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第15話:審査

☆前回のあらすじ

ドラマの監修を務める元プロ野球選手の佐伯は、オーディション中に、前に自分が見つけた子役の事を思い出す。

そんな佐伯は、現場の話を聞きオーディションに来ていない事がわかると、興が削がれその場を立ち去る。

一方その頃、彗太は先程結花に自分がした事を思い出し、反省する時間を送っていた。

そして彗太は、夕飯の途中でふと自分が仕事を始めてから、一年ほど経ったある日の出来事を思い出す。

それは、佐伯と初めて会った時の事だった。


メインストーリー、黒木彗太の視点の続きになります。

小説自体の設定に関しては。

https://ncode.syosetu.com/n8129gb/

をご参照ください。


※先行ネタバレがあるので見る際はご注意を。

 自宅近くの空き地へ、円を抱えながら入り口近くへいくと。

「漸く来たか黒木。早速始めるぞ」

 スウェット姿で左手にグローブをめ、右手にボールを持った、佐伯さんから声を掛けられる。

「じゃー円、ちょっと降りてな。降りたら少し遠くに離れてて」

「うん!」

 すると円は、抱っこしていた俺の手元から、するりと降り遠くへ歩いて行く。

 声を掛けた途端、円は俺の襟元をギュッと掴んだのをみると、恐らくそのまま居たかったのだろうが、文句を何一つ言わず素直に離れてくれた事は非常に有り難かった。

「…遅れました。すみません」

「ちょっとぐらいなら別に構わんぞ。…いいのか?」

その時、佐伯さんは円の方を覗いて普段見せないようなニッコリとした笑顔を円へ向ける。

「はい、大丈夫です」

 用意に手間取り、その事について俺は詫びるものの。 佐伯さんの機嫌を特に損ねたわけではないようで。

「じゃあ早速話を始めるぞ」

「はい」

 俺は内心ほっとするのだった。


 *********


 小さい頃、父さんに連れて行って貰って観戦した、ドームの試合。遠目からじゃ分かり辛かった、憧れの選手の1人が、今目の前にいる。

 間近でただ向かい合うだけでも、ひしひしと感じるこの人の存在感は、選手としてのピークをとうに過ぎたとはいえ、紛れもなく本物だ。

「先ず此処に来た経緯だが」

 すると、佐伯さんは軽くステップをこなして、硬球をこちらに投げる。

 俺の胸元へ届いた硬球は、軽く放たれたスナップに反比例して、予想以上に重い。

「…っ。はい、お伺いしたいです」

 それに対し、負けじと俺も投げ返す。

 結花さんや亡くなった父さんとのキャッチボールとは違い、プレッシャーの感じるこのキャッチボールは、否応なしに俺の体力をどんどん削る。

 それが意味するのは、恐らく俺を試しているのだろうと、言われずともすぐ分かる程だった。

「要点を言うと。お前に出演して貰いたいある番組の配役に抜擢出来るか、審査をしに来た」

「審査ですか?」

「ああ、予定している放送時間帯は、月曜日から金曜日までの13時半から14時までの毎話30分。一般的に昼ドラって言われる時間帯だな」

 昼ドラって言えば、偶にある平日祝日の時とかに、仕事がない時に見た事はあるけど。内容的には、割と過激なストーリーの物が多いイメージだが。

「因みにだがな、お前に出演依頼を出そうと考えている役の報酬は、1話出演につき基本報酬は20万。1シリーズ大体35話から40話。番組の反響や人気の出方次第だが、最低でも3シリーズは放映予定だ。最大で8シリーズほど用意がある長編だそうだ」

 佐伯さんは、何時の間にか右手に用紙を持ち、それを見ながら喋っている。

 それを余所に、俺はふと考える。

 (1話出演につき20万という事は、仮に35話でも20✕35で700万…!?)

「それ…俺が出演しても良いんですか…?」

 正直言って、報酬が破格だ。納税的なものでそのまま貰えるわけでは無いだろうが、中学生がどう頑張った所で、貰える様な報酬じゃない事ぐらいは分かる。

「んー? 俺としては問題ないと思っているんだが。お前のルックスはまぁまぁだし、テレビ映えするだろうから大丈夫なんじゃねぇかな。視聴者層的に年上から好かれる見た目とかが大事なんだろうが、そこまで考えるのは俺の領分じゃないしな。俺としてはそんな事よりも、野球自体が演技としてまともに出来るかどうかが、一番重要だと思っている」

 母さんが普通に仕事をしていて、俺も学業に支障を来たさない程度に仕事をしてはいるが、現状では中々厳しい家計状況なのは確かだ。

 だから。

「じゃあ、俺は座って構えるから、全力投球で俺に向かってちょっと投げてみろ。それで出演させるかどうかの最終審査をしたい」

 何としてもこの仕事を受けたい。俺の想いは必死だった。

「分かりました。防具は着けないんですね?」

「あ? 別に見くびってるわけじゃねえが、ちゃんと構えりゃ、お前ぐらいの年齢の子供の投球を受けるのに、防具なんか先ずいらねえよ」

 その時ふと、小星監督の言葉が脳裏をよぎる。

 ”お前はいざって時に、すぐ熱くなりすぎる所があるな。良いか? 投手ピッチャーに大事なのは冷静さだ。そして、身体に余計な力を絶対に入れない事。これが投球において最も大事な事だぞ”

 俺がまだ小学生だった頃、満塁一打同点の場面。自分のせいでピンチを招いた時に、監督が掛けてくれた言葉だ。

「分かりました、全力で行きます」

 (こういう大事な場面こそ自力が試される時だ。落ち着け)

 火照った体を冷静な思考で冷ます為、俺は軽く深呼吸をする。そして、グローブの中でボールを握り直し、静止した後、投球動作に入る。

 全力投球は久々だが、思った以上にスムーズなこの流れ。時間的な流れとしては1秒程度だったが、この瞬間はっきりと感じたのは、調子が良い時の投球だと言う事だった。


 *********


「……」

 俺の放った球が、佐伯さんのグローブへ吸い込まれる様に収まった直後、小気味の良い音が鳴る。それに対して佐伯さんは目を見開き、今しがた受け取った硬球を収めたグローブを、少しの間じっと眺める。

 文句なく、現時点で自分が出せる最高のストレートだった。これで駄目だと言われたら、もうその時はその時だ。

「お前…確か今、中2だったよな?」

「…はい、そうですが」

「計測してねえからはっきりとはわからんが、130キロぐらいは出てたんじゃねえか? 普通に凄えわホント。俳優やってるのが勿体ねえなぁ」

「本当ですよ、何でしたら生徒手「いやいい、分かった分かった! てか、別にそこは疑ってねえよ」」

 すると佐伯さんは、グローブを嵌めるのを辞め、硬球を握ったままのグローブを鷲掴みで左手に持つ。

 今回の審査はどうやら今の一球で終わりらしい。周りに流れる空気は、何時の間にかやんわりとしたものとなり、先程の重苦しさは嘘の様だ。それこそ、今の佐伯さんからは、年齢相応の何処にでもいる、ただのおじさんにしか感じない。

 昔映像で見た事あるけど、一流の選手は場の雰囲気を制するとか、そんな話を聞いたことがある。もしかしたら、今のはその類だったのでは。

「野球自体は辞めて結構経つって事前に聞いていたんだが、これだけの投球がまだ出来るって事は、普段から投げ込みぐらいはやってるって事か?」

 そんな佐伯さんからの質問に、ふと今までのことを思い返す。時間にして僅か1年足らずだが、充実…と言うよりも、気苦労の多かった1年という方が正しいのかもしれない。

 父の死後、暫く親戚付き合いの無かった母さんが、その親戚に会いに行ったりする際には、自分も出向いた方が場が和むからと言われてよく付いていった。親戚の中には、母さん方の起こした行動からか、疎ましく思う連中もかなり居て、罵倒された事もあったな。

 うちの両親は、ただの駆け落ちだと笑いながら、本人らが何度か言っていたのは見てたけど、当時は色々とあったんだろうなと言うのは想像に難くない。

「あー、投げ込みって程ではないですが、普段からキャッチボールの相手をしてくれる人がいるので…。あと、普段は下半身強化に走り込みと、ダンベルでの負荷を掛けた筋トレが主ですね。野球を辞めてから一年程経ちますが、何時でも復帰出来る様にトレーニングは欠かしていないつもりです」

 すると、俺の言葉を聞いた佐伯さんは、若干渋い顔をし始める。

「負荷を掛けた筋トレかー。その歳だとまだ身体は成長途中なんじゃねえのか? 時期尚早だと思うが、あまりやり過ぎんなよ」

 当然の返答だろう。一般的な周知として、負荷を掛けたトレーニングや変化球練習は、成長途中の観点から高校生ぐらいから開始するべきという風潮がある。

「それに関しては賛否両論あるので、その上で続けている感じですね。以前、整形外科のスポーツドクターの資格持ちの先生に色々聞きまして、ちょっとずつ無理のない程度で負荷を掛けて手探りでやっていますよ。スポーツの理論とかも色々教えてもらいました」

「へぇ、そうなのか。ていうか、最近のスポーツ理論とかはよく分からんが、俺の時代とは結構違うんだろうな」

 最近のトレーニングの理論は、10年もすればかなり変わると思う。佐伯さんがプロに入ったのは、もう20年以上も前なのだ。普通に考えて、プロに居た間に、スポーツ理論は軽く2巡程更新されている事になる。

 毎年シーズンを消化しながら、常に理論を更新とか中々大変だろうし、トレーナーだけ把握してて本人はよく分からないという感じなのだろうか。

「そういえば、俺からも聞きたい事があるんですが」

「なんだ?」

「玄関であった時、確か俺の事を啓吾の息子か? って言いましたよね? あれってどういう事です?」

 佐伯さんと自分の父さんが、普通であれば接点が無さそうなのをふと思い出し、この場を借りて俺は質問をする。

「一言で言えば、俺と啓…お前の父親とは、昔のライバル。って所かな」

「…? 学生時代のですか?」

「いや、プロ野球時代」

「え? トレーナーとかでですか?」

「何いってんだお前。まさか、自分の父親が元プロ野球選手だって事知らんのか」

「え? あ、いや、そんなの知りませんよ…。父さんはそんな素振り全く見せた事無いですし」

 自分の父親が元プロ野球選手なんて今初めて聞かされた。正直いってまだ疑っているぐらいだ。

「ちょっとそのスマホで、黒木啓吾くろきけいごとプロ野球辺りで検索してみろよ」

 そう言われて俺は、当たり前の事に気付く。目の前にスマホがあるんだから調べればいいのだと。

「あ、ほんとだ。元プロ野球選手…」

 自分の父親の名前が、来歴付きで紹介されているサイトを見つけ俺は驚く。

 自分の父の来歴がネットに書いてあるなんて、今まで考えた事も無かったから尚更だ。

「ほんと懐かしいな。お前の父親とは何度か対戦したが、あれだけの投手には、結局二度と出会えなかったな」

 佐伯さんはそういうなり、自分のスマホを持ち出しながら、昔の事を語り出したのだった。

昼ドラに関しては、2010年以降制作費の関係で、ほとんど作られなくなった感じなので、現実感はちょっと薄いですが。

話自体が過去の話なのと、そもそもフィクションなので、元々の話を曲げずそのまま話にしました。

報酬が一話につき20万円というのは、ある元俳優のインタビュー記事で、5話で100万円という話から取りました。

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