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ザ・ファイブス  作者: タカミツ
第一章
6/20

幕間1 女刑事・玄崎宏美


 少女誘拐事件、女子大生誘拐事件と私の周りで凶悪な事件が連続した。


 そして今府内で四件の殺人事件が発生して、私が所属する所轄も殺気立っていた。

 四人の重要参考人が府警本部に連行されているが、誰も一切口を開かないのだ。


 私も応援に駆り出されて連日聞き込みに回っているが、事件の詳細は掴めないでいる。

 被害者は皆同じように背後からナイフで背中を数回斬られて、最後に心臓を一突きにされていた。

 手口が同じなのに犯人が複数いることに、捜査本部は事件がさらに続くのではないかと警戒しているのだ。


 いつ呼び出しが掛かってもおかしくない状況だが、今日は久し振りの休日なので八時を回ってもベッドの中にいた。


「もしもし、明石龍二だけど。話しがあるので事務所に来て貰えないかな」

 要件だけ伝えるぶっきらぼうな電話が掛かってきた。


「分かりました、一時間ほどで行きます」

 突然の呼び出しに驚いたが、彼の声を聞いて胸がワクワクしている。

 急いで化粧を済ませると、着ていく服に迷った。

 着飾って行こうかと思ったが下心を見透かされそうで、結局いつものスーツ姿になってしまった。

 大学を卒業してからは恋人がいなかったのだが、明石龍二に初めて会った時から忘れられない存在になっているのだ。




 明石探偵事務所を訪ねると、彼はサスケと広い庭で戯れていた。

 飛びついてくる犬を右に左に避けている姿は、私には遊んでいるようにしか見えなかった。


「こんにちは!」


「いらっしゃい。急に呼び出して申し訳ありません」

 額に汗を浮かべた笑顔が素敵だった。


「いいえ、大丈夫です。何か御用でしたでしょうか?」

 彼に頭を下げられると恐縮して声が上擦ってしまった。

 Tシャツの上からも分かる鍛えた肉体が眩しくて、見惚れてしまっていた。


「気になることがあって、少し話を聞かせて貰えないでしょうか?」

 電話と違って丁寧な口調で話し掛けてくるので、なぜか寂しさを感じた。


「何かしら」

 男と女の関係を少し期待していた自分が恥ずかしくなってくる。


「外では何ですから、上がって下さい」

 彼が縁側から家の中に入ったので私も続いた。

 座卓の上には地図が広げられていて、四か所に印がつけられていた。


「気になることって?」

 それが最近起きている殺人事件の現場だと直ぐに分かった。捜査本部で同じ地図を何度も見ているのだ。


「そうです。ニュースになっている斬り裂き魔の殺人事件です」

 座卓の前に座った彼は、私の考えが分かるかのように地図を示してきた。


「これは貴方が関わることではないと思うのですが」


「勿論殺人事件に関わる積りはありませんが、気になることがあるので聞かせて貰えませんか?」


「何を聞きたいのですか?」

 彼の真剣な顔を見ていると、仕事上の守秘義務を守り通す自信がなくなってくる。


「今回の事件で、玄崎さんが気になったことはありませんか?」


「凶悪事件は全て気になることの連続ですよ」

 刑事がどれだけ神経をすり減らしているか知らない人に、あれこれ言われたくはなかった。


「聞き方が悪かったですね。今回の事件では犯人が四人逮捕されているのに、被害者が同じような殺され方をしているのが気になるのですが、警察はどう見ているのです?」


「捜査に係わることだから話せないわ」


「全て、初めの事件を模倣していると考えているのでしょうね」

 私は彼の言葉に小さく頷くことしかできなかった。


「被害者と犯人との間に何か関係はありましたか? 俺はなかったと思っています」

 彼は地図に付けた印を一筆書きで繋ぐと、印のなかった一点に丸印を付けた。


「そこに何があるのですか?」


「俺の推理では、次にここで殺人事件が起こります」


「根拠は?」

 彼が自分で丸印を付けた地点を指差しながら言ったので驚いた。警察は何の情報も掴んでいないのだ。


「五芒星を描いているからです。そして俺の推理が当たっていれば、ここでもっと重大な事件が起こるでしょう」

 彼は星印の中心に×印を付けた。


 そこは府警本部があるところだったので、私は言葉が出てこなかった。


「女子大生誘拐事件の詳細が分かればいいのですが」

 彼は呟くと地図を折り畳んで無造作に渡してきた。


「あの事件と今回の事件が、何か関係しているのですか?」

 私には理解の範疇を越えていた


「分かりません。奈津美さんが発見された現場に、五芒星を思わせる物はなかったのでしょうか?」


「管轄が違うので分からないわ」


「そうですよね。奈津子さんに会うことがあれば、それとなく聞いて貰えませんか」

 女子大生誘拐事件のことを話す彼の表情は暗かった。


「彼女は療養施設に入院しているので会うのは難しいわ」


「そうですか」

 彼は遠い目をして天井を見上げている。


「事件のことは、何もお話しできなくてごめんなさい」

 私は頭を下げた。守秘義務を守り通すことより、彼を事件に巻き込むのが嫌で何も言えなかったのだ。


「俺の方こそ、無理を言ってすみませんでした」


「いいえ。私はこれで失礼します」

 もっと傍にいたかったのだが、彼が黙って考え込んでしまっているので事務所を後にした。




 その足で松田由紀が務めている会社に向かった。

 ちょうど昼休みだったので、近くの喫茶店で少しだけ話が聞けた。


「その後、妹さんはどう?」


「面会も難しいわ」


「警察がもっと早く探していれば、こんなことにはならなかったかもしれないわ。ごめんなさいね」


「警察も宏美も何も悪くないは、みんな犯人が……」

 由紀が大粒の涙を流したので、もらい泣きをしてしまった。


「大阪の警察からは何か言ってきた?」


「一つだけ聞いてきたわ」


「何を?」


「奈津美が何時から入れ墨をしていたのだと」


「入れ墨?」


「私も両親も知らなかったのだけど、奈津美の背中に小さな星型の入れ墨があって、もう一人の女性にも同じ入れ墨があったので関連を調べているようだったわ」


「星型! 奈津美さんが入れ墨って、何時から?」

 明石龍二の言葉を思い出して鳥肌が立った。


「分からないわ」

 由紀が力なく首を振っている。


「そう。警察で何か分かったら教えるわ」


「ありがとう。じゃ、行くね」

 喫茶店を出ていく由紀の背中を見送って明石龍二に電話を掛けようとした時、上司からの呼び出しが入った。


 明石龍二が予想した場所で、五件目の殺人事件が起きたのだ。

 現場に駆けつけると普段は静かな住宅街が、殺人犯が逃走しているので騒然としていた。

 警察のローラ作戦で日が暮れる前に、犯人を逮捕することができて一息衝くことができた。




「もしもし、玄崎です。貴方が予想した場所で殺人事件が起きたわ」

 皆から離れて一人になることができたので、明石龍二に電話を掛けた。


「それで犯人は!」


「今、府警本部に護送中よ」


「いいか、府警本部には絶対に近づくな!」

 電話の向こうで怒鳴っている彼の顔が分かるほど、真剣な声が響いてきた。


「私は所轄だから、今日は本部には行かないわ」


「そうか、それならいい」

 彼の安心したような声が少し嬉しかった。


「待って! 貴方も行かないでしょうね」


「何で俺が行くのだよ」

 ぶっきらぼうな声が返ってきた。


「そうよね。何か危険なことが起きるかも知れないのでしょ」


「ああ。俺の予感でしかないけどな。それじゃ、用事があるので切るぞ」

 突然切られたスマホを耳に当てていると、嫌な胸騒ぎが襲ってきた。


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