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第5話:保育補助の結花さん

引き続き黒木彗太君視点です。


☆これまでのあらすじ

 高校教師として忙しい日々を送っていた小星結花は、初めて受け持ったクラスの卒業式を終えほっと一息をつく。

 一方結花の受け持ったクラスの卒業生の1人である黒木彗太は、先生と初めて会った昔の事を思い出していた。

 自分が中学に上がったばかりの時に、父親が突然亡くなったこと。母親が涙を流している現状を見て、自分がしっかりしなければと孤軍奮闘していたこと。そんな時に出会った1人の女性のこと。


 今話で今回の黒木君の過去の話はラストになります。

「おまたせしましたー」

 少しした後、先程会った保育士のお姉さんが、まどかを横に連れ啓司けいじを両手で抱えながら、此方へゆっくりと戻ってくる。

「啓司君が先程までちょっとぐずっていましたので、起こしちゃうとまた泣きだしちゃうかもしれません。注意して下さいね」

「あ、はい。ありがとうございました」

 困ったなぁ。起こさないように起こさないように。

 そう思った俺は、抱えられていた啓司を受け取る為、下からそっと抱えようと手を伸ばす。

 重…。久々に抱き上げた自分の弟は、また重くなっていた。

 普段は母さんが2人の面倒を見ているからなぁ。よくもまあこんな重い子供を毎日おぶりながら家事を頑張るとは思うよ。

 そんな事を俺は思うのだった。

「それじゃあ俺達はこれで…。有り難うございました」

「いえいえー。お気をつけて」

「ゆーちゃんばいばい!」

「はーい! またね! まどかちゃん!」

 そんなやり取りを終えた俺達は、きびすを返すと帰路へと歩こうとする。

 と、その時。ふと疑問に思った事があった。

「そういや円。晩御飯は食べたか?」

「たべてなーよ。おかーさんがごはんとちゅーでいえでちゃってここいるー」

(お母さんが晩御飯を作ってる途中で家を出て、此処に預けられたって事かな?)

 そもそも、もう夕方の6時半過ぎだ。啓司は寝ているからまだ良いとしても、円に関しては困ったな。

「兄ちゃんもちょっと腹減って来てるんだよなぁー。どうするかな…」

 円の方は普通に食べれる筈だけど。啓司の方は今どうなんだろ。普通に何でも食えるのかな。

 先日、お粥っぽいのを食べてたかと思えばハンバーグっぽいのを食べてたような…。

 うーん、どうなんだろ。

「済みません。啓司には保育園で普段何を食べさせていますか?」

 見送りをしてくれていた保育士の女性を、このまま続けてこの場に留まらせるのはどうかとは思ったが、折角なので聞いてみることにしよう。

「啓司君に普段与えている食事ですか? …えっと、啓司君の場合は特に麺類が好きみたいなので、麺類が多いですね。カレーとかハンバーグなんかも好きですし。3歳まで来ると食べるものはもう円ちゃんとそう変わらないですよ。ただ、歯ごたえがあるものとか、お魚の骨なんかは少々危ないので、その類には気を付けますね。ってぐらいです」

「そうですか、有り難うございます」

「この子達ぐらいの年齢の子は、キャラクターものといいますか、可愛く(いろど)りを添えてあげると良く食べてくれますので。たくさん食べさせたい時はそうやって工夫をしてあげるのが良いですね」

「なるほど…」

 うーん。そうなると母さんに何を作ってた途中なのか聞いてみるのが一番かな。円には…聞いても意味がなさそうか。円だと背が小さいから、何を作ってるかは見えてなさそうだし…。

「黒木君。もしかしてお母さん忙しいの?」

「え? あ、いや…。まぁ、はい」

「もしよかったら、ここでご飯食べていきます?」

「え? えっと…」

 流石に迷惑じゃないかな…。あー、でも。子供の声が遠くから沢山聞こえているから、2人ぐらいなら増えてもどうってことない・・・かな…?

「それじゃあ済みませんけど、お言葉に甘えてお願い出来ますか」

 実際の所、ほとほと困り果てていた俺は、この申し出に素直に甘えることにしたのだった。


 *********


「うまい…」

 なんだこれ、野菜スープ? てか歯ごたえが良いな…。俺あんまり野菜だけのものって好きじゃないんだけど、普通に食えるしめっちゃ美味い。

 ”彗太君もお腹空いてるでしょ? 折角だから彗太君の分も何か作ってあげますよ”

 先程そう言われたので、円に食事を出して貰うついでに、更に自分の分もと甘えてしまった。

「あのー。これ、何ていう食べ物ですか?」

「んー? これはねー、食べ物って言われたら一応ミネストローネ…かな? 彗太君、お肉っぽいの好きそうだから、本当は別の感じ物を作りたかったんだけどね」

「へー」

 母さんあまり料理得意じゃないんだよな。特にこういう比較的味が薄めの煮込み料理を作ると、味付けが壊滅的に悪くなるから、家族の不評を買うせいで余り作ってくれない。

 ”もーいらない! おいちくない!”

 結構前に母さんが野菜スープを作ってくれた時は、円のそんな言葉を聞いてなのか、余計そう言う感じの料理を作らなくなった。

「あ、もしかして。彗太君ってアレルギーとかあったりする? 円ちゃんと啓司君、2人とも全くアレルギーがないから大丈夫だと思っていたんだけど…」

「いえ、それは大丈夫です。母さんはあまりこういうの…。なんていうんだろ。変わったもの? はあまり作らないので、珍しかっただけです。美味しいので大丈夫ですよ」

「それならよかった。…まぁ、うちのお母さんに教わったのをそのまま作っただけなんだけどね。本当に何でも作るから…」

 遠い目をしながらそんな事を語っていた保育士のお姉さんは、複雑な顔をしていた。

 きっと過去に出された料理で、色々とあったのだろうという事がうかがえる。

「それと折角ですから、このまま2人をお風呂とか入れちゃいますか? そろそろあの子達をお風呂に入れる予定だったので」

 お姉さんはそう言って指を差した先には、大勢の小さな子供が寝て居た。

「え? あー、ちょっと母さんに電話して聞いてみます」

 普段はいつも母さんが2人をお風呂に入れてるし丁度良い。聞くついでにこっちの今の状況も伝えておくか。

 俺はそんな事を思いながら、後ろのポケットからスマホを取り出したのだった。

「げ、いくつも着信記録が残ってた…。……もしもし、母さん?」

 ”……あ、彗太…? 電話しても反応がないから、お母さん心配してたのよ”

「あー、ごめん。今保育園にいるんだけど。俺と円の晩御飯はここで食べたよ。啓司も起きたら何か食べさせてもらおうかと思ってた感じかな。あとそれから、円と啓司のお風呂とかどうしたらいい? 折角だから、このまま保育園で入れて貰おうかと思っているんだけど…」

 ”あー…。そうね。…それじゃあ、そこで入れて貰っていい? というかお母さん。ちょっとお母さ…彗太のお婆ちゃんの所にこれから出かけないとならなくなって…。ちょっと遠いから明日の朝とかじゃないと戻れないかもしれないんだけど…”

「あー、わかった。お風呂入れて貰ったら家に帰ってそのまま寝かせる。最悪、明日2人を保育園に送るまでは面倒を見るから安心して」

 ”うん、助かるー。お願いね。…ほんとごめんね”

 2人の面倒を見るのは久々だけど、まぁ多少なら多分大丈夫だろう。

 そう思った俺は、母さんと軽く喋った後、電話を切るのだった。

「それじゃあ済みませんけど、2人をお願いします」

「はーい。それじゃあ啓司君と円ちゃんもお風呂入りましょうねー」

 お姉さんはそう言うと、いつの間にか起きていた啓司と食べ終わっていた円を連れては奥へと向かうのだった。


 *********


「そういえば自分の荷物の事すっかり忘れてたな…」

 妹達をお風呂に入ってから程なくした頃。1人でいた俺はふと、その事を思い出していた。

 監督あたりなら多分知ってるかな?

 そう思った俺は、スマホを取り出し電話を掛ける。

「夜分遅くにすみません。監督、今大丈夫ですか?」

 ”おぉ、黒木か。どうした、早速困り事か?”

 受話器越しの向こうで、何やら食器を鳴らす音がかすかに聞こえる。食事中ってところか…。

「いえー。さっき練習場に荷物を色々と置いていってしまったので。それが今どうなっているのかなと知りたくて」

 ”ああ、それなら俺の家で今預かっているから。今から車でお前の自宅に持って行こうか?”

「あー…。今、妹達をうちの近くの保育園でお風呂に入れて貰っているんですよね。後で改めて帰宅際に電話をする感じでも良いですか」

 ”お前の家の近くの保育園か…。ん? もしかして、あおぞら保育園か?”

「え? そうですけど…。なんで監督が知ってるんですか…」

 監督に2人の子供がいるのは知っているが、自分よりも年上と聞いている。その子供も結婚してるとかなんて聞いてないし、まだ学生と言っていた。とても縁のある場所には思えない。

 ”知ってるのも何も、うちの娘がそこの保育園で最近保育補助のバイトを始めたんだよ。小星って名札を付けた保育士っぽいのが居ないか? そいつは俺の娘だぞ”

 小星小星…。

 ”…あら、黒木さんの所の子じゃないの”

 ”小星さん。この子の事、知ってるの?”

 その時ふと、先程の光景が俺の頭の中に浮かんだのだ。

「…あー! 監督って小星って苗字でしたよねそういえば。綺麗な人だったから、娘さんだと全く気付きませんでした!」

 ”うっせえなぁー、俺に似てないは余計だ! …まぁ、似なくて良かったけどよ”

 監督自体はそもそも強面こわもてだからな…。前に一度だけ本人にその事を思わず言っちゃったらめっちゃ怒られたっけ。

「あはは。…っと話がずれちゃいましたが。えっと、取り敢えずそんな状態なので、帰宅際になったらまた此方から電話します」

 ”おう、分かった、そうしてくれ”

 そして俺は、通話を切ると2人がお風呂から上がるのを、テレビをみながらじっと待つのだった。

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