EX 【心霊スポット】侑碍坂線巡ってみた【生放送】
『はい、こんにちは! タカハシでっす!』
黒い背景に白い文字で大きく表示された、「心霊ハンタータカハシが逝く! PART12・地下鉄侑碍坂線」というタイトルが消えると、イガグリのような形の明るい茶髪に赤いTシャツを着た、体格のしっかりした若い男が画面に現れた。
『前回のね、PART11ですか。廃墟のやつですけど。コメント多くてびっくりしました。ありがとうございました!』
男が大きな動きでお辞儀をするのに合わせて画面がブレる。
『今日はですねー、その時コメントで視聴者の方に教えてもらった心霊スポットなんですけど、皆さん知ってますかね? そこ行ってみたいと思いまっす!』
《rina:漢字読めない、笑》
《けーすけ:相変わらず心霊スポットに似合わない服装ウケる》
《プリン大魔神:今回もどうせ霊出ないんだろ?》
画面の男は、目線をコメントに向け、また正面に戻す。
『いやー、今回は期待してください! 地下鉄の侑碍坂線って路線なんすけど、なんと! この路線、昔は墓があったりした曰く付きの場所で、全部の駅に心霊現象の目撃情報があるらしいです!』
《rina:ゆうげざか線? 知らない。やばー。》
『今回はそこを一日で回ります! まずはここ、東鳴了駅から!』
カメラが切り替わり、駅のホームを映す。人が多く混雑している。
『この駅はー、あそこのホームの下のとこ、線路に落ちたら逃げるとこね。あそこになんか出るらしいです! ……いないな~』
ホームの下を端から端まで映していくが、霊のようなものは見当たらない。
そうしているうちに電車が来た。
『なんもなかったですね。ま、次行きましょう、次!』
《けーすけ:雑ww》
《ナムアミ:安定の流れ作業》
一駅分乗った電車は人がまばらで、心なしか車内は暗い。次の駅に着いた。
『ここ多可禍は、駅構内に居ると霊がメールやアナウンスで駅員室に誘ってくるらしいっす。やたら呼び出されるのが逆に怪しくて誰も行かないっていう』
話しながら、男はふらりと駅構内を一周する。
『条件とか前触れなく来るらしーんですけど、全っ然連絡来ませんねー』
《563:この数分でたまたまメール来たら逆にこえーよ》
《借金20億:これ何も来ないだろ》
《プリン大魔神:そもそもこれだけ混雑してて霊とか出そうにない》
『……うーん、次行きますか!』
次の駅、緋沢に出るという赤い女の姿も同様に見つけることができず、次に画面は古いコインロッカーを映した。
『これは結構キてますよ! 怖い! 圧が凄い!!』
ロッカーのアップから引いていき、全体を捉える。ずしりと重たくのしかかるような存在感のロッカーだった。
『この37番のロッカー、かなり昔の話だけど、実際に赤ん坊が捨てられていたみたいです。噂によると声がするとか、音がするとか。捨てた母親はまだ見つかってないらしーっす』
やっぱ開かないようになってる、と男がロッカーの扉に力を入れてガタガタと音を鳴らす。
《rina:赤ちゃん捨てるとか最低。。。》
《ナムアミ:母親もう呪い殺されてたりして》
『うわ、なんか顔に見えてきた……やばいやばい、これ顔っぽくないすか?』
《563:ただのへこみだろ》
『えぇ〜……』
その時画面の後ろの方で、バン、と小さく音がした。
《けーすけ:今音しなかった?》
《rina:やばいよ! 赤ちゃん怒ってるよ!》
『わー!! 次行きましょう、次、ね!』
画面の男は慌ててロッカーを後にする。
走っているのか画面がブレ、次にちゃんと映った時には電車の中だった。
『はぁ、はぁ……今度は電車の止まらない駅です、次の駅までの間にあって、普段は止まらないし見えないけど、止まった時に降りてしまったらなかなか帰れないとか』
息を切らしながら、窓の外を映す。ただ暗いばかりでそのような駅は見えなかった。
《けーすけ:なんでマジの心霊現象っぽいのが来たら逃げんだよww》
《ららla:出たら怖いけど興味はあるんやね(^^)》
『もうね、ホント勘弁っすよ。出るなら人のいるところで出てほしい』
《563:霊って人気のないところで出るもんなんじゃ……》
《けーすけ:そろそろ心霊ハントするのやめとけww》
『もうホント帰りたいんで、汗びっしょりなんで。他の駅巻きで見たら帰ります!』
《田村sun:秒でビビる心霊ハンター》
《プリン大魔神:もはや義務と化してるな……》
その後、峯布、民爺、鶴ヶ峰と順に回り、終点の些奇路に着いた。
『はい、というわけで、峯布の落し物も民爺の変なトイレも、鶴ヶ峰に出る女子高生の霊もいませんでした!』
《けーすけ:ちゃんと見てないじゃんwww》
《田村sun:雑の極み》
《rina:噂ありすぎでしょ、これ絶対ほとんど作り話だよね。》
《563:マジなのコインロッカーだけじゃね?》
『コインロッカーのことは忘れましょう! ポイ! はい、忘れた!』
《563:忘れんな忘れんな》
『やっぱり乗客とかいっぱいいたから出ないんですかね? 鶴ヶ峰のやつは目撃談いっぱいあったし期待してたんすけどね〜』
ぶらぶらと、人のはけた後のホームを男は歩く。画面には男の顔のアップと、背後にホームが映る。
《KAZ:ていうかさ、そもそも》
《KAZ:侑碍坂線ってもうないよね?》
『は? え? あるある、これでもちゃんと心霊スポットの現場に行くのは誤魔化してませんよ! さっき逃げはしましたけど!』
笑いながら男は、表示されたコメントに返答する。
《けーすけ:そういえば二年前に廃線になって閉鎖されたっけなぁww》
『いやいや、ここ教えてくれたのけーすけさんじゃん! そもそも人めっちゃいるし!』
《けーすけ:なんちゃってwww》
『もー、ふざけんのやめて! まじ怖いから!!』
自分の体を抱き、震える素振りを見せながら、男は改札階へ続く階段を上る。
『今回の配信はこれにておしまいです! ご視聴、コメントありがとうございました! 俺はこの駅周辺を散策してから帰りまっす!!』
半ばヤケクソに締めつつ階段を上りきると、男は絶句した。
《rina:タカハシさん、どうしたんですか?》
《563:おーい、コメント見てるー?》
腕を下げているのか、画面は男のズボンをいっぱいに映しており、状況は見えない。
『こ、これ、何かの冗談だよな?』
画面が改札口を映し、ゆっくりとそこへ向かって近づいて行く。
改札の奥、地上へと続く階段があるはずのそこには何もなかった。
いや、正確には階段はあった。しかし三段目から先が真っ暗闇に覆われていて、その先がない。徐々に暗くなっていくのではなく、そこから断絶されたように黒かった。
《rina:えっ、なにこれ、真っ暗。。。》
《田村sun:やべーな》
恐る恐る、男は足を踏み出す。先に改札に引っかかり、警報音が鳴った。
引き返して忘れていた切符を入れ直そうとすると、周りの乗客が揃ってこちらを見ていた。
『えっ、何、なん……』
驚いて、手に持っていた端末を落とす。
地面に落ちた際に上を向いた画面は、配信者の男が立ち竦む姿をインカメラで下から映し、その上から画面を覆い尽くすようにコメントがひっきりなしに表示されていく。
《rina:あはははははははは》
《けーすけ:出れない出れない》
《プリン大魔神:ないから、もうない》
《借金20億:あはははははははは》
《ららla:出口はどこにもないよ(^^)》
《ナムアミ:誰も出られない》
《563:はははははは》
《rina:あは、》
《ららla:あはははははは》
《プリン大魔神:あはははは》
《けーすけ:あははははははははははは》
《借金20億:あははははははは》
《田村sun:あはははははははははははは》
画面右上に出ていたLIVEの表示が消え、画面も真っ暗になる。最後にまたコメントだけが流れるように表示された。
《プリン大魔神:もう出られないよ》
《ナムアミ:ようこそ》
《563:ここは》
《田村sun:侑碍坂線》
《rina:ここから先は》
《KAZ:どこへも行けない》
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