落とされた恋 2
面白いように簡単に討伐が進められていく。
無駄のない人員配置に、後方支援。
森を進んでいくにつれ現れる魔物達の種類に合わせた魔法攻撃も全くミスマッチがない。
事前にどこにどんな魔物が、どれくらいいるのか分かっていたかのようだ。
しかし、魔物は決まったところに巣を作らない種族が多く、事前に予測を立てることは不可能だ。
しかも、経験の少ないであろう新米騎士達は常に討伐の簡単な魔物と戦っているし、明らかな勲章持ちの騎士たちは連携を取り強い魔物の討伐に当たれている。
いつ、どこにどんな魔物がいるかも分からないと言うのに、こんな采配は不可能だ。戦力が偏ることのないよう強い者も、新米も一つの部隊になって動くのが定石だ。
彼女の手柄の為に、あえて魔物を配置した?いや、それでも魔物の出没は予測できる訳がない。
『誰一人欠けることなく。』
その言葉に現実味を感じ、ぞくりと体を何かが駆け上る。
その時、野営地の方から、伝令の人間が走って来た。
「ティツィアーノ団長。今モンテーノ男爵が陣営まで来て団長に会わせろと。何でも魔物討伐の皺寄せがモンテーノ領に来ているとすごい剣幕で……。」
その話を聞いた彼女は大きくため息をついた。
「そんなはず無いでしょうに。そこも計算してやってるっていうか……見えているのに。すぐイチャモンつけて来るんだから。」
「お嬢、また被害の慰謝料の請求ですかね?サリエ様の時はひと睨みで逃げ帰ったらしいですけど、お嬢ならいけると思ったんじゃないですか?」
随分と砕けた口調の側近が言ったが、彼女はそれを咎めるでもなく話にうんざりしているようだった。
「テト、笑い事じゃないわ。お嬢様。私が対処してまいりましょうか?」
兄妹だろうか、顔立ちの似た女性騎士が剣をちらつかせた。
「良いのよリタ。初めだから私から釘を刺しておくわ。」
そう言って副官に向き直る。
「全軍引き上げさせて。もうあらかたの討伐は終わったから一旦陣営に戻って休みましょう。魔石も一日目にしては十分でしょう。後二日行程が残っているし。」
「かしこまりました。では、後は私に任せて先にお戻りください。」
「ありがとう。よろしくね。」
そう言って彼女は兄妹らしき二人を連れて戻って行った。
副官は全騎士団に帰還の狼煙をあげ、周りにも指示を出していた。
――――――北の国境警備も問題なさそうだな。思った以上の有能な団長だ。
そう思いながら騎士団と共に陣営に戻ろうとした時、部隊から離れ、森の奥に入っていく騎士団員達が数人いた。
誰にも気づかれないようにその一行の後を追う。
三人組の新米騎士達のようで、先ほどティツィアーノ=サルヴィリオに意見していた者も混ざっていた。
「オイ、騎士団から離れて大丈夫かよ。」
「大丈夫だって。俺たちあんなに魔物倒したじゃねーか。」
「もう少し魔物を倒して魔石を山分けしようぜ。せっかくモンテーノ領からサルヴィリオに移ってきたんだ。前よりよっぽどかいい暮らしができてるけど、もっといい生活したいじゃねーか。」
そう言いながら彼らはどんどん奥の方へ進んでいった。
三人組は数匹魔物を倒し、「こいつで最後にしようぜ。」とまだ子供の翼馬を取り囲んだ。その時、ざわりと全身を悪寒が駆け巡った。
「右だ!!」
思わず叫ぶと、そこには深い緑と、焦茶の斑模様の大蛇が三人を見つめていた。
「「「うわあああぁぁぁあ!!」」」
その瞬間、三人の右方向から大蛇が襲いかかって来た。
装備品として渡されていた剣に魔力を通し、三人の前に立ち尾を防ぐが、今ここで……三人の前で実力を出す訳にもいかないし、出したとしても彼らのレベルでは魔法の巻き添えにする可能性もある。
本来なら一個小隊できちんとした連携を取り討伐すべきサイズの魔物だ。
「あ、あんた、すげえな……。」
「た、助かった……。」
腰を抜かした一人がそう言ったが、三人を守りながら戦うのは分が悪い。
「ここは、俺に任せてお前達は本隊に知らせに行け。」
三人にそう言うも、翼馬の子供が気になるようで、戻るのを渋っている。
「自分の命と魔石はどっちが大事だ?すでに軍律違反を起こしているんだ、これ以上違反事項を増やさないほうが良いんじゃないか?」
そう言うと、三人がぎくりとしたようで、
「そ、そうだな、すぐに助けを呼んでくるからな。」
そう言いながら本隊の方に戻って行くと同時に子馬の翼馬もその場から離れていった。
――これは、保身を図って助けを呼ぶことは無いな。
こうなったら自分でどうにかするしかない。
そう思いながら大蛇に対峙した時、
「口元を塞げ!!!」
背後から声がした。