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ザ・ファイブス  作者: タカミツ
第二章
12/20

消えた鬼の腕


 長野県の山奥にある平尾村は、一時は100人以上の村人がいたが、過疎化が進み今では10人のお年寄りが残っているだけだった。

 住民の家族から両親がいなくなったと連絡があり、地元の警察が調べたところ住民全員が消えていた。


 消防の応援も受けて捜索したが誰一人見つからず、警視庁の科捜研からも調査員が来たが村人の失踪に繋がる手掛かりは何も掴めなかった。


 俺たちが平尾村に入ったのは村民失踪から三週間が過ぎていて、警察の捜索も打ち切られて村には人影がなかった。


「本当に誰もいないわね」


「家族の人にも生活がありますから、何時までもここに残ってはいられなかったのでしょう」

 元刑事と現役調査官は村を一回りすると意見を交わしている。


「村人は近くにいるなぁ」


「本当なの?」

 ヒロミと白石百々子が俺をマジマジと見詰めてくる。


「裏山の洞窟に避難しているようだ」


「避難って、何から?」


「会えば詳しい事が分かるだろう」

 村人の思念から読み取れるのは、鬼の復活を恐れていると言う事だけだった。


 神社の裏山を登って行くと、小さな祠の裏に隠された洞窟の入り口があった。


「この奥にご老人達がいると言うの」

 辛うじて人が潜っていけるだけの小さな穴を前にして、二人は俺を疑っている。


「行けば分かるさ」

 腹這いになると洞窟に入って行った。

 暫く進むと穴が広がって行って、立って歩けるまでになった。

 さらに進んで行くと、奥に明かりが見えてきた。


「行きましょう!」


「待て!」

 白石百々子が走り出そうとしたので止めた。


 五秒先の未来を見ると罠の発動が見えた。

 壁から飛び出してくる槍。深い落とし穴。崩れ落ちる天井。一つでも引っ掛かれば命はないだろう。


「どうしたの?」


「罠が仕掛けられている」


「罠!」


「足元に注意して歩くのだ。俺と同じところを踏んでくるのだぞ」

 二人に注意を促すと三秒先を見ながら歩いた。罠が発動したら踏む位置を変えながら進んだ。


 十五分掛かって二十メートル進むと、隠し里に出た。

 眩しいほど明るいそこ一帯は、神秘的な雰囲気が漂っていた。




「洞窟の奥に、こんな素敵な所があるなんて信じられない」

 ヒロミと白石百々子が目を輝かせている。


 開けた場所の真ん中には小さな神社が建っていて、澄んだ水が流れる小川の周辺には見慣れない花がたくさん咲いていた。


「継承者以外の初めての訪問者ですな」

 俺たちが来るのが分かっていたかのように、神社の前に十人の老人が立っていた。


「平尾村の方々ですね、お話しを聞かせて頂けますか?」

 俺が頭を下げると、玄崎宏美と白石百々子も頭を下げた。


「お待ちしていました、儂は長の平源蔵です」

 一人が一歩前に出てきた。


「明石龍二です。そして玄崎宏美と白石百々子です」


「立ち話も何ですから、上がって下さい」

 老人達は拝殿に上がると、藁で編んだ丸型の座布団に座った。


「失礼します」

 勧められて腰を下ろしたが、すぐにお尻が痛くなりそうな座布団だった。


「隠れ里に入って来られたと言う事は、皆さんは異能者ですな」


「どうして異能者の事をご存じなのですか?」


「古文書が残っているからじゃ」

 一人の老人が本殿の扉を開くと巻物と木箱を取り出して、長の前に並べた。


「これに詳しく書かれてあるのだが、読めるかな?」


「残念ながら読めません。何が書いてあるか教えて貰えますか?」

 平源蔵が巻物を渡してきたので紐を解いて広げたが、全く読める文字ではなかった。古文書を研究している人にしか読めないだろう。


「概要は、この隠れ里と社は五百年前に異能者が造り、二十人の守護者に時が来るまで守らせる旨。守護者は鬼の腕を監視し異変が起きた時は、チュンコ丸を異能者に渡す旨の事が書かれているのです」


「守護者とは貴方方の事ですか?」


「そうです。我々は一子相伝で伝えてきたのですが、残念ながら十人になってしまいました」


「五百年も守って来られたのですか、頭が下がります」

 ご老人達に敬意を表して頭を下げた。


「儂らは、ただ見守ってきただけだ」


「しかし、どうして隠れ里に姿を隠されたのですか?」


「平尾村の神社に保管されていた鬼の腕が消えたからだ」


「最初は半年ほど前に五本の指が消えたので注意していたのだが、二週間前に両腕とも消えてしまったのだ」

 全員が暗い表情になっている。


「誰かが持ち出したのですか?」


「それならいいのだが。鬼の腕は異能者の力で封印されていて、儂らにも触れる事ができなかったのだ」

 平源蔵が無念そうに頭を振っている。


「すると鬼の腕は尋常ではない力で持ち出されたと、おっしゃるのですね」


「そうじゃ。そしてこの隠れ里への洞窟みちが開いたので、皆で移って来たのじゃ」


「そうでしたか」


「家族には心配をかけて申し訳ないと思っておる」

 ご老人達は俺たちが来たことで、少し安堵されたように見えた。


「その鬼の腕とは、どう言う物だったのですか?」


「五百年前に異能者が倒したとされる鬼の両腕のミイラです。他にも頭部、胴体、右足、左足が別の場所に封印されているはずです」


「それらは何処にあるのですか?」

 京都に小鬼が現れたことと、今回のことが無関係だとは思えなかった。


「残念ながら巻物にも書かれていませんし、儂らにも伝わってはいないんじゃ」


「そうですか」

 自力で探し出さなければならないと思うと気が重くなった。


「これをお渡ししたいのですが、受け取って貰えますかな?」

 平源蔵が木箱を差し出してきた。


「何でしょう?」


「チュンコ丸と言う短刀です」


「変わった名前ですね」

 木箱を開けると五郎丸を小さくしたような、三十センチほどの短い刀が入っていた。


「名前は巻物に書かれた物です。そして聖剣を守るとされる短刀が、他に四本あるとも書かれています」


「うん?」

 手にした短刀を抜こうとしたが、ビクともしなかった。


「それは貴方が持つべき物ではなさそうですな」

 平源蔵が残念そうに小首を振っている。


「白石さん、抜いてみてくれないか?」

 チュンコ丸を異能者である白石百々子に渡した。


「抜けないわ」


「それが抜けないと隠れ里から持ち出す事ができませんし、儂らの役目も終わらないのじゃが。そちらの彼女かたはどうじゃろうな」

 ご老人全員がヒロミを見ている。


「私には無理だと思うわ」

 白石百々子からチュンコ丸を受け取ったヒロミは、俺に困った顔を向けている。


「やってみな」


「分かったわ」

 ヒロミが鞘と柄に手を掛けて引くと、光る刃がスーッと姿を現した。


「チュンコ丸と同調する異能の持ち主は貴女でしたか、チュンコ丸を大事にして下さい」

 ご老人全員がヒロミに頭を下げている。


「私が異能者?」

 チュンコ丸を鞘に戻したヒロミは戸惑った表情をしている。


「これで儂らの守護者としての役目は終わりました。平尾村に戻って静かに余生を送りたいと思います」


「そうですか、長い間お疲れ様でした。そして、色々とお話しを聞かせて貰ってありがとうございました。我々はお先に失礼します」

 老人達に別れを告げると隠れ里を後にした。




「これを持っていると銃刀法違反に問われますよね」

 車に戻ったヒロミが、突然チュンコ丸を俺に渡してきた。


「バカだなぁ。ヒロミにしか抜けないのだから、誰も本物の刀だと思わないさ」


「玄崎さんには、どのような異能があるのでしょうか?」

 白石百々子が俺とヒロミを交互に見詰めている。


「俺にも分からないが、チュンコ丸を手にしたことで何らかの異能が覚醒するのは間違いないだろうな」


「私も異能者の仲間入りができるのですね」

 ヒロミの笑顔が少し怖かった。


『主、どうするのですか?』

 サスケがニタニタしている。


『何がだぁ?』


『お二人の約束、聞いていましたよ』


『変なことを思い出さすな。ヒロミが忘れているかも知れないだろ』

 チュンコ丸を手にしたことで意識が変わることを願うしかなかった。


「明石さん、事件解決にご協力頂きありがとうございました。私はこのまま東京に戻ります、今回の費用などに関しましては改めて連絡させて頂きます」


「そうですか、落ち着いたら連絡を下さい」

 真っ赤な車に乗り込む白石百々子を見送ると、俺とサスケはヒロミの車に乗り込んだ。


「今日中に戻るのは無理だから、市内のホテルで休んでから帰りましょうか?」


「着替えがないからホテルに入るは無理だぞ」

 二人とも狭い洞窟を匍匐前進したので、体の前面が泥だらけになっていた。


「ラブホテルなら人に会わないから大丈夫よ」

 ヒロミが大胆な事を言ってきた。


「流石にペット同伴が可能なラブホはないだろ」


「スマホで調べてみて。疲れているので、一人で京都まで運転するのは無理よ」


「調べてみるよ」

 俺はバイクの免許しか持っていなかったので、ヒロミの意見に逆らえなかった。


「どうだった?」


「ないことはないようだよ」


「それじゃ行きましょうか。ナビに場所を入れて」

 ヒロミの声が弾んでいる。


「しかしラブホは、まずいのじゃないか」


「護身術には自信があるわ。リュウジが襲ってきたら返り討ちにするから気にしないで」


「あのなぁ」


『主よ、諦めるのですな。彼女も異能者なら一緒に戦って行くことになるのですから、仲良くしましょう』


『黙っていろ』

 サスケが面白がっているようでイラっとした。


『一キロ先の信号を右折です』

 ナビの入力が終ると機械的な音声が案内を始めた。


 一時間ほど走ると派手なネオンのホテルが見えて来て、ヒロミが運転する車が入って行った。


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