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ザ・ファイブス  作者: タカミツ
第二章
16/20

鬼の両腕


 警察が使う追跡装置の受信機を白石百々子から極秘に手に入れた俺たちは、遠くから現金輸送車を追うことになった。


 犯人が異能者もしくは鬼と決まった訳ではないが、白石百々子の哀願を断り切れなかったのだ。


 俺はバイクでヒロミとサスケは車で警察には知られないように輸送車を追っていたが、犯人が高速道路に入ってからはバイクを捨てて車だけで追っている。


「ここで高速を降りよう」


「どうして?」


「もうすぐ高速道路は使えなくなる。天王山トンネルで大事故が起こるのだ」

 助手席で十五分先の未来を見ていた俺は、血の気が引いて行くのを感じていた。


「何が見えたの?」


「多くの車がぶつかり、そこにヘリが落ちてきて……」

 あまりの大惨事に言葉を続ける事ができなかった。


 トンネルの中に現れた黒い壁を見た俺は、足が竦んでしまった。京都府警に出現した黒いドームと同じ感じがしたのだ。


「リュウジ、しっかりして。鬼が現れたの?」

 大山崎インターで高速を出て駐車場に車を止めたヒロミが、震えている俺を見詰めてきた。


「ああ」

 自分でも声が震えているのが分かった。


『主、行きましょう。戦うと決めたじゃないですか』


「しかし、小鬼とは比べ物にならない力を感じるのだ」

 恐怖に支配されてしまった俺は、足が震えて車から降りられなかった。


「行きましょう。私も一緒に行くわ」

 ヒロミにもサスケの思念が届いているようだ。


『主よ、ここで逃げたら、また暗い人生を送ることになりますよ』


「私はリュウジと一緒なら何も怖くないわ」

 ヒロミがチュンコ丸を抜くと、暖かい光が俺を包んできた。


「そうだな、行くか」

 チュンコ丸の光のおかげで精神が癒されて落ち着いた俺は、ブレスレットから刀に戻した五郎丸を背負った。


 鬼の目的は分からなかったが、今戦わなければ後悔するのは確実だった。




 トンネルの方角から爆音が響き、黒煙が立ち上った。大惨事は防げなかったが、鬼の悪事だけは阻止しなければならない。


「サスケ、二人を乗せて走れるか?」


『任せて下さい』

「ワゥーーー!」

 一声遠吠えしたサスケはライオンほどの大きさになった。


「分かってはいたけど、サスケ君にも異能チカラがあるのね」

 ヒロミがサスケの頭を撫でた。


「これを被って行こう」

 トランクからフルフェイスのヘルメットを二個出すと、ヒロミに渡した。


『行きますよ!』

 顔を隠した俺とヒロミを乗せたサスケは、馬より速く走り出した。


 トンネルの入り口前は大騒ぎになっていたが、流石に人を乗せた大きな犬に目を向けない人はいなかった。

 必死で助けを求めている人達を無視して黒い壁の中に入ると、血生臭い空気が充満していて悲鳴が響き渡っていた。


「何も見えないわね」


「何とかなるさ。光源五郎丸」

 眩く光る刀をイメージして五郎丸を抜刀した。


 刃は光っていたが、電池がなくなる前の懐中電灯ぐらいの明るさでしかなかった。


「現れたか異能者、待っていたぞ!」

 片手で人間を持ち上げている男が俺を睨んできた。


「なぜ異能者を知っている!」


「お前に斬られた、こいつらが教えてくれたのさ」

 左手を突き出し男の手には指が無く、額に一本の小さな角が生えていた。


「京都で暴れた小鬼は、その指だと言うのか?」


「そうさ、そして俺はこの腕さ」

 持ち上げていた人間をほり投げた鬼が、右手で左腕を撫でた。


「なぜ、こんな惨い事をする!」

 鬼の足元に転がっている観光バスの乗客と思われる人の死体を見て、激しい怒りが込み上げてきた。


「鬼人界を蘇らせるためさ」


「鬼人界だと」


「大昔、人口が増える人間は住む場所を確保するために、共存していた鬼を冥界に追いやった。今度は人間がこの世界から追い出される番さ」


「そんなことはさせないぞ」

 光源五郎丸を構える俺は十秒先の未来を見ていた。光源をなくすと真っ暗で何も見えないのだ。


 蹴りがくるのが分かったのでその場を飛び退いた。


「お前の力は分かっている、今度は負けないぞ」

 鬼の姿が消えると同時に、腹部に激しい衝撃を受けて吹き飛ばされた。


 鬼の蹴りをまともに受けてしまったのだ。


「クソォ!」

 立ち上がると同時に二度目の蹴りを受けてしまった。


 未来を見て躱している筈なのに、まったくスビートについて行けなかった。




『サスケ君、リュウジが殺されてしまうよ』

 ヒロミの泣きそうな思念が俺にも届いてくる。


『自分の異能を信じて下さい』


『どうすればいいの?』


『先ずは明かりです。今のままでは五郎丸の力が発揮できません』


『明かり?』


『そうです。闇夜を照らす太陽のような光です』


「どうしたらいいの?」

 ヒロミがオロオロとしている。


『精神を統一してチュンコ丸を抜くのです』


「太陽チュンコ丸!」

 サスケの指導を受けるヒロミがチュンコ丸を抜いて頭上高く掲げると、刃が眩しく輝きトンネル内が昼間のような明るさになった。


 一瞬俺も目がくらんだが、直ぐに視力が戻った。


 同じ顔をした鬼が二体いて、暗がりを利用して交互に俺を攻撃してきていたのだ。


「雑魚異能者が何人いようが無駄なことよ」

 鬼の一体がヒロミに向かっていったが、サスケの体当たりで吹き飛ばされた。


「聖剣五郎丸!」

 異能の全てを五郎丸に注ぎ込むと、黒く変わった刃は鋭さが数倍に跳ね上がっている。


「行くぞ!」

 鬼を追って走り廻った。


 サスケを相手に続けていた修行は無駄ではなかった。


 体が解れてくると、鬼のスピードについて行けるようになってきた。


 だが聖剣五郎丸の斬撃は紙一重で躱されているし、サスケの爪攻撃も躱されて鬼にダメージを与えることができなかった。


「人間ごときが!」

 鬼は車を持ち上げると投げつけてくる力があった。


『サスケ、そいつを右に飛ばせ』

 鬼の攻撃を避けながら思念を送ると、斬撃を飛ばした。


 サスケの攻撃を避けて横に飛んだ鬼の左腕が、聖剣五郎丸の斬撃で斬り落ちた。


 片腕になった鬼にサスケの追撃がヒットして、壁に激しく激突すると血を噴き出して動かなくなった。


 激しい攻防戦の中で勝利の兆しが見えた時、俺が追っていた鬼が、指のない左腕を拾うと自分の左肩にくっつけた。


「オオオォォォ!」

 唸り声を洩らす鬼が一回り大きくなると、額に二本の角が現れた。


「何だ!」


「勝ったつもりだろが、俺は両腕が揃ってこそ本当の力が出せるんだ」

 牙を剥きだした鬼は片手で車を掴むと、振り回しながら俺に迫ってきた。




『主、逃げて!』

 サスケが鬼に飛び掛かって行った。


「邪魔だ!」

 鬼の拳が唸りを上げると、サスケが壁に激突した。


「くそォ!」

 歯を食いしばって鬼を睨んだ。気を張り詰めていないと、恐怖に呑み込まれてしまいそうになっている。


 聖剣五郎丸に異能を注ぎ込んでいる俺は未来を見る事ができずに、刀を構えたまま後退りするしかなかった。

 鬼の一撃を食らえば死は免れないだろう。


「チュンコ丸、リュウジを守って!」

 ヒロミの悲痛な叫びがトンネル内に響いた。


「終わりだ!」

 鬼が車で俺を叩き潰しにきた。一撃で道路が陥没して、クルマが変形している。


 チュンコ丸から溢れ出す暖かい光に包まれた俺は、羽のように体が軽くなっていくような気がしていた。


 攻撃を避けようと軽くバックステップすると、五メートルほど後方に飛び退いていた。


「ガオォ!」

 血相を変える鬼は力で俺を潰そうとして、車で何度も地面を叩いてきた。


 反復横跳びで攻撃を躱しながら動いていると、一瞬で鬼の背後に回り込む事ができた。自分でも信じられないスピードで動けるようになっているのだ。


「これまでだ!」

 俺を見失って慌てている鬼に五郎丸を振り下ろすと、右腕を斬り飛ばした。


「グーッ」

 唸り声を洩らす鬼は右腕を拾うと、切口にくっつけようと焦っている。


「留めだ!」

 全異能を五郎丸に注ぎ込むと、大きくなった刃を鬼の頭上に振り下ろした。


「ガオォ~~~」

 断末魔を上げて鬼が倒れると両腕が煙となって消え、後には骨と皮だけになった人間の死体が残っていた。


「サスケ君!」

 ヒロミが倒れているサスケに駆け寄って行った。


「サスケ、大丈夫か」


『主、やりましたね』

 サスケの苦しそうな思念が届いた。


「サスケ君、今助けるからね」

 ヒロミが泣きながらチュンコ丸をサスケに近づけると、暖かい光が溢れ出した。


『ありがとうございました』

 サスケが起き上がると、ヒロミが気を失って倒れてしまった。


 一気に異能を使い過ぎて精神が疲弊してしまったようだ。


『主、今回の鬼って?』


「間違いなく、長野県の平尾村で消えた鬼の腕だろうな」


『厄介な事になりそうですね』

「そうだな。それよりも、ここから早く立ち去らないともっと厄介な事になりそうだ」


 黒い壁が消えたのか、遠くから人の声が聞こえてきた


『そうですね。僕の背中に乗って下さい』


「ケガは大丈夫か?」


『はい。ヒロミの異能のお陰で全快しています』


「そうか。彼女の異能も凄い物だなぁ」

 ヒロミを抱き上げた俺は、サスケに乗って悲惨な現場を後にした。


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