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ザ・ファイブス  作者: タカミツ
第二章
10/20

異能者が現れる


 仕事が入ればサスケとヒロミを連れて迷子の動物を探し、仕事のない日は修行に励む日が続いていた。


 そして、妖刀五郎丸改め聖剣五郎丸と呼ぶようになった刀を、自由に扱えるようになるための努力もしている。


「リュウジ、買い物に行ってきます」


「分かった」

 今ではヒロミに声を掛けられても心を乱すことなく、精神統一ができるようになっている。


『主、もしかして童貞を卒業されたのですか?』


「サスケ!」

 初めて浮かすことができた皿が落ちて割れた。


『その程度では、戦いには役に立ちませんよ』


「怒るぞ!」

 新しい異能チカラ念動力の発動を邪魔されて、サスケを睨んだ。


『主、何か感じませんか?』


「うん、彼女は何をしているのだ?」

 一分先の未来を見ると、白いスーツ姿の女性が目を閉じて表の看板に触れているのだ。

(綺麗に拭かれているのに、何も感じないなんて?)

 女性の心を覗いて驚いた。異能チカラの概要は分からないが、初めて出会った異能者のようだ。


『どうしました?』


「異能者だ、注意しろ」

 何時かはこんな日が来るとは思っていたが、向こうから訪ねて来たことに緊張が走った。


「こんにちは、私は警視庁の白石百々子と申します。こちらに玄崎宏美さんがおいでになると思うのですが、お会いできないでしょうか?」

 インターホンから若い女性の声が聞こえてきた。


「出迎えに行くのだ」

 サスケに指示すると、白石百々子を迎え入れた。


「玄崎は買い物に出ていますが、もうすぐ帰ってきますので暫くお待ち下さい」

 門を潜って入って来たのはビジネススーツではなく、少し派手なスーツを着こなした二十代の美人だった。


「そうですか、では待たせて貰います」


「俺は明石龍二です」

 白石百々子が名刺を出してきたので、俺も名刺を渡した。


「貴方が所長さんですか、よろしくお願いします」

(名刺からも何も感じないなんて、ここまで感情を抑え込んだ人に会ったのは初めてだわ)

 白石百々子の驚きに満ちた思念が飛び込んでくる。


「そうですか。特別調査班の班長さんですか、大変なお仕事のようですね」

 それとなく様子を見ながら会話を交わした。敵対心はないようだが、俺に疑念を抱いているのは確かだ。


「科捜研で事件現場の証拠集めなどをしています」


「そうですか。警察関係の方と言うことは、玄崎とはお知り合いか何かでしたか?」


「いいえ。ある事件の件でお聞きしたいことがありましてお邪魔しました」

 白石百々子は鋭い眼差しで俺を見詰めている。


「帰って来たようです。すぐにこちらに来ると思います。サスケ、勝手口に行って呼んでくるのだ」


「ワン」


「賢い犬ですね」

 白石百々子は走っていくサスケを見ている。


「客人を外に立たせたままで申し訳ありません。どうぞお上がり下さい」

 庭に立っている白石百々子を座敷に招き上げた。


「お邪魔します」

 靴脱ぎ石でハイヒールを脱いだ白石百々子は、不自然に縁側に手を衝いて上がり込んできた。


「立派な机ですね」

(不思議なほど何も感じないわね?)

 白石百々子は首を傾げなら、黒檀でできた座卓にも不必要に触れている。


「前の住人が残しておいた物を使わせて貰っているのですよ」

 彼女の行動から、白石百々子が物品に残っている残留思念を読み取っているのが分かった。


「そうなのですか」

 周りを観察している白石百々子の目は、床の間に飾ってある刀に釘付けになっている。


「私にお客様でしたか、お待たせしました」


「俺は用事がありますので失礼します」

 ヒロミが入って来たので座敷を後にした。姿が見えない所からの方が心を読みやすいからだ。




 白石百々子は純粋にヒロミに話しを聞きに来ただけで、俺と出会ったのは偶然だったようだ。


 彼女の異能は触れた物に残っている思念を読み取る物で、新鮮で強烈な思念ほどはっきりと読み取れるようだ。

 二十代の若さで班長を任されているのは、異能を使って犯人の検挙に繋がる証拠を数多く見つけているからだった。


 白石百々子はヒロミが府警本部で起きた事件に関与したと思っているようだが、確信に至る物は持ち合わせていないようだ。


 他にも白石百々子が、府警本部の事件以外にも難問を抱えていることも分かった。

 長野県の山奥の集落で起きた、村民全員の失踪事件だった。かなり厄介な事件のようで、彼女の異能を持ってしても真相究明に至らなかったようだ。


 庭に出て意識を集中して白石百々子の心を覗いているが、深層部にはガードが掛かっていて読み取れなかった。


『主よ、お呼びですよ』

 ヒロミと一緒にいたサスケが庭に出てきた。


「うん、分かっている」


『どうされたのです?』


「初めて出会った異能者と、どう接するか迷っているのだ」


『敵でないのなら手を組めばいいではありませんか』


「面倒事が増えそうだしなぁ」


『主が大きく変わるには、早く童貞を卒業することですよ』


「まだ言うか!」

 拳を振り上げるとサスケを追い掛けた。


『いつまでサスケ君と遊んでいるのですか、早く来て下さい!』

 庭を走り廻っていると、ヒロミの少し怒った思念が飛んできた。


『すぐに行くよ』

 思念で返事をすると座敷に向かった。




「玄崎への聴取は終わりましたか?」


「聴取だなって、少しお話を聞かせて貰っただけです」


「俺にも何かお聞きになりたいのですか?」


「いいえ、探偵さんにお仕事をお願いしようかと思いまして」


「迷子の動物探しでしたらお引き受けしますよ」


「迷子の動物探しですか?」


「そうです、それがうちの専門業務ですから」


「他の仕事は受けて貰えないのですか?」


「はい。特に危険が伴う仕事は全てお断りしています」


「そうですか。では他を当たってみます」


「そうして下さい。あの刀が気になっているようですね。模造刀ですが見てみますか?」

 床の間の刀を示唆した。異能者同士手を組むことにしたので、聖剣五郎丸の力の一端を見せることにしたのだ。


「いいのですか。お願いします」


「ただのオモチャですよ」

 真剣な表情で五郎丸受け取る白石百々子の手が触れた瞬間、彼女の意思が一気に流れ込んできた。心の深層に掛けていたガードを外したようだ。


 彼女も俺と同じよう異能者である事にかなり苦しんだようだが、今は人のために異能を使う道を見つけて頑張っているようだった。


「そうですか、この刀で殺人犯を斬られたのですね」

 座卓に両手を突いた白石百々子は、見開いた目で俺を見詰めている。




「これから話す事は決して口外しないで下さい」

 座卓の前に座ると白石百々子を見詰めた。


「どのような事でしょう?」

 落ち着きを取り戻した白石百々子が真剣な表情をしている。


「約束してくれますか!」

 少し語尾を強めて確認した。気をつけていないと、異能者だと世間に知られていいことは何もないのだ。


「約束します」


「貴女は、俺が自分と同じ異能者だと思っていますよね」


「はい」

 白石百々子が頷いた。


「府警本部で起きた事件を警察がどう幕引きするか分かりませんが、あれは小鬼が暴れた所為で起きた事件です」


「小鬼ですか?」


「五人の殺人犯が何らかの力で鬼と化して暴れたのです」


「私も現場に行ったのですが、あれだけの惨事だったのに思念が残っていなかったのはなぜでしょうか?」


「詳しくは分かりませんが、ドームの所為ではないでしょうかね」

 俺にも分からないことだった。


「現場の遺体の大半は撲殺されたものでしたが、犯人の遺体だけは刀のような物で斬られていました。あれは貴方がこの刀で斬られたからですね」

 白石百々子は今は模造刀でしかない五郎丸を、畏怖を込めて見詰めている。


「そうです、死因は警察で調べているのでしょ。他に何か出ましたか?」

 俺が最も気にしている事を聞いてみた。


「これは極秘事項なのですが、犯人の遺体からは特殊なDNAが見つかっています。まだそれが何なのかは分かっていません」


「そうですか。その謎のDNAが、人間が鬼になった原因でしょうかね?」

 五芒星に、謎のDNAによる鬼化、闇が広がって行くばかりだ。


「鬼ですか? 鬼にはどのような力があったのですか?」


「鎌を掛けていますね」


「いいえ、お二人があの現場におられたと確信して聞いています」

 白石百々子は真剣な眼差しを俺とヒロミに向けている。


「そうですか。鬼は人間の手足を簡単に引き千切る力を持ち、ショットガンで撃たれても死にませんでした」

 白石百々子と手を組む以上、鬼の恐ろしさを知っておいて貰う必要があった。


「そんな……」

 白石百々子は驚愕に表情を強張らせている。


「貴女もこれ以上首を突っ込むのでしたら、鬼と戦う覚悟しておいて下さい」


「お二人は、戦う覚悟をされているのですか?」

 白石百々子の端麗な頬から血の気が引いている。


「我が身に危険が降り掛かるようでしたら、全力で戦いますよ」

 進んで危険を冒す気はなかったが、降り掛かる火の粉は振り払わなければならないとやんわりと逃げておいた。


「私は自分の異能が人の役に立てばと思い今の仕事をしています、ですが異能を他人に知られることだけは避けなければならないと常々考えています」


「俺も自分の異能を人に知られることだけは、避けたいと思っています」


「もし私の異能が役に立つようでしたら、一緒に戦わせて下さい」


「分かりました。宜しくお願いします」

 白石百々子にはそれなりの覚悟がありそうなので、仲間になる事を誓い合った。


「玄崎さんにはどのような異能があるのですか?」

 白石百々子が静かにしているヒロミに声を掛けた。


「私には何の異能もありません」

 ヒロミが寂しそうに俯いた。


「彼女は修行中なのです。サスケと話せるようになっているので、その内に異能に目覚めると思っています」

 白石百々子が帰ってから暴走されると怖いので、必死にフォローした。


「修行ですか?」


「俺も異能を磨いている最中ですからね」


「どのような事をされているのですか?」

 白石百々子が食いついてきたので困ってしまった。


「精神統一をして、一つの事に意識を集中させる練習をしています。たとえば、こんな事などです」

 座卓の上のボールペンを浮かせて見せようと頑張ったが、二人の女性の熱い視線が気になって少し転がって終わってしまった。


「触れずに物を動かせるなんて凄いですね」

 白石百々子が大きな目を輝かせて感心している。


「まだまだですよ。ところで先ほど仰っていた、動物探し以外の仕事とはどのような事でしょうか?」

 失敗を笑ってごまかし、話を変えようと焦った。


「人を探して欲しいのです」


「誰を探すのですか?」


「10人の村人です」


「はい?」

 彼女の心を覗いて事件の概要は知ってはいたが、驚いて見せた。


「先日まで長野県で起きた村民失踪事件の調査に行っていたのですが、10人もの人が突然消えたのに何の手掛かりも見つからないのです」


「貴女の異能を使っても分からなかったのですか?」


「はい。各家を回ったのですが、残留思念が消えてしまっていたのです」


「不思議な事もあるのですね」


「探して貰えますか?」


「動物と違って、人探しは高くつきますよ」


「異能者同士の割引とかはないのですか?」


「警察に俺の知りたい情報がある時に、こっそりと教えて貰えるようでしたら考えなくもないですよ」


「警察には守秘義務がありますから」

 元刑事のヒロミを見る白石百々子は、困った表情をしている。


「そうですか。玄崎はどうしたらいいと思う?」

 サスケの頭を撫でているヒロミに意見を求めた。

 心を読まなくても彼女のイライラが伝わってきているのだ。


「私はもう警察とは関係ありませんし、所長がお決めになって下さい。今は他に仕事も入っていませんので、お受けになられたいかがですか」

 異能のないヒロミには、俺と白石百々子の会話が弾んでいる事が気にいらないようだ。


「そうか、では引き受けようか」


「ありがとうございます。できる限りのお支払いはさせて貰いますのでよろしくお願いします」


「分かりました」


「東京に戻る前に休みを取りますので、長野に同行して下さい」


「京都の事件はどうなるのです?」

 東京に帰ると聞いてヒロミの表情が少し和らいでいる。


「現状では迷宮入りですね」

 鬼の関与を知った白石百々子は、事件が解決しないと考えているようだ。


「やはり、そうなるでしょうね」

 ヒロミが小さく頷いている。


「今日はお時間を割いて頂いてありがとうございました」


「長野にはいつ行かれますか?」


「二、三日中に連絡させて貰います」


「私も一緒に行ってもいいでしょうか?」


「もちろんです、お願いします」

 白石百々子は異能があるのに、ヒロミが訳の分からないライバル心を燃やしていることに気づいていないようだ。


『主、彼女を送ってきます』

 サスケは帰る白石百々子を追って座敷を出て行った。


『逃げたな』


「リュウジ、どうして私の心を読まないの」

 二人きりになるとヒロミが詰め寄ってきた。


「君を危険に巻き込みたくないからだよ」


「私に異能がないからダメなの?」


「サスケと会話ができる君は、異能に目覚めると俺は思っているよ」


「私が異能に目覚めたら、私を受け入れてくれる?」

 ヒロミが真剣な眼差しで見詰めてくる。


「わ、分かったよ」

 美貌を近づけられると戸惑ってしまう。


「約束よ」

 ヒロミは笑顔で座敷を出て行った。


(女は怖いな)

 五郎丸を手にした俺は心の中で呟いた。


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