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暗い近未来人の日記  作者: 立川みどり
安藤さん事件
4/32

安藤さん事件・その1

「暗い近未来人の日記」は連作で、1つ1つは短い話が多いのですが、この「安藤さん事件」はミステリーっぽい長めの話(約4万字)です。ひとまとめにすると長くて読みにくそうなので、分けることにします。

二〇九二年十月二十三日


 なにげなくテレビを見ていて驚いた。安藤さんがコマーシャルに出て、ドリンク剤を飲んでいたからだ。テロップで会社の所属部署や名前まで出て、そのあとに「わたしたちがつくっている自信作です。安全で体にやさしいドリンクです」というメッセージがつづく。

 なんてこと。結局、安藤さんはコマーシャルに出たんだ。発ガン性があるかもしれないドリンクなのに。

 彼女、どういうつもりなんだろう? あのとき聞いた話のようすじゃ、「じつは誤解で危険はない」なんて可能性は低そうだったけど。危険から目をそらして、危険性はないと信じることにしたんだろうか? それとも、未来に病気になるとしても、いま失業しないという道を選ぶことにしたんだろうか?

 そんな選択肢はあんまりだ。悲しすぎるし、恐すぎる。それなら止めなきゃ……とは思うんだけど。でも、どう言って止めていいかわからない。彼女が選んで決めたことなんだし……。

 電話してみようかとも思ったけど、電話してどういえばいいのかわからないし……。

 うーっ。放っといたらいけないような気はするんだけど……。でも放っとくしかないし……。どうすりゃいいんだろ?



二〇九二年十月二十四日


 岡野くんからメールがきた。この夏休みに安藤さんたちといっしょに会ったけど、そんなにしゃべったわけじゃないし、高校時代に親しかったわけでもないので、めんくらった。

「安藤さんがコマーシャルに出ていた。やめさせなければと思います。それでメールしたけど、返事はきません。電話番号は知らないんです。そちらからなんとか連絡がつきませんか?」

 そういえば、高校時代、岡野くんが安藤さんを好きらしいとか、告白してふられたとか、ウワサに聞いたことがあったっけ。このあいだ会ったときも、「岡野くんは安藤さんに会いたくてくるのよ」とか、りーちゃんが言ってたな。

 岡野くん、安藤さんのことが今でも好きで、それで心配してるのかな? それとも、ジャーナリスト志望とか言っていたから、そっち方面からの興味だろうか?

 でも、どっちにしろ、わたしは安藤さんの電話番号を知らないし、仮に知っていたとしても、人の電話番号を無断で教えるわけにはいかない。岡野くんが安藤さんに片思いをしているならなおさらだ。べつに岡野くんがストーカーになるとか疑っているわけじゃないけど、やっぱりねえ。

 それで、岡野くんには、「わたしも安藤さんの電話番号は知らないので、メールだけしておこうと思います。でも、安藤さんが考えたすえに決めたことなのに、どう止めていいかわかりません」と、メールで返事をした。

 安藤さんのほうへは、ちょっと考えて、文字のメールじゃなく、音声メールを送った。とはいっても、 「コマーシャル見たけど、ほんとにだいじょうぶなの?」ってだけ。それしか言いようがない。



二〇九二年十月二十五日


 安藤さんからメールの返信がきた。文字メールで、「心配してくれてありがとう。だいじょうぶだと信じることにしました」って。

 音声メールじゃなくて文字メールなのは、声を聞かれたくないから、声には感情が出てしまうから……って思うのは、勘繰りすぎかなあ。「ほんとうはだいじょうぶだと信じていない」って言ってるような気がするんだけど。



二〇九二年十月三十一日


 安藤さんからメールがきた。音声メールで「相談したいことがあるの」って。どうも声が震えている。携帯電話の番号まで伝言してあったので、メールはやめて携帯のほうにかけてみた。

 画面に出た安藤さんの顔はまっさおで、「たいへんなことを知ってしまって……」と言う。「こんなこと、相談していいかどうかわからないんだけど……。めんどうに巻き込んでしまうかもしれないんだけど……」

 くわしく聞こうとすると、「電話では説明しきれない」と言う。それに、「電話で話すの、恐いし」って。

 それって、盗聴されているかもしれないってことかな、やっぱり?

「そのう……。このあいだ会った店で、三日の一時に岡野くんと会う約束をして……。もし、よかったら、いっしょに話を聞いてほしいんだけど……。だめ?」

 店の名前をはっきり言わないってことは、やっぱり盗聴を心配してるんだろうな。たぶん、例の危険なドリンク剤と関係あるんだろう。社外の人間に秘密をもらしたのがバレるとクビにされるかもしれないってことなのかな?

 スリラー物とかだと、秘密を知ったら命を狙われたりするけど……。まさかねえ。

 もちろん、こんなことは安藤さんには言わない。なにしろ、盗聴されているかもしれないんだから。

 つかのま迷った。ふつうなら、これっておじゃま虫なんだけど、気をきかせる場合じゃなさそうだ。そもそも安藤さんは、デートしたいわけじゃなくて相談ごとがあるんだから、岡野くんとふたりきりは避けたいかもしれない。三日に訪問しようと思ってた会社があったんだけど、予約しているわけではないから、ほかの日にまわせなくはない。

 そう考えて、安藤さんに「いいよ」と約束した。このあいだ会った喫茶店は実家のある町だから、ちょっと遠いけど、今度の週末は帰省することにしよう。



二〇九二年十一月三日


 安藤さんと約束した喫茶店に、数分早く着くと、岡野くんが先に来ていた。しばらく待つと、りーちゃんと水谷さんが来た。ふたりの話からすると、わたしのあとに水谷さん、りーちゃんの順に安藤さんに電話をかけ、きょうの約束をしたらしい。

 でも、かんじんの安藤さんがいつまで経っても来ない。

 一時半を過ぎたころ、りーちゃんが少しイラついたように言った。

「やーね。自分のほうから呼び出しといて。まさか忘れてるんじゃないでしょうね?」

「そんないいかげんなコじゃないよ」と、水谷さんが弁護した。

「あのコ、連絡もなしで約束破ったことなんてないもの。約束の時間に遅れたことだってめったになかったし……」

 わたしは安藤さんとは学校だけのつきあいだったが、水谷さんはかなり親しくしていたようだから、待ち合わせとかよくしていたんだろう。

 水谷さんの言葉で、なんだか不安になってきた。

「電話してみたほうがよくない?」

 水谷さんもそう思ったらしく、携帯を取り出して店から出ていった。

 しばらくして戻ってきた水谷さんは、手を横に振りながら言う。

「変なの。いくら鳴らしても出ないんだけど、場所がT市になってる」

 T市は安藤さんがひとり暮らしをしている町だ。ってことは、安藤さんがまだT市にいるか、でなければ、携帯をアパートに置き忘れたまま帰省しているということになる。圏外じゃないのに電話に出ないのは、後者の可能性が高い気もする。

 そう言ったら、水谷さんは、今度は安藤さんの実家に電話してみた。

「えっ、あの子、きょう約束してたんですか? 帰ってきていませんけど?」

 安藤さんのおかあさんがけげんそうに答える。

「えっ、そうなんですか? じゃあ、約束の日をまちがえたのかも。どうもすみませんでした」

 水谷さんはそう言って電話を切ったけど、日をまちがえていたはずはない。

「どういうこと? ますますいいかげん」

 りーちゃんは腹を立て、水谷さんと岡野くんは、「そんなはずはない」と主張する。

「わたしたちに会うって、親にないしょにしてたんじゃないのかな? コマーシャルに出るのがアブナイかも……ってのも、話してないとか?」

 わたしが言うと、「それよ」と水谷さんがうなずいた。

「親御さんに心配させたくなかったのよ、きっと。実家に帰らずに、直接ここに来るつもりだったんだ」

「いやな予感がする」と、岡野くんが言いだした。

「ここに来るつもりだったのに、まだT市にいるんだろう? ……アパートに行ってみたほうがいいんじゃないのか?」

 みんな顔を見合わせ、それからちょっと話し合って、岡野くんと水谷さんが安藤さんのアパートに行き、わたしとりーちゃんがもうしばらくこの店に残ることにした。四人で出かけたら、もしも安藤さんが遅れてやってきたとき、すれ違いになってしまうと思ったからだ。

 岡野くんは車に乗ってきていたから、渋滞にさえひっかからなければ、T市まで一時間ちょっとぐらいで行ける。安藤さんのアパートは、水谷さんが何回か行ったことがあって、道順を覚えているというから、迷うこともないだろう。

 そう聞いたので、それぐらいなら、水谷さんから連絡が入るまで、この店で粘ってもいいかという気になったのだ。

 でも、待っている時間は長かった。

 ふだんなら、りーちゃんとおしゃべりしていれば、一時間なんてアッというまなんだけど、安藤さんのことが気にかかっているからね。

「わたし、きょう予定があったから、正直いって、ちょっと迷惑と思ってたんだけど……」と、りーちゃんが言う。

「時間とか場所とか、一方的に決められた感じで、ちょっとムッとしてたし……」

「一方的に決められた?」

 わたしと話したときには、安藤さんはこちらの都合に気をつかっているようにみえたけど……。

「うん。『このあいだ会った店』なんて言うから、遠いって文句を言おうとしたら、こっちの言うことを遮って、『一時によかったら来て』ってだけ言って、そそくさと電話を切ってしまうし……」

 ちょっと考えてから、「あんた、店の名前を言おうとしなかった?」と聞いたら、「した」という。

「『グラジオラスでしょ?』って言いかけたとたんに遮られた」

 りーちゃんって、ひょっとして警戒心が薄いのかなあ。

「それ、盗聴されてるかもしれないからじゃないの」

 声をひそめてそう言ったら、りーちゃんは目を丸くした。

「やめてよ」と、りーちゃんもひそひそ声になる。

「安藤さんがやばいことになってるって……、ほんとに思ってるの?」

「わからない。でも、警戒するにこしたことはないでしょ。少なくとも、安藤さんはやばいと思ってるみたいだったよ」

「やだ」と、りーちゃんは泣きだしそうな顔になった。

「あんたは全然そういう可能性を考えてなかったの?」

「そりゃ、まあ……。わたしも、気になったから来たんだけどさ。でも……。恐いよ、そんなの」

 そんな話をしたり、黙りこんだりしているうちに、水谷さんたちが安藤さんのアパートに着いたらしく、りーちゃんの携帯の着メロが鳴った。

 りーちゃんが店の外に出て話し、しばらくして戻ってきた。

 電話はやはり水谷さんからで、いくら呼んでも安藤さんは出てこないという。

「部屋に入って確かめられないか、大家さんに聞いてみるって。無理だと思うけどねえ。家族でもないのに」

 そりゃあ、そうよね。住人の友だちですって人が来たって、ふつう、大家さんは、合鍵使って部屋に入れたりはしないよねえ。

 でも、そうするってことは、水谷さんと岡野くん、よっぽど気になるんだろう。

 ともかく、わたしたちは喫茶店を出て、帰ることにした。りーちゃんは、ひとり暮らしをしている町がちょっと遠くて、三時間以上かかるし、粘りすぎて、お店の人の視線が冷たくなってきたし。

 わたしの実家はここから歩いて五分ほどだから、お店の人に、実家の電話番号を書いたメモを渡した

「もし安藤さんって人が来て、わたしたちのことをたずねたら、このメモをお渡し願えませんか。もう来ないかもしれないんですが」

 そう頼むと、店の人は、わたしたちがどうして粘っていたのか納得したようで、快く引き受けてくれた。

 わたしはそれからしばらく実家で待機してたんだけど、結局、安藤さんからの電話はなかった。

 かわりに、水谷さんからの電話はあった。やっぱり管理人さんには部屋に入れてもらえず、手紙をドアポストにはさんで帰ったという。気になるので、安藤さんの実家に電話をかけなおして、彼女に連絡がつかないことを伝えておいたそうだ。


二〇九二年十一月五日

 水谷さんからメールがきた。涙声で、「麻緒が死んだそうです」と、ただそれだけ。麻緒というのは、安藤さんの名前だ。このあいだ会ったときに水谷さんの電話番号を聞いてあったので、電話してみた。

 安藤さんは、きのう、遺体で発見されたという。発見者は安藤さんのおかあさんだ。

 おとつい、水谷さんが安藤さんの家に電話したあと、おかあさんはだんだん気になりはじめ、夜になって電話をかけた。でも、連絡がつかなくて、きのう、会社に電話したところ、無断欠勤していると言われ、心配になってアパートまで行ってみた。

 そうしたら、安藤さんがベッドで麻薬を飲んで亡くなってたっていうんだ。

 きのうのお昼すぎに発見されたとき、死後一日以上は経ってるって言われたって。ってことは、わたしたちがあの店で安藤さんを待っていたとき、彼女はすでに亡くなっていたことになる。

 争った形跡はなく、麻薬を入れた小ビンが枕元にあったことから、警察は、トリップしようとして事故を起こしたか、でなければ自殺の線もあると言っているそうだ。

 その麻薬ってのは、「パラダイス・ドリーム」とかいう名前でけっこう広く巷に出まわっている薬らしい。

 とはいっても、もちろん違法の麻薬だ。つっぱってる人ならともかく、安藤さんみたいなまじめな人がそんなものに手を出すとは思えない。

 ただ、この麻薬は、一定量を越えると昏睡状態になって死んでしまう。いい夢を見ながら苦しまずに死ねるというので、べつにそれまで麻薬などやったことのない人が、なんらかのルートで入手して自殺に用いることがあるってのは、ときおり事件になるから知っている。

 でも、自殺のはずはない。わたしたちと会う約束をしていながら、その一方でわざわざそんな麻薬なんて手に入れて、約束をすっぽかして自殺するなんておかしい。

 そう言うと、水谷さんもそう思うと答えた。

 事故でも自殺でもないとすると、安藤さんは……。その先は恐くて口にできなかった。水谷さんも口にしなかった。

 この日記を書いている今も、震えが止まらない。

 だって、事故でも自殺でもないとすると……。答えは一つしかないじゃないの。



二〇九二年十一月七日


 きょう、二社から同時に不採用の通知が届いた。

 奇妙なものだと思う。高校時代の同級生がいきなり亡くなって、それもひどく不審な死に方だというのに、以前と同じように就職活動したり、不採用の通知を受け取ってがっかりしたりするんだから。

 それと、警察からメールがきていた。もちろん安藤さんの件だ。安藤さんの携帯電話にわたしのメール・アドレスが記録してあったので、メールしたのだという。話を聞きたいので連絡を欲しいという内容で、担当者の名前と電話番号を書いてある。

 きょうはもう遅いから、あす電話しよう。



二〇九二年十一月八日


 きのうの警察からのメールは、どうも不気味だ。

 電話しようとして、いちおう念のため、番号案内に確認したら、教えてくれた番号は違う。番号がいくつもあるのかもしれないと思い、番号案内で聞いた番号に問い合わせたところ、しばらく待たされてから、メールにあった担当者はいないし、そういう番号は使っていないという返事が返ってきた。

「不審だから、その番号に電話するのはやめてください。メールの返事もしてはいけませんよ」

 電話に出た人にそう言われた。もちろん、電話もメールの返信もしませんとも。

 念のため、りーちゃんと水谷さんと岡野くんにこの一件を知らせておいた。同じようなメールがいくかもしれないと思ったから。

 しばらくしたら、りーちゃんから電話がかかってきた。

「わたし、電話しちゃった」

 りーちゃんが泣きだしそうな声で言う。番号を確認すると、あのニセ警察のメールにあったのと同じ番号だ。

「だって、警察だと思ったし……。無視したら、あとでめんどうかもって思ったし……。電話したときも、あやしそうに見えなかったよ?」

「なにを聞かれたの?」

「どういう知り合いかとか、何か悩んでるようすはなかったかとか。……住所と電話番号も教えた……。わたし、恐い!」

「け、警察、ほんものの警察に話したほうがいいんじゃ……」

「やだ。もう関わりたくない。あんただってそうでしょ? わたしたち、就職を控えているのよ? 妙なことに巻き込まれて就職にさしつかえたりしたら……」

「ちょっと、そんなこと言ってる場合じゃ……」

「安藤さんにメールなんてしなきゃよかった。だって、高校時代だってとくに親しかったってわけでもないし、卒業してから全然つきあいなかったのに。この夏休みにあんな話を聞いたから、つい……」

 りーちゃんは恐怖のあまりキレかかってる。無理もない。逆の立場だったら、わたしだって恐い。あの番号に電話しなくてよかった。

 ともかく、りーちゃんが落ち着くのを待って、警察に相談するよう説得した。りーちゃんがほんとうに危険なのかどうかはわからないし、警察がどれだけあてになるかはもっとわからないけど、少なくとも、りーちゃんちの周辺に気をつけてパトロールするぐらいのことはしてくれるんじゃないかな。たぶん。

 それだけじゃ心もとないけど、ほかに対策を思いつかないし……。

「人通りの少ない時間にひとりで出かけるのとか、なるべくやめるのよ。あと、携帯をいつでも助けを呼べる状態にしておくとか……」

 そう忠告すると、りーちゃんは「そうする」と答えた。



二〇九二年十一月十日


 安藤さんのことと、あの怪しいメールがあったからかな。あれから、ときどき、だれかに尾行されてるような気がすることがある。

 きょうも母親から電話がかかってきて、近所の人たちにわたしのことを聞き込みしている人がいるっていうし……。

「就職の内定を出すまえに身上調査をする会社があるって聞いたことあるから、それじゃないの? 教えてくれた人は、縁談じゃないかって言ってたけど、べつに見合いをしたってわけじゃないから、それはないでしょ」

 母親はなんだかうれしそうだ。縁談か就職内定のどっちかだと決めてかかってて、うかれている。

 まあ、親としては、縁談でも就職内定でも、めでたいことなんだろう。わたしとしては、仮にそのどっちかだとしても気持ち悪いんだけどな。そりゃあ、就職はちゃんとしたいけど、興信所を使って社員のプライバシーをかぎまわる会社なんて、できれば避けたい。

 それに、そもそも就職内定じゃないような気がする。いままで面接にいったなかで、内定までいきそうな感触のよかった会社って、なかったし……。なんといっても、ああいうことのあったあとだし……。

 安藤さんはたぶん殺された。で、あの怪しいメールが犯人だとすると、犯人はわたしのメールアドレスを知っている。でも、メールからいろいろ探り出そうとしたところをみると、ここの住所は知らないんじゃないかな。

 それなら、実家のことをどうして知ったのかというと……。わたし、そういえば、あのとき待ち合わせしていた店で、安藤さんが遅れてきた場合を考えて、名前と実家の電話番号をお店の人に伝言したっけ。あのあたりからかな。

 で、それをもとに近所をかぎまわったとすると……。

 わたしは近所づきあいって苦手だったんだけど、親はそれなりのつきあいがあるから、わたしが通ってる大学とか、学生寮に住んでいることを知っている人は何人もいる。

 ……ってことは……。犯人たちは、わたしにメールを送った時点ではここの住所を知らなかったけど、いまは知ってるってことにならないか?



二〇九二年十一月十一日


 岡野くんからメールがきていた。「身辺をかぎまわっている者がいないか」って内容だった。岡野くんもかぎまわられてるみたいだ。

「相手が接触してきても、何も知らない、聞いてないって態度をとって、よけいなことを言わなければ、たぶん危険はないだろう。念のために、この件に関してむやみにメールのやりとりもしないほうがいい。この返事もいらない。ただし、まんいち、かなり危険を感じるような状況になって、助けがいりそうなら連絡してくれ。助けになるかどうかわからないけど」

 そうしめくくって、電話番号も書いてあった。




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