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暗い近未来人の日記  作者: 立川みどり
世相
29/32

世相・その1

超不況の21世紀末に生きる女性が日記を書いているという形式の近未来小説。29ページ目です。前の話を読んでいなくてもわかる話です。

2093年12月26日


 一月から配属される部署の連絡が遅いなと思っていたら、延期だという通達があった。数日前から会長が入院していて、社長も重役連も秘書室の方々も、それに伴うごたごたに追われ、仮配属を決定する時間がなかったんだそうだ。

 で、次の配属に異動するのは、一月後半からか、または二月からになるらしい。次の仮配属は、ふつうなら二月末までだけど、こういう事情なので、三月末までになるそうだ。

 さすがにボーナスは、一月になってはまずいと思ったのか、振り込まれた。額面五万円だった。二回目からのボーナスは基本給の一ヶ月分程度が通例だと耳に挟んだけどな。ほかの人はいくらぐらいもらったんだろう?

 わたしがとくに安いのか? そう想像すると、榊さんの勝ち誇ったような顔が思い浮かんで、気分が悪くなった。



2083年12月27日


 明日から年末年始休暇だというので、フリーランスの人たちに、年末年始にする仕事を送った。わたしたちが休暇の間も、フリーランスの人たちの大半は働くのだ。配偶者がおもな稼ぎ手となっている人などは別にして、自活している人は、年中無休で働かなくてはならない。報酬があまりにも安いから、食べていくためには量をこなすしかないのだ。

 依頼する編集者の側は、それが当たり前だと思っている。学生時代はフリーランサーに憧れもあったけど、いまはとても無理だと思う。

 夜に母から映話があって、帰省の予定を聞いてきた。明日帰るのか、明日帰るのなら、昼食と夕食はどうするのかという内容だ。

 明日の昼食前に帰省すると答えておいた。母は意外そうだった。学生時代には、ひとりの時間を満喫したくて、長期休みに入っても、何日かは寮にいることが多かったからね。いまは、早く会社から離れたい。個室とはいっても、寮は会社の一部だからね。

 そう思うと、学生時代がなつかしいよ。



2093年12月28日


 正午前ぐらいに家に着くと、いい匂いが漂ってきて、大皿に大量に盛ったエビフライが目に入った。わたしのためにごちそうをつくってくれたのか。そう思って内心いい気分でいると、まもなく兄貴も帰省してきた。エビフライは兄貴の大好物。なんだ、兄貴のためだったのかと思うと、ちょっとがっかり。そんなこと、口には出さなかったけど。

「今年は早いじゃないか。いままで、大晦日にしか帰って来なかったのに」

 兄貴がわたしの顔を見るなり言った。

「どうだ。会社勤めはしんどいだろう? それで、さっさと帰省したくなったんだろう?」

 図星だ。悔しい。そう思ったけど、よく考えたら、そこでさっと図星を指せるってことは、兄貴も同じじゃないのか?

「兄貴も、学生のときは冬休みでも夏休みでもあまり家にいなかったのに、就職してからは、すぐ家に帰ってくるよね。会社勤めがしんどいんじゃないの?」

 兄貴はいやそうな顔をした。図星だったようだ。

 で、昼間はごろごろしたり、マンガや雑誌をパラパラ見たりして、夜はネットでいろんな人の記事を見て回った。やっぱり、仕事をしんどいと思っている人の意見や体験談が目に入りやすい。

 思わず共感を覚えたのが、ゲームが趣味という人のこんな意見。

「経験を積めばレベルが上がる。努力は報われる。ストーリーの進行によって人に誤解されることがあれば、誤解は解ける。濡れ衣を着せられれば。濡れ衣は晴れる。弱い者いじめにあっている人がいれば、主人公が助ける。酷いことをした人は、後悔するか、または罰せられる。現実にはなかなか存在しない夢のような世界がそこにあるので、癒される」

 まあ、たしかにそうね。現実は残酷だものね。努力は報われないことが多いし、人に誤解されれば、誤解が解けないことが多い。いじめをした人、他人にひどいことをした人は、気にも留めていないことが多い。往々にして、それが現実よね。ゲームに限らず、フィクションの世界に癒しを求める気持ちは、よくわかるわ。


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