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ザ・ファイブス  作者: タカミツ
第三章
17/20

二本目の短刀


 高速道路で起きた大惨事は、一ヶ月が過ぎてもテレビや新聞で取り上げられていた。 

 死者105名、重軽傷者80名を出した天王山トンネルの事件は、多くの謎を残しながらもトンネルの崩壊事故と発表された。


 白石百々子からの情報では、今回の事件に俺たちが関わった事実は警察では掴んでいないようなので安心した。

 爆弾と百億円は無事に回収され、爆弾魔も死亡したと判断されて対策本部は解散したようだ。


「命掛けで戦ったのに何の見返りもないなんて、何て理不尽なのでしょうかね」

 縁側で庭を眺めているとヒロミが愚痴を零してきた。

 俺はそれでよかったと思っている。

 俺たちが異能者であることが分かれば、畏怖の対象になるのは間違いなかった。人間は自分たちと違う者を排除しようとする傾向が強い生き物なのだ。


「それでいいじゃないか、世間には人知れず頑張っている人は沢山いるのだし」

 ヒロミと並んで座禅を組んでいる俺は、会話を交わしながらも皿を浮かせることに成功している。


「それはそうだけど」


『ヒロミさんも人に異能チカラを知られないようにして下さいよ』

 隣で寝転がっているサスケが思念を飛ばした。


「サスケ君は先輩なのだから、呼び捨てでいいわよ」


『分かった。でも、何の先輩なのです?』

 サスケが首を傾げている。


「それは秘密」


「ヒロミの異能が世間に知れたら、寝る間もなく病人を治す羽目になるし。それだけではなく、医療関係者からは激しい敵意を持たれるぞ」

 突然異能に目覚めたヒロミは、子供の頃から異能で苦しんできた俺とは考えが違うことが心配になった。


「そうね」

 ヒロミは深刻な表情になっている。


『知り合いが苦しんでいるからと、安易に異能を使うと取り返しのつかない事になりますよ』


「気をつけるわ。ありがとう」

 ヒロミに頭を撫でられるサスケは、嬉しそうに尻尾を振っている。


「ううん!」

 極限まで意識を集中された俺は、浮かせた皿をブーメランのように飛ばしてみた。

 五メートルぐらい飛んだ皿は、Uターンして戻ってきたが受け止めるのに失敗して割れてしまった。


『主よ、なぜ割れる皿を修行に使うのですか?』


「失敗したら割れるからいいのさ、リスクがある方が修行に集中できるからな」


『しかし、すでに三十枚以上の皿を割っていますよ』


「そんなに割ったか?」


「三十枚どころか五十枚は割っていますよ」

 ヒロミも呆れている。


「そうだったか。念動力が自由に使えるようになれば、戦いが少しは楽になるような気がするのだがなぁ」


「これからも鬼と戦うつもりなの?」


「危険を侵したくはないが、俺の前に現れたら戦うさ」

 ヒロミの心配そうな顔を見て笑って見せた。ヒーローになりたいとは思っていないが、鬼人界が復活したら俺自身が生きづらくなるのは目に見えているから戦うのだ。


「私も戦うわ」


「うん。頼むよ」

 前回の戦いで、一人では勝てないことが痛いほど分かっていた。




「誰か来たようだな」


『僕が見て来ます』

 サスケが門に走っていった。


「お邪魔します」

 サスケが連れてきたのは白石百々子だった。


「白石さん、どうされたのです?」

 白のスーツが決まっていた。


「先日はありがとうございました。お礼が遅くなって申し訳ありません」


「お礼でしたら電話で済んでいますよ」


「いいえ、電話だけでは申し訳ありません。それと口座に調査費を振り込んでおきましたのでお確かめ下さい」


「請求書も送っていないのにですか?」


「少ないと思いますが百万円振り込みました。今の私にはこれが精一杯ですのでお許し下さい」

 白石百々子が申し訳なさそうに頭を下げた。


「いやいや、大阪には二日しか行っていないので、十万も貰えれば十分ですよ」


「お二人とサスケ君の働きを考えれば百万円でも少ないのですが、警視庁に掛け合う訳にもいきませんのでお許し下さい」


「俺たちが何をしたか、見た訳ではないでしょう」


「はい。今回も電子機器が全て停止していて、ドライブレコーダーにも何の映像も残っていませんでした。ですが、現金輸送車を奪ったと思われる男の死体は刀で斬られ、謎のDNAも発見されています。リュウジさんが倒されたのでしょう?」

 白石百々子は真顔で俺を見詰めている。


 彼女に隠す必要もないので小さく頷いた。


「白石さんが自腹で大金を出す必要はないのですよ」

 流石にヒロミも驚いているようだ。


「貴女もかなり危険な目に合われたのでしょ」

 白石が真剣な表情でヒロミを見ている。


「どうして、それを……」


「現場を調べていて、一台の車に残っていた所有者の思念を読み取ったの。トンネルから出てきたライオンのような動物に乗った男性が、ぐったりとした女性を抱き抱えていたのを目撃していたのよ」


「そう」

 ヒロミは口を噤んでしまった。


「そうでしたか、調査費はありがたく頂いておきます。今日はそれだけで来られたのではないでしょう?」


「心を読まれたのですか?」


「読んでいませんよ。ここに突然人が訪ねて来た時は、碌な事がないのですよ」

 ヒロミが押し掛けてきた時を思い出して苦笑いした。


「リュウジさんの感は鋭いですね。お願いがあります」


「なんでしょうか?」

 すでに諦めの境地に入っている俺がいた。


「一緒に島根に行って貰えないでしょうか?」


「こんどは島根県ですか」


「長野の一件以来、全国で似たようなことが起きていないか調べていたのですが、鬼の足の神話が伝わっている神社で盗難事件が起きていたのです」


「鬼の足ですか、気になりますね」


「行って頂けますか?」


「天王山トンネルに現れたのは、長野県で盗まれた鬼の両腕に間違いないでしょうし、ここは調べに行かない訳にはいかないでしょう」


「ありがとうございます」


「礼などいりませんよ、俺のためですから」


「どう言うことですか?」


「俺は鬼と関わり合いすぎました。天王山トンネルに現れた鬼は異能者である俺のことを知っていました。また鬼が現れたら、狙われる可能性があります。戦うのなら少しでも相手のことを知って置いたほうがいいですからね」


「そうですか。お二人を危険に巻き込んだようで、申し訳ありません。時間がよろしかったら、今からでもお願いしたいのですが」

 白石百々子が神妙に頭を下げている。


「サスケに出会った時から予感はありましたから、運命だと諦めています。早速いきましょうか?」

 仕事も入っていないので、ヒロミとサスケを伴って白石百々子の車に乗り込んだ。


 赤い車はかなりの高級車で、中もゆったりしていて乗り心地は最高だった。

 助手席に座ったヒロミは天王山トンネルでの出来事を白石に詳しく話していたが、俺はいつの間にか眠ってしまっていた。




 白石の車は出雲大社からさほど離れていない山道を走っていた。


『主、もうすぐ着きますよ』


「止まれ!」

 サスケに起こされた俺は、嫌な予感がして三分先の未来を見ていた。


「どうしたの?」


「カーブを曲がった所で落石が起きる」

 カーブの入り口で車が止まると、大きな岩が崖下に落ちていった。


「車から出るな!」

 敵意のある思念を感じて、俺とサスケは車を降りた。


「帰れ! ここから先は、村人以外は通さん!」

 山の中から出てきた五人の男が道を塞いだ。二人が猟銃を構えている。


「俺たちは警察に頼まれて峰尾村の様子を見に来たのだ」


「今は警察も村には入れん、帰れ!」

(こいつらは絶対に通さんぞ)

 男たちからは強い敵意が読み取れた。


「何があったか知らないが、長老に会わせて貰えないか?」


「長老たちは御祈祷中だ、誰も近づける訳にはいかない」

(世界を救う異能者が現れるまでは、長老たちを守るのだ)

 猟銃が完全に俺に狙いを定めている。


「俺たちは鬼を追っている者だ、それでも長老に会わせて貰えないか?」

 男たちが守護者の関係者だと分かったので、異能者である事を明らかにした。


「鬼を追っているだと」

 男たちが騒めき出した。


「峰尾村に保管されていた鬼の足が消えたのではないか?」


「貴様らは何者だ!」

 鬼の足のことを口にしたのが裏目に出て、完全に敵意を向けられてしまった。


 ズドーン。

 忠告なしにいきなり猟銃が発砲された。


「本当に異能者なのか?」

 動揺もせずに立っている俺に、男たちの方が動揺している。


「そうだと言っているだろ!」

 未来を見ていて猟銃が当たらないのが分かっていたから、微動だにせず男たちを睨み続けていた。


「どうする」


「あいつと戦っても勝てないだろ」


「仕方がない、長老たちのところに連れて行くか」

 男たちは横目で俺を見ながら話し合っていた。


「俺が先に戻って長老たちに知らせてくる」

 一番若そうな、と言っても五十は過ぎていそうな男が走り出した。


「分かった案内しよう。山道を行くから、車はここに置いておくのだな」


「分かった」

 俺たちは男たちの後に着いて山に分け入った。




 暫く歩くと古いトンネルの入り口の前に出た。


「入って貰えと言うことだ」

 先走りした男が待っていた。


「そうか。ここから先はあんた達だけで行ってくれ」


「この先に峰尾村があるのと違うのか?」


「この先には認められた者だけしか入れないので、何があるのか俺たちも知らないのだ」


「俺たちも先には進められなかったら、どうなる?」


「その時は死んで貰う」

 猟銃が俺たちに向けられた。


「分かった。行くぞ」

 俺は手掘りだと思われるトンネルに、ヒロミと白石とサスケを連れて入って行った。


(このトンネルは真っ直ぐ進んでもここに戻ってくるのだ、出て来たら村を守るために死んで貰うぞ)

 男たちの強い決意が伝わってきた。


 罠を気にして少し先の未来を見ながら歩いていると、前方に明かりが見えた。

 猟銃を持った男たちの思念が突然感じられなくなった所を見ると、俺たちは結界を突破したようだ。


「お待ちしておりました」

 トンネルを抜けた先には、平尾村と同じ隠れ里の光景が広がっていた。


 違うのは老人が二十人いる事だけだった。


「守護者の皆さんですね」


「ご存知でしたか」


「はい、別の隠れ里を訪れたことがありますので」


「そうでしたか。話しが速くて助かります、こちらにどうぞ」

 老人たちは俺たちを拝殿に案内すると、藁で編んだ座布団を勧めてきた。


「失礼します」

 長野の一件以来、修行の時は藁の座布団を使っているので尻が痛くなることはなかった。


「峰尾村では、鬼の右足のミイラを監視していましたが消えてしまいました。普通の盗難でないのは分かっていましたが、皆さんのような異能者の方が現れるのを信じて事件扱いされるように被害届を出しました」

 平重茂と名乗った長が、地方新聞に載った経緯を説明した。


「そうでしたか」


「これを受け取って貰える方がおられるとありがたいのですが」

 長が俺の前に巻物と木箱を差し出してきた。


「古文書と短刀ですか?」


「そうです。コッコ丸ともします」


「コッコ丸ですか、またまた変わった名前ですね。ヒロミ、チュンコ丸をお見せして」


「はい」

 ヒロミはバックからチュンコ丸を取り出すと自分の前においた。


「短刀をお持ちでしたか。五本の内の二本が揃ったのですね」

 長が感極まったような表情をしている。


「コッコ丸を見せて貰ってもいいですかね?」


「どうぞ、どうぞ。抜いて貰える方が折られることを願っています」

 老人全員が大きく頷いている。


 木箱から出したコッコ丸は、見た目はチュンコ丸と同じだった。


「やはり、俺には抜けないか」

 ビクともしなかったのでヒロミに渡した。


「これは私にも抜けないわ」

 チュンコ丸を簡単に抜いたヒロミにも抜けなかった。


「私?」

 コッコ丸を受け取った白石百々子は、老人たちに見詰められて表情を強張らせている。


 白石は左手で鞘を握ると、右手でゆっくりと柄を引っ張った。

 俺が力いっぱい引っ張っても抜けなかったコッコ丸の刃が、その姿を現した。


「抜けちゃった!」

 コッコ丸を翳す白石百々子が一番驚いた顔をしている。


「これで守護者の役から解放されます、ありがとうございます」

 老人たちが白石に頭を下げている。


「止めて下さい。私には……」

 白石は鞘に戻したコッコ丸を俺に渡してきた。


「コッコ丸が君を所有者と認めたのだ。君が持っていないと隠れ里の結界を出る事はできないのだぞ。そうですよね?」


「おっしゃる通りです。コッコ丸をよろしくお願いします」

 長が巻物と木箱を白石百々子に差し出した。


「分かりました、お預かりします」


「よし、帰るか。皆さんもお元気で」

 流石に長話が続き、尻が痛くなってきたので立ち上がった。


「ご武運をお祈りいたしております」

 俺たちを見送る老人たちの前に立った平重茂が、俺に向かって深々と頭を下げた。


 俺に鬼に立ち向かえと言われているようで重圧を感じたが、後戻りもできずに会釈で答えた。


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