卒業パーティの前日の騒動
ちょっとした小話です。ラストを明るくかっとばしたかったので。
明日は王立学園の卒業式があり、そして夜は卒業パーティが催される。
しかし、前日に王立学園の全生徒達は全員、校庭に集まっていた。
明日は先生や保護者が出席してしまう。
国王陛下や王妃、宰相や騎士団長、お偉方が出席するのだ。
そう、前日の今しかない。好き勝手な事が言えるのは。
明日、何かを言えばそれだけで大事になり、断罪の対象になるだろう。
そして、何かしら事件が起こるのが卒業パーティなのだから。
今日は晴れ渡った春の日差しが眩しいいい天気。
校庭で全校生徒が集まった頃、王太子リュミエールは全生徒の前で叫んだ。
「エリーローゼ・コレスティーノ公爵令嬢。そなたと婚約破棄をし、私はそこにいる…」
全てを言い切る前にピンクの髪の男爵令嬢マリー・カルローネが涙ながらに、リュミエール王太子に近づいていって、叫ぶ。
「エリーローゼ様を婚約破棄ですってっ。何て事を。私、私、エリーローゼ様にはそれはもう親切にして頂いたのに、あまりですっ。マナー教育に苦労する私に、エリーローゼ様は気にかけて下さり、お茶会に招いて下さって親切に教えて下さいました。それなのに…」
目をウリウリさせながら抗議するマリー。
婚約破棄を言い渡されたエリーローゼがマリーに向かって、
「ありがとう。マリー。わたくしを心配してくれるのね。わたくしは…」
話が終わらないうちに、今度はエリーローゼの妹であるアリア・コレスティーノ公爵令嬢がエリーローゼに抱き着いて。
「お姉様っ。お可哀想に。何て何て事でしょう。」
リュミエール王太子の方に振り向くと、つかつかと近づいて、こちらも涙ながらに抗議する。
「わたくしの大事なお姉様と婚約破棄だなんて…連れ子のわたくしに気を使って公爵家でもとても親切にしてくれて…色々と教えて下さり、お買い物も一緒に行ってくださって。本当によくしてくださいました。お姉様はわたくしの命です。そんな大事なお姉様を傷つけるなんて許せませんわ。」
リュミエール王太子は二人の令嬢に詰め寄られて、困ったようにオロオロしている。
すると、銀の長い髪のそれはもう美しい女生徒が近寄ってきて、
バシっとリュミエール王太子の頬をひっぱだいた。
リュミエール王太子は頬を抑えながら。
「不敬であろう。この女を牢へっ。」
しかし、周りにいるのは生徒ばかり。誰も動こうとしない。
女生徒はリュミエール王太子を睨みながら。
「わたくしは、次代聖女ユリアーネですわ。王太子殿下。エリーローゼ様と婚約破棄なさるなんて。このような素晴らしい方と。わたくしが、聖女の在り方について悩んでいる時に、それはもうエリーローゼ様は相談に乗って下さって。どんなに救われたか。わたくしを断罪するならすればいいわ。エリーローゼ様の為ならわたくしは牢に入るのも厭いません。」
女生徒達全員がリュミエール王太子を睨みつける。
「エリーローゼ様と婚約破棄ですって。」
「あのような素晴らしい方を。」
「エリーローゼ様にわたくしも親切にして頂きましたわ。」
そして、皆、涙ながらにエリーローゼの周りに集まって。
「お気を落とさずに…」
「エリーローゼ様なら、良い殿方が見つかりますわ。」
「引く手あまたでしょう。エリーローゼ様。」
男子生徒の一人が叫んだ。
「そうともエリーローゼ。私はマイク・エレクシーノ公爵令息だ。よければ私と婚約してくれないか。」
すると別の公爵令息が叫んだ。
「なんなら、私と婚約を。私は婚約者と別れたばかりだ。ルイス・アッシーノ公爵令息だ。
是非、私と。」
騎士団長子息が進み出て。
「私の父は騎士団長だ。私は剣技には自信があり、将来騎士団に入って必ず出世する。
是非、私と婚約をっ。」
他にも婚約者がいるであろう男子生徒まで、エリーローゼに群がって、婚約相手の令嬢に平手打ちされる騒ぎまで起きて、それでも、平手打ちした令嬢は、
「エリーローゼ様なら仕方がないわ。だって、素晴らしい方ですもの…」
だなんて言い出す始末。
校庭で大騒ぎになったのだが…
そこで、名乗り出た男がいた。
「私は隣国から留学しているアレクス皇太子だ。エリーローゼ嬢。どうか私と婚約して欲しい。」
跪いて、エリーローゼに手を差し伸べる。
アレクス皇太子は黒髪碧眼で背も高く美男で名高いイイ男だ。
エリーローゼは首を振って。
「申し訳ありませんが、わたくしはこの国が好きなのです。アレクス様の申し出を受ける訳にはいきませんわ。」
「やはりそう言うと思った。君はいつも学園の生徒達の事だけではなく、この国の事も思っていたからな。まぁいい。みんな。晴れてこの学園を卒業だ。明日は保護者どもが集まって、騒げないだろう。ここは校庭で大いに騒ごうではないか。」
「「「「おおおおおっーーー。」」」」
皆、抱きしめ合って、卒業を喜び合う。
王立学園は卒業するまで、勉強勉強勉強で結構大変なのだ。
だから、卒業する事が出来る貴族の子弟達は皆で泣いて喜んだ。
在校生たちはそんな卒業生たちを皆で、取り囲み祝う。
聖女ユリアーネが両手を天に向かって掲げれば、空から花びらが祝うように降って来た。
そんな中、エリーローゼは自分の周りで、心配そうにしている男爵令嬢マリーや妹のアリアを手で制して、リュミエール王太子の傍に行き、
「わたくしと婚約破棄をして、どなたと婚約するおつもりですの?」
「そこにいる…そうだな。誰でもよかった。私と君とでは釣り合わない。
あまりにも君は偉大すぎる。」
エリーローゼはリュミエール王太子の手に手を重ねて、微笑んで。
「貴方は国王になるお方でしょう?でしたら、王妃は偉大な方が良いのではなくて?」
「君といると、自分が酷く小さく見える。自信が無くなる…。あの男が羨ましい。」
他国の留学生だと言うのに、卒業生達の中心になって、大騒ぎしているアレクス皇太子を見つめて、ため息をつく。
男爵令嬢のマリーが、
「恐れながら発言致します。エリーローゼ様を必要とされないのでしたら、他の殿方に差し上げてもいいという事ですね。」
妹のアリアも頷いて、
「姉ならば、結婚したいと言う令息は大勢いるのは、見ての通りですわ。後悔しないのですか?姉と結婚しなくて。」
リュミエール王太子はエリーローゼを眩しそうに見つめた。
「ああ、なんて綺麗なんだろう。エリーローゼ。そうだな。きっと後悔する。
君のような素晴らしい女性を手放したら、私は…後悔して後悔して…」
エリーローゼは優しい眼差しで、リュミエール王太子の顔を見つめ、
「でしたら…婚約破棄を取り消してくださいませ。幸い、卒業パーティの前日。
国王陛下を始め、保護者はいませんから、大丈夫ですわ。」
「エリーローゼ。ごめん。本当に、すまなかった。婚約破棄と口にした事は取り消せない。だが改めて、私と婚約を結んで欲しい。」
リュミエール王太子はエリーローゼを抱き締める。
エリーローゼも優しくリュミエール王太子を抱き締めて。
「わたくしが結婚したいのは、貴方しかいないのです。小さい時から、ずっと貴方の事しか見えませんでしたわ。」
いつの間にか、生徒達が全員、二人の周りに集まって。
アレクス皇太子がため息をつき、
「やはりな。エリーローゼの心はリュミエールにしかなかった訳だ。ともかく、おめでとう。
今度こそ婚約破棄なんて言い出すなよ。一生、離すんじゃないぞ。」
他の令息達も、
「ちくしょうっ。せっかくのチャンスを。」
「何がチャンスだ。元々、エリーローゼの心は王太子殿下にしかないんだよ。」
皆、騒ぎながらも二人を祝福する。
男爵令嬢マリーも大喜びして、
「良かったですわ。本当に。」
妹のアリアもニコニコしながら、
「お姉様の気持ちはやはり王太子殿下にあるのですね。お姉様が幸せならとても嬉しいわ。安心しますわ。」
聖女ユリアーネが、二人の前に近づいて、
「聖女の祝福を授けます。お二人がいつまでも仲良く暮らせますように。幸せになりますように。」
リュミエール王太子とエリーローゼは手を繋いで、互いを見つめてから、聖女に向かって礼を言う。
「有難う。」
「リュミエール様とわたくし、幸せになりますわ。」
聖女ユリアーネが両手を天に向ければ、白い鳩が一斉に青空に向かって飛び立って、
王立学園の生徒達が、空に向かって皆で叫ぶ。
「「「「「卒業っおめでとうーーー。王太子殿下。エリーローゼっ。おめでとう。みんなそろって、幸せになるぞーーーーー」」」」」
卒業パーティの前日の王立学園の校庭は、大いなる祝福に包まれているのであった。