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願う

南の海域に今発生している魔物の大群の報告の為に王宮に上がった時、重厚なドアの外にも聞こえるほどの怒鳴り声が響き渡った。


またアントニオ王子が父王に叱責されているようだ。

出直そうとしたその瞬間思いがけない話が聞こえ、ドアの前で足が止まった。


「馬鹿者が!!あれだけ侮辱した上に、婚約破棄をたたきつけたんだぞ!手紙一枚で済まそうとは何事か!!!アントニオ!!貴様に呆れてもう言葉もないわ!!」


婚約破棄?


たたきつけた?


ティツィアーノ=サルヴィリオに?


今までにないほど……足元の感覚が浮いた感覚に襲われ、それと同時にざわりと体の全てが落ち着かない感覚に陥る。


「アントニオ、なぜお前が王太子という立場が確固たるものとなっていたのか分かっておらんとは、愚かもここまでくると言葉が出てこないものだな。」


「父上!何をおっしゃるのですか。おっしゃる通りに婚約破棄撤回の手紙を送りましたから、ティツィアーノも落ち着けば取り消しの書類にサインしに戻って来ますよ。あんな乱暴者に他に嫁の貰い手などないのですから。」


愚かな王子の言葉に一瞬で怒りが沸点に達す。

こんなにも自分が感情的だと思ったことはない。

いつも理性的に物事を処理してきたつもりだ。


その感情は礼儀を忘れ、重厚なドアを押し開いた。


「お取り込み中失礼いたします。南海域の魔物大量発生について報告を申し上げたいのですが。」


それでもなんとか取り繕って表情には出さずに入室する。


「あぁ、レグルス公爵。ご苦労、例の報告だな。……アントニオ、お前はもう少し頭を冷やして来い。」


アントニオ王子を追い払うように退室を促した王は大きくため息をついた。


何故自分がこんなに叱責されているのか理解できていないアントニオ王子が、不満そうな顔で出ていこうとしたところを呼び止めた。


「殿下。サルヴィリオ家の御令嬢とのご婚約を解消されたのですか?」


そう言うと、そうなんだ、聞いてくれという顔で話し始めた。


「僕にはティツィアーノのような野蛮な女じゃなく、もっと可憐なマリアンヌという大事な人ができたんだ。でも父上はご立腹なようで、婚約解消の書類にまで署名したのに彼女と復縁しろというんだ!そうしないと王位継承権まで取り上げると……。君なら僕の気持ちを分かってくれるだろう!?」


婚約解消の書類にまで署名しているとは……。

不満を言う愚かな息子はさらに父王の怒りに油を注いでいることに気づいていない。


「黙れ!アントニオ!サルヴィリオ家を蔑ろにすることがどれほど王家にとって、国にとって問題となるのか分かっておらんではないか!サルヴィリオ家との血縁の繋がりが国の安定に直結すると何故分からん!!」


「陛下。その繋がりは私ではダメでしょうか?」


怒り狂う王にそう進言すると、彼はぴたりと固まった。


「レオン……。其方がティツィアーノ嬢と結婚すると言うことか?」


「はい。貴方の甥である私と、サルヴィリオ家の婚約なら国により安定をもたらすと思いますが。」


「それはもちろんそうだが…。……お前はそれで良いのか?今までどんな令嬢とも……。」


今まで勧められた縁談をここ数年頑なに断り続けてきたのだ。彼の反応も当然だろう。


「父上!!それは名案です!!レグルス公爵なら王家に連なる者ですから!!僕も手を回しましょう!この縁談が上手く纏まったら僕の王位継承権を取り消さないで下さい!レグルス公爵、少し待っていてくれ。」


全く話を聞かず、勝手に話をまとめ始めたアントニオは、壁にめり込ませたくなるようなドヤ顔で出て行ったかと思うと、秒で戻って来た。


「これを渡しておこう!!」


そう言って一枚の紙を渡してきた。


「……これは?」


見たら分かるのだが、まさか……。


「僕が婚約期間中に集めたティツィアーノの身上書だ。趣味や個人的なことも調べてあるからこれを使うといい。まぁ、こんなものがなくても、貰い手の無いあの女ならすぐに落とせるさ。」


このクズ王子がティツィアーノ=サルヴィリオをここまで貶める意味が理解できない。

彼女と約十年婚約期間があり、その間の彼女の情報はたったの紙キレ一枚。


しかも、家族構成や彼女の経歴など調べれは半日もかからないことばかり。

趣味?剣術のみしか書かれていない。


こんな扱いを受けていい女性ではない。


こんな男に人生を踏み荒らされていい女性ではない。


「…………ありがたく頂戴いたします……。」


そうアントニオ王子に伝えると彼は満足そうに出ていった。


パタンとドアが閉まった瞬間、その報告書を掌の上で一瞬で消しクズにした。


「レオン!?どうした!?」


驚いた王が玉座の上から声をかけた。


「いえ……、こんななんの役にも立たない紙キレなど、ゴミ箱に捨てる時間すら惜しくて。」


「…………なるほど?そういうことか。」


突然理解したような顔をした王がまた大きくため息をついた。


「いつからティツィアーノ嬢のことを?」


「そんなことより、アントニオ王子はこの縁談が上手く行ったら王位継承権を取り戻せると思っているようですが?国を滅ぼすおつもりですか?」


「そんな約束はしておらん。あやつが勝手に言っておることよ。我が息子とは思いたくないほどの愚かさにもうフォローのしようもない。」


彼なりに息子を大事に思っているだろう。だからこそサルヴィリオ家との縁談をまとめたに違いない。


「アントニオ殿下にサルヴィリオ家の後ろ盾がなくなったら、誰も支持しませんよ。」


「分かっておる。」


自分が知る限り三度目のため息をついた彼は「もうその話は良いから、南海域の魔物討伐の報告を。」と、話を逸らした。




――――――焦がれて焦がれて……叶わないと思っていた。


もしかしたら彼女を私だけのものにできるかもしれない。


短い夢では終わらせない。


一度見てしまった夢を、諦めることなどできない。


王に魔物討伐の報告をしながらも、心は彼女に囚われたままだった。


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