第1話:教師は忙しい
今回は小星結花の物語です。
まだ肌寒い3月初旬。高校の体育館にて、校長の厳かなる言葉が響き渡る。
「これから先、様々な苦難があることと思いますが、この学校で過ごした経験を糧に、これからの人生の荒波を乗り越えてください」
式辞の中には、卒業生たちへの深い祝福と励ましの言葉が満ちていた。その光景を私は眺めながら、感慨深く心に留めた。
本日は私の勤め先の高校の卒業式。校長の式辞を聞く卒業生を眺めながら、私は感極まる思いで卒業生を眺めていた。
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「あー、疲れた…」
卒業式が終わり、職員室に戻った私は、一息つきながら机に突っ伏す。
卒業生たちの感情を受け止めたかのように、私の心は疲弊していた。
少しだけ休憩しよう。そんな事を思っていた時だ。
突然テレビから過労死のニュースが流れる。退職した先生が寄贈したテレビが、現実を容赦なく切り裂く。
”…次のニュースです。25歳女性による過労死の件で、北海道地裁は一昨年9月の残業時間が200時間を超え、翌月に自殺したのは…”
ふとそんなニュースが流れた。
「残業200時間ねぇ…」
私は自身の勤務時間を思い返し、息苦しさを覚える。
「私の平日の一日の流れは…」
私は思考を整理し、自らの生活パターンを検証した。ほぼ毎日の残業、部活指導、そして持ち帰り仕事。すべてが積み重なって、私の肩を圧し掛ける。
休憩時間といえる時間は、1日通して昼休みも含めて30分もあれば良い方。
世間でいう昼休みといえるものは全く取れない時の方が多く、酷い時は飲み物だけでお腹を誤魔化した時もあった。
そんなだから、お手洗い一つでも休憩時間に行くのではなく、仕事の合間合間に行くのが常である。
正直いって休憩時間があまりにも少ないので、これだけでも結構やばいんだけど。
そんなこんなで、私の平日の1日の就業時間は、残業込みで14時間。
つまり、月~金だけで14×5=70時間勤務している事になる。
そして、私の場合は部活指導として、土日に朝8時から午後5時頃まで追加で活動。
これで土日は、休憩時間を除くと部活指導で計16時間となるので、一週間の普段の私の労働時間は、目に見える範囲では86時間となる。
でも私の仕事はまだ終わらない。
持ち帰り仕事何かがそうだ。
これを労働時間に含めちゃうと、一週間で大体100時間近く労働している事になる。
先程、過労死の人が残業200時間越えなんて話があったけれど。残業200時間っていうのは、要は一週間で大体40時間労働以降が全て残業に含まれる事であり。
1カ月を4週間と仮定した場合。残業200時間の人は(40×4)+200=360時間労働をしてお亡くなりになったという事になります。
もうお分かりの様に、私は1週間で大体100時間労働をしている様なものなので。
1カ月で大体400時間労働…。完全に過労死の人越えちゃってるんだけど。
うん、労働基準法って何? ってレベルです。
最近、教師の労働時間を見直すという案が出ているのだけど。現状行っている仕事はあくまで必要最小限であり、減らせるものではないのだ。詰まりは望み薄である。
「忙しいにも程があると思う…」
私は自らの状況に呆れ返る。教師の労働時間は、一筋縄ではいかないほどのものだった。
せめて受け持ちの授業時間外で休まる時間があると良いのだけど、それさえもないのが辛い。
そもそも教師の1年の予定は、年度末までには次年度の予定が殆ど決まっているので。
誰がいつどの時間空いているというのは、調べようとすれば基本的に丸わかり。
受け持ちの授業以外で何もしない自由な時間など、殆ど存在しないのだ。
"休みが欲しい…”
ふと、私は心の中で呟いた。その瞬間、教頭先生の声が私の耳に届いた。
「ぼ……せい。…ぼし…せい」
「ふえ?」
そんな泣き言を心の中でずっと思っていると、ふと誰かの声が聞こえる。
「小星先生! やっと起きましたか。貴女そろそろ部活動の時間じゃないですか?」
私は教頭先生の声に気づき、自らの状況を改めざるを得なかった。
「ごごごごごめんなさい!」
「いえ、私は別に良いのですが。…それにしても小星先生、机に突っ伏しているなんて珍しいですね」
「そ、そうですか? あ、私そろそろ部活動の方に行かないとなりませんので。お先に失礼させていただきますね」
私は教頭先生に礼を述べ、再び立ち上がる。部活動の義務を果たすため、私は再び前を向いて歩き出した。
因みに、教頭先生は女性です。
新任の頃にスマホゲームで授業の合間に遊んでいたところを見つけた為か、小星結花を先生と認めなかった程毛嫌いしていたという過去がありますが。もうすぐ4年目の現在の結花に対しては、そういう思いは抱いておりません(裏設定)
時期に現在の学校とは接点がほぼほぼ無くなるので、特にストーリー記述に関しては予定がありません(今の所は)