YU07 鶴ヶ峰(つるがみね)の自殺志願者
昨日、わたしは線路に飛び降りるはずだった。
電車が入ってきたタイミングでふらついたフリをして飛び出し、死ぬつもりだったのに、失敗した。
今日こそと思って昨日と同じ場所に立っていると、わたしを虐めた主犯格がまさに今こちらへ向かってくるところだった。
丁度いい。目の前で、死んでやる。一生忘れられないように。
主犯格の女が通り掛かるタイミングに合わせて足を踏み出す。
プァ────と、電車の音が耳元で響いた。
ざまあみろ。
次の日、またわたしは一人駅に立っていた。
もう絶対に死ぬつもりだったのに、またできなかった。最後の最後で日和ってしまう。
覚悟を決めて線路を見つめていると、また主犯格の女が歩いてきた。昨日のことがあったからか、少し怯えたようにわたしを見ている。
「あんたのせいで、死んでやるから」
死ぬ気になれば、こんな人、怖くもなんともない。見せつけるように笑う。
「やめてよ……あたしが悪かったから、だから」
「もう決めたから。さよなら」
彼女の引きつった表情を横目に身体を傾ける。今さらそんなこと言ったって遅い。
昨日もまた死ねなかった。
あいつ、あれだけわたしを虐めたくせに、死ぬとなったら手を引いて自殺を止めるなんて意味がわからない。
あれだけ死ねばいいのになんて言っておいて、自分の目の前は嫌だとは言わせない。絶対に目の前で死んでやる。
昨日と同じ場所で彼女を待っていると、取り巻きを連れて歩いてきた彼女がわたしを見つけた。
「もういいでしょ?! もうやめてよ!!」
半狂乱で叫んだ彼女の唐突な大声に、ホームにいた人たちが驚いたようにこちらを見ている。
「アンタが死ねって言ったんじゃない」
「嫌っ、嫌ぁ!!」
逃げようとする彼女を引き止め、彼女を掴んだまま電車を待つ。
「わたしはアンタのせいで死ぬんだから、ちゃんと見ててよね」
彼女の顔が恐怖に染まっている。ごめんなさいごめんなさいと何度も呟いていた。
最高の気分だ。
今日は彼女は来ない。
取り巻きだけがホームを歩いて行った。
今日は、彼女が入院したと取り巻きが話しているのを聞いた。幻覚を見るらしい。いい気味。
もう彼女は学校に来ないそうだ。
目の前で死んでやろうと思ったのに。
わたしを虐めたあいつの前で線路に飛び込んでやる。……あいつって誰だっけ?
辛い、苦しい。
早く楽になりたい。早く飛び込まなきゃ。
今日も電車が来た。倒れるように前へ出れば、ライトに目が眩んだ。
今日も……今日も? 気づけばいつも駅にいるような気がする。
電車が来た。そうだ、死ぬんだった。
電車が来た。通り過ぎる直前に、足を踏み出した。
鶴ヶ峰には、夜ごとホームへ飛び込む女子高生の噂がある。
毎日同じ時間、同じ場所で線路に消えるという。
今でも、飛び込み続けているのだろうか。