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ザ・ファイブス  作者: タカミツ
第一章
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五郎丸の秘密


 仕事がなく精神と肉体を鍛えている俺は、五郎丸のことを色々と考えていた。

 霊体のご主人が見えなかったサスケに見えなくなる妖刀五郎丸は、霊的な存在なのは間違いない。そして仮の姿である模造刀五郎丸も、また真の姿ではないのではないかと。


「妖刀五郎丸!」

 念を込めて抜刀すると黒いヤイバの日本刀が姿を現した。

 これは模造刀を見た俺が、妖刀と聞いて日本刀をイメージしているからではないかと考え、


「妖刀五郎丸!」

 両刃の西洋刀をイメージしながら、改めて抜刀してみた。

 すると柄はそのままなのに黒い刀身は、パソコンで見たツーハンドソードに変わっていた。


「やはり!」


『どうされたのですか?』

 縁側で五郎丸をいじっている俺を、サスケが不思議そうに見ている。


「サスケにはこの大きな剣が見えないか?」

 両手で掴んだ柄を差し出した。

 見た目は刃と柄のバランスが悪いが、重量が殆ど感じられないので扱うのに問題はなかった。


『見えません』

 サスケが俺の行動を、可愛く首を傾げて見ている。


「そうか」

 五郎丸は所有者の意思を具現化する霊的存在だと確信した。


『今度は何をされるのですか?』


「何が起きるか俺にも分からんさぁ」

 パソコンで日本刀の構造を見ながら模造刀を分解する俺は、目釘を抜き、柄から抜いてツバを外すと刀身だけにした。


「ナイフ五郎丸!」

 柄から抜いたナカゴを握って、サバイバルナイフをイメージしながら名前を呼んでみた。

 ゴムのように柔らかくなった刀身は蠢きながら形を変え、刃と持ち手の部分が一体となった大き目のナイフになった。


「やはりな」

 元々の形は分からないが、本体も所有者の意思で形が変えられるようだ。


「腕輪五郎丸!」

 今度は銀色のブレスレットをイメージして名前を呼んでみた。


『何ですか、それは?』


「腕輪五郎丸だよ」

 俺の掌には、ナイフから形を変えた幅五センチほどのブレスレットが光っている。


『どう言う事なのです?』


「模造刀の五郎丸は、誰かがイメージして作り出した物なのだ。だから俺のイメージで形を変えてみたのさ。これだと何時でも持って歩けるからな」

 左腕に嵌めてみると違和感はなかった。


『五郎丸は、所有者の意思で形を変える事ができるのですか?』


「まだよく分からないが、俺の異能チカラと関係があるのかも知れないなぁ」

 妖刀五郎丸が姿を変えた時のご主人の驚いた顔を思い出した。多分ご主人にも何らかの異能があり、妖刀五郎丸は少し違った形をしていたのだろう。




 五郎丸の力の探求の他にもやっている事があった。

 サスケを連れていると公共交通機関が使えないので、中古のオフロードバイクを買って少し改良していたのだ。

 後部にサスケを乗せられように籠タイプのケージを取り付けると、早速走ってみた。


「乗り心地はどうだ?」


『最高です。これでしたら遠出も楽になりますね』

 足で走っての移動は体を鍛えるのにはよかったが、行動範囲が広がるほどに限界があった。


「早速、例の山荘に行ってみるぞ」

 危険を冒してまで少女を誘拐しておきながら、一切身代金を要求していないのが気になっているのだ。


『はい』

 サスケは顔に当たる風が気持ちいいのか、嬉しそうにしている。


 少女誘拐事件が解決して一ヶ月が経っているので警察は引き上げ、山荘の周辺には民家もなく静まり返っていた。

 当然ながら鍵が掛かっていて、元は金持ちの別荘だったのか造りもしっかりしていて簡単には侵入できなかった。


「万能鍵五郎丸!」

 ブレスレットを握って玄関ドアのカギをイメージしながら名前を呼ぶと、腕輪の一部が細い板状に飛び出た。

 カギの形はしていなかったが鍵穴に差し込んで回してみると、〝カチャ〟と音がしてドアが開いた。


『凄いですね』


「役に立つだろ、五郎丸」

 予想以上の結果に自分でも驚いた。


 不法侵入ではあるが、山荘に忍び込んで調べてみた。

 二階建ての山荘には地下室もあり、ワインセラーまで完備されていた。

 警察の調査の跡が各所に見られ、犯行に繋がるような物は何も残されていなかった。


『犯人は少女達を誘拐して、何をしようとしていたのでしょうかね?』


「ううん。身代金や人身売買が目的でないのなら、他に誘拐をした理由が何かある筈なのだがなぁ?」

 色々と考えてみたが想像がつかなかった。

 玄崎宏美の話では、黒幕は特定できず変質者による誘拐事件として幕引きされたようだ。


『主の異能を使っても、何も分かりませんか?』


「色々とやってはいるのだが、特に気になる事は何も無いのだなぁ」

 山荘に入った時から思念を飛ばしているのだが、何の気配も感じられなかった。

 何かあるとすればこの地下室なのだが、ネズミ一匹思念に引っ掛からなかった。


「探査機五郎丸!」

 電波探査機のような装置をイメージしながら、左手を突き出して名前を呼んでみた。

 ブレスレットが形を変えて手袋のように左手を包み込むと、広げた指先から蜘蛛の糸のような細い物が伸びて行った。


「うん!」

 細い糸は色んな所の隙間に入り込んでいっているのだが、その一本が隠し部屋を発見した。


『どうしました?』


「この棚の奥に部屋があるようなのだ」

 金属製の棚を動かしてみたが、頑丈なコンクリートの壁があるだけだった。

 細い糸は壁と床の隙間に入っていったが、どんなに探しても入り口を見つける事はできなかった。


『中に何があるのです?』


「特に何もない小さな部屋だな」

 糸を一本だけにして意識を集中させてみた。


「……」

 暗い部屋の床に描かれている絵が脳裏に浮かんだ。


「腕輪五郎丸に戻れ!」

 激しいい吐き気を覚えて、五郎丸をブレスレットに戻した。


『どうされたのです、顔色が悪いですよ』

 サスケが慌てている俺を心配そうに見ている。


「何でもない、帰るぞ!」

 床の絵を見た瞬間に背筋に悪寒が走ったので、急いで山荘を出た。


 サスケを後ろに乗せると、振り返る事もなくオフロードバイクを走らせた。

 何か得体の知れない物に心が圧し潰されそうになっている。




 これ以上は関わらない方が良いと思いながらも、山荘で見た床の絵が気になってインターネットで調べてみた。


(あの絵は五芒星だったのか)

 五芒星は魔除けとして古くから使われていて、邪気を近づけない結界として描かれる事が多かったようだ。

 五芒星が描かれた隠し部屋も山荘を守るために、施工主が造らせた物だと理解しようとした。


(あそこには二度と近づかない方がいいな)

 五芒星について調べるほどに、霊的な存在である五郎丸を持つ俺は二度と近づかないでおこうと思った。

 異能者である俺に邪気があるとは思っていないが、悪寒が走ったのは五芒星の結界に触れた所為だと考えられた。


 誘拐犯があそこをアジトに使ったのはたまたまで、五芒星とは関係なかったのだろう。

 警察が幕引きをした以上、俺が口出しすることでもないので隠し部屋のことは忘れることにした。


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