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ザ・ファイブス  作者: タカミツ
第二章
11/20

幕間3 特別調査班班長白石百々子


 警視庁科捜研の研究員である私は、京都府警本部で起きた事件の特別調査班の班長に任命された。

 死者・負傷者150人を超える前代未聞の事件はテロ事件として報道されたが、事実は怪奇現象で解決への手掛かりは何もなかった。

 死体で発見された五人の殺人犯の遺体から謎のDNAが見つかり、私を含め十人の特別調査班が結成されたのだ。

 事件は究明されないまま半年経ち捜査規模は縮小され、特別調査班も三人になり私も数日後には東京に戻ることになっていた。


「こんにちは、私は警視庁の白石百々子と申します。こちらに玄崎宏美さんがおいでになると思うのですが、お会いできないでしょうか?」

 明石探偵事務所のインターホンを押した。


 事件後、ストレスなどで退職した警察関係者が五十人以上に上ったがその中に何人か気になる人物がいたので、担当部門ではないが最後に話を聞きに廻っているのだ。


「門の鍵は開いていますので、お入り下さい」

 若い男性の声が返ってきた。


 木製の立派な門を入ると、利口そうな柴犬が走って来て私を案内するように前を歩いた。


「玄崎は買い物に出ていますが、もうすぐ帰ってきますので暫くお待ち下さい」

 縁側に腰掛けていた若い男性が笑顔で迎えてくれた。


「そうですか、では待たせて貰います」


「俺は明石龍二です」

 名刺を渡すと、男性も名刺を差し出してきた。


「貴方が所長さんですか、よろしくお願いします」

 仕事を頼みに来た訳ではないのに頭を下げてしまった。彼の名刺から何の思念も感じ取れず、異様な威圧感を感じたのだ。


 私には人が触った物に残っている残留思念を読み取る特別な能力があるのだ。特に二週間以内の新しく強烈な思念は、鮮明に読み取る事ができたのだが……。


「そうですか。特別調査班の班長さんですか、大変なお仕事のようですね」


「科捜研で事件現場の証拠集めと分析をしています」


「そうですか。警察関係の方と言うことは、玄崎とはお知り合いか何かでしたか?」


「いいえ。ある事件の件でお聞きしたい事がありましてお邪魔させていただきました」


「帰って来たようです。すぐにこちらに来ると思います。サスケ、勝手口に行って呼んでくるのだ」


「ワン」

 主人の命令を理解したのか柴犬は走っていった。かなり賢い犬のようだ。


「客人を外に立たせたままで申し訳ありません。どうぞお上がり下さい」

 明石龍二は庭先に立っている私を座敷に招き上げた。


「お邪魔します」

 初めて玄関からではなく、縁側から余所の家に上がった。


 座卓は黒檀でできた立派なもので、他の調度品も高価な物が並んでいた。

 今まで色んな所で残留思念を読み取ってきたが、綺麗に掃除された床からも座卓からも何も感じ取れなかった。


「私にお客様でしたか、お待たせしました」

 サスケと呼ばれた柴犬を伴った美人が座敷に入ってきた。

 若々しく化粧した玄崎宏美は、写真で見た刑事時代の彼女とは別人のようだった。


「俺は用事がありますので失礼します」

 明石龍二が玄崎宏美と入れ替わるように座敷を出ていったので、少しホッとした。




「貴女の刑事時代の事で、幾つかお聞きしたい事がありましてお邪魔しました」

 名刺を渡すと単刀直入に切り出した。


「まず、なぜ警察を辞められたのですか?」


「府警本部で起きた爆発で知り合いが何人も亡くなって、その人達の事が忘れられなかったことと、死に顔が夢に出て来てきて……」


「嫌な事を思い出させて申し訳ありません」

 玄崎宏美が顔を伏せてしまったので頭を下げた。


「いいえ、大丈夫です」


「あの事件の時、貴女も現場におられましたよね?」


「はい。近くで住民の誘導に当たっていました」


「その時、何か見たり聞いたりしませんでしたか?」


「あの事件の事は上司にも詳しく話しました。それ以上のことは何も」

 玄崎宏美は記憶を振り払うように小さく首を振っている。


「そうですか。報告書には全て目を通しましたので分かっています」


「あの事件のことは思い出したくないのですが、何か新しいことが分かったのなら聞かせて貰えませんか?」


「残念ながら何も分かっていません。公安はテロ事件として捜査しているようですが、私は怪奇現象だったと思っています」


「怪奇現象ですか?」

 玄崎宏美が怪訝な表情をしている。


「そうです。人知の及ばないことが起きたのだと、私は思っています」

 玄崎宏美を見詰めているが表情に変化は起きなかった。元刑事だったのだから、簡単には素性を表したりはしないだろう。


「人知の及ばないこととは、どのようなことですか?」


「あの事件現場で、五人の殺人犯が死んだのは御存じですよね」


「はい。連続殺人事件の捜査には参加していましたから」


「そうでしたね。五人の男がどのように死んだかは御存じですか?」


「爆死だと聞いていますが、違うのですか?」


「違います。これは警察の上層部しか知らないことなのですが」


「待って下さい。私はもう警察の人間ではありませんので、これ以上は」

 玄崎宏美が手を衝き出して私の話しを遮ってきた。


「そうですか」

 玄崎宏美は何か知っているようだが、何の根拠もないので踏み込めなかった。


「他に私にお尋ねになりたい事がありますか?」


「貴女はどうしてこちらで働いておられるのですか?」


「叔母が優秀な探偵さんだからと紹介してくれたので、無理を言って働かせて貰っています」


「そうですか。所長さんにも少しお話しを聞きたいのですが、無理でしょうかね」

 屋敷に訪ねて来た時から感じている違和感を消すために、もう一度明石龍二と話しがしたかった。


「どうでしょう。サスケ君、ご主人を呼んで来てくれるかな」

 玄崎宏美は隣に寝転んでいる柴犬の頭を撫でた。


「ワン」

 柴犬は一声吠えると座敷を出てい行った。


「賢い犬ですね」


「ですね」

 初めて見せる玄崎宏美の作り笑いが凄く気になった。


「すみませんが、貴女の名刺を頂けないでしょうか?」


「ごめんなさい、作っていないのですよ」


「警察時代の物でもいいのですが」

 玄崎宏美が柴犬に対して感情を露わにしたので、彼女の持っている物に触れたかったのだが、


「あの頃の物は全て捨ててしまいました」

 と、こともなげに言われてしまった。


「そうですか、無理もありませんよね」

 明石探偵事務所に来てからの違和感が分かったような気がした。


 誰にも知られることがなかった私の異能チカラがバレているのだと思うと、全身に恐怖が走った。

 明らかに玄崎宏美は、私の異能を知っていて何も渡さないようにしているのだ。




「玄崎への聴取は終わりましたか?」

 明石龍二がニコニコしながら入ってきた。


「聴取だなって、少しお話を聞かせて貰っただけです」


「俺にも何かお聞きになりたいのですか?」


「いいえ、探偵さんにお仕事をお願いしようかと思いまして」

 どちらが異能者かは分からなかったが、明石龍二に見詰められていると心の中まで見透かされているような気がした。


「迷子の動物探しでしたらお引き受けしますよ」


「迷子の動物探しですか?」


「そうです、それがうちの専門業務ですから」


「他の仕事は受けて貰えないのですか?」


「はい。特に危険が伴う仕事は全てお断りしています」

 明石龍二はニコニコしているが、眼差しは鋭かった。


「そうですか。他を当たってみます」


「そうして下さい。あの刀が気になっているようですね。模造刀ですが見てみますか?」

 明石龍二は床の間に行くと、飾られていた刀を手にした。


「いいのですか。お願いします」


「ただのオモチャですよ」

 明石龍二は笑いながら渡してきた。


 刀を手にした私は眩暈を覚えた。全身真っ赤に血に染まった殺人犯が、一刀両断にされて倒れる姿に吐き気が襲ってきたのだ。

 府警本部での事件からはすでに半年以上が経っていて残留思念などあるはずがないので、これは明石龍二の思念に間違いなかった。


「そうですか、この刀で殺人犯を斬られたのですね」

 座卓に両手を突いた私は、それだけ言うのが精一杯だった。


「大丈夫ですか?」


「は、はい」

 その後、府警を襲った鬼について、明石龍二の異能について話を聞いた私は、これからどんな事件が起きるのか想像もつかなかったが、異能者同士として彼と盟約を結んだ。


 そしてもうひとつ私を悩ませている、長野県の山奥で突然消えた村民の捜索を依頼したのだった。


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