すると、押さえつけているメイドの靴からだった。


「公爵様。彼女の靴を調べていただいてもよろしいですか?」


「もちろんだ。お前たち調べてみろ。」


その騎士達に指示を出した途端メイドが暴れ始めるが、簡単に足を押さえつけ、彼女の靴を脱がした。


一通り見た後、踵の靴底が外れ、中から小さな包装紙に包まれたものが出てきた。


「これでしょうか……。」


「ここで開封するのは危険だ。王宮の医師のところに持っていって調べさせろ。」


そう言って騎士達にその小さな包みを持って行かせる。


赤毛のメイドは公爵様の指示で私の代わりに騎士達が拘束した。


「その赤毛のメイドは地下に閉じ込めておけ。後でじっくり話を聞こう。」


そう言って凍てつくような冷え切った目でメイドを見た。


「……っ。レグルス公爵。貴様さえいなくなればこの国をいただくのは簡単な事だろうよ。いつも貴様を狙っている人間がいることを忘れるな。我が太陽王に!我が祖国に栄光あれ!!!……っぐ。」


そう叫んだメイドの口にリタがナプキンを突っ込んだ。


「このままでは舌を噛み切る可能性もあります。すぐに自殺できないように対処してください。」


恐らくこのメイドは隣国、リトリアーノの間者だろう。

太陽神を崇め、太陽王を称する自身の国の王を信仰している。


我が領地もリトリアーノの間者を拘束した際には必ず自殺できないようにする。捕まるぐらいなら自殺する。……それほどまでに自身の王への信仰は強い。


騎士達は公爵様の指示した通り、自殺できないように拘束し、連れて行った。


視線をリリアン様に向けると思いのほか落ち着いていた。

狙われたのはリリアン様だ。

落ち着いているように見えても、心の傷になるかもしれない。

そう思い、声をかけた。


「リリアン様、大丈……。」


「アンノ、怪我は?」


言い終わる前に、公爵様が、スッとメイドを捻り上げた方の手を取り、手の甲を見ながら聞いてきた。


思わず気配を感じなかったことにビクリと体を竦ませたが、それよりも妹のリリアン様より、侍女の自分に先に声をかけられた事に驚く。


「わ、私はかすり傷ひとつありません。それよりリリアン様の方が……。」


「我々にとってはそんなに珍しいことではないよ。」


そう言いながら、公爵様の瞳が心配そうに揺らぎながらこちらを見ている。


……ダレ!!??氷の公爵って言ったのは!!??

あれは『戦闘中に限り』的なものかしら?


ここに来てからそんな冷たい感じの印象は全く受けない。


…………『シルヴィア』にはもっと熱い瞳で見るのだろうか……。


そんな事を考えていると、公爵様の背後からの騎士の声にギョッとした。


「公爵閣下!!その侍女もグルではないですか!?」








ここまで読んで頂きありがとうございます。

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「真顔でガクガク」めちゃくちゃ笑いました。 お腹痛い〜w
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