第10話:3年間の振り返りと
☆前回のあらすじ
趣味のスマホゲーのイベントであるボス討伐をしていた彗太達5人PTは、ライバル達の助けを借りてなんとかクリアする事に成功した。
成功報酬で得た高性能なスキルに一同は驚きをみせるものの、他プレイヤーへの開示に関しては特に揉めることなく平和に終わり、いざこざには発展せずに平和に終わるのだった。
放置落ちをした彗太はアプリを落とし、現実へと戻る。
今回はメインストーリー。小星結花視点になります。
卒業式の日の野球部の指導と…これから。
本日よりキャラ3名追加になります。
堀別北高校硬式野球部
→結花が就任するまでは野球部は超弱小だった経緯あり。現在は違います。
・渋谷修一→評価の高い将来の4番候補。現在1年生。
・小倉成音→現在の4番でサード。現在2年生の主将。
・野里茉由→現在2年生の女子マネージャー。
※小倉と渋谷は、別の物語で2人の息子が同じ野球選手として登場します。
ですが、この物語と直接関与する予定は今の所ありません。
「それじゃあ9時過ぎね」
”うん、それじゃあね~”
今日の部活後に、一緒に飲みに行く予定の友達との通話を終えた私は、スマホをユニフォームの後ろポケットへと仕舞う。
「小星監督。ちょっとバッティングフォームを見て貰いたいんですけど良いですか?」
「大丈夫だよ」
その直後に声を掛けてきたのは、もうすぐ2年生になる渋谷君だった。
「それじゃあ…素振りをちょっと見せて?」
「はい」
すると渋谷君は、私から少し離れてゆっくりとバットを立てて構え始める。始動の所作は滑らかで、ぱっと見はまさにホームランバッターの風格そのものだ。
「1…2…」
間近で見て改めて思うけど、体格は部内でも1,2を争っていて、スイングスピードも非常に早い。でもその割に成績が振るわないのが、本人は納得していないんだろうなあ。
「ちょっとバット貸してね。メモ取りたかったらメモして良いよ」
「あ、はい。メモ…あ、動画で撮りたいんで携帯取って来てもいいすか?」
「ん~、まぁ良いけど。終わったらすぐ鞄に戻してね?」
こんな事私は言ってるけど、先程までスマホゲーをこっそりしていたなんて、間違っても口に出して言えないなぁ…。
「取ってきました。…OKっす」
スマホを私の方へ向けた渋谷君は、スマホから音を鳴らしてじっと構える。
メモを取る様に言ったり、場合によっては動画で取る様に言ったり。私が彼らに呼びかけたことだけど、まさかこんなに皆熱心に使い出すとは思ってもみなかったな。
「それじゃあ始めるね。えっと、君の場合。ダウンスイングをする時にインパクト前に腕が伸びきって結果的に手打ちになってるんだよね。インパクトの瞬間以外は腕が伸びきらない様に意識してください。胸の前の空間が常に三角形になるように意識してスイングすると良いと思うよ。後は、もうちょっと下半身をしっかり意識して使って体の回転で打った方が良いかな」
「腕が伸びない様にする…体の回転」
「そう。それを普段素振りしている時にちゃんと意識して、速球が来た時変化球が来た時、外角に来た時内角に来た時って1回1回意識してやってみなさい。ただ闇雲にバットを振り回しちゃだめだよ。きちんとボールを打つ時のイメージして」
「はい」
実際の所、手打ち云々に関してだって色んな人が居る。バットコントロールがそもそも優れている人は、手打ちで打っても普通にヒットに出来るのだから、もしかしたらこの子にはそのままのフォームでもあっているかもしれないけど。先程の素振りと最近の成績を加味した上で、今のスイングの重心移動の不安定さから、今は直した方が良いだろうと判断する。
「スマホちょっと借りるよー」
そして私は持っていたバットと彼のスマホを交換し、再び渋谷君から離れる。
「さっき私が言ったのを意識してちょっと素振りやってみて。ちゃんとボールを打つ想定でね。ゆっくりでいいから…。…そう、何回かやってみて」
言われた事を素直に出来るっていうのも若い子の特権だと改めて思う。今の私じゃバッティングであれこれ言われたら、素直に聞かないで反論しちゃうもんなあ。
「そだね。それを忘れないように普段から心掛けてくれれば良いと思うよ。後で動画を見直しながら自主練習の時でもやってみて」
「わかりました」
普段から部内で紅白戦を毎度の様にしているのだから、そこで自分が身につけたバッティングが正しいかどうか、自ずと結果が出る。それから判断しても遅くないんじゃないかな。
「ところで…練習後の自主練って最近何してる?」
さて、ここからは私のお節介。
「自分は…その時によって多少違いますけど、素振りとか鉄アレイ使ったり、後はジョギングが多いですね」
私は自主練に関しては、基本的には口を出さない。
野球の自主練というのは、自分で考えて自分の練習メニューを決めるのも一つの練習だと思っているからだ。
「うーん。ジョギングも悪くはないんだけど、ノーマルスクワットとかやってる?」
「スクワット…ですか?」
彼の場合、明らかに下半身強化が重要な項目だというのが予め分かっていたので、以前それとなく言っておいたのだけど、意図する事と違う方向に進んでいた様だ。
「うん、バーベルグリップを首の後ろに置いてそのままスクワットする感じのやつね。Bチームには教えたんだけど、渋谷君ってチームが違うから伝わってなかったかな? 普通のスクワットよりも足を開いてゆっくり体を沈めてやるんだけど…。…まぁこんな感じで」
「わかりました。ちょっとやってみます」
*********
「集合!」
時刻は18時を回ったところ。
本来であればもう少し練習をした後、各自でクールダウンへと移るのが普通なのだけど、今日ばかりは少しだけ前倒しして早めて貰ったのだ。
「…みんないるね。先ずは練習お疲れ様」
「「「「お疲れ様です」」」」
私は皆の顔を一様に眺める。練習自体は結構きつい筈だけど、それでもついてきてくれた彼らは、私にとっての大事な生徒達だ。
「前々から話してたから周知されてるとは思うけど、私の転勤の関係から今日をもってここの指導を終わらせて貰うね」
今日がこの高校での最後の指導日。最後に色々と言いたい事もあって、普段より少しだけ早めに終わるのだ。
「代わりの指導者は学校側が現在探してくれているらしいので、それまで指導者が不在になります。部長と顧問は今まで通りで、監督は指導者次第だけど指導者が来るまでは顧問が兼任する予定でいます。練習メニューは元から作ってるから私が居なくても自主的に出来るよね?」
私は再度1人1人の顔を見る。すると皆一様に首を縦に振ってくれる。
かと思えば、笑いながらわざと首を横に振る子もいるし。ほんと面白い。
まぁ、次年度の各自の目標の確認と練習メニューは、元からある程度作ってあるから大丈夫だよね。
そもそも私が普段する事っていったら、選手の士気高揚と練習で打撃・投球のチェック。そして部内紅白戦の審判と外部との練習試合を組むのが主だから、仕事自体は監督としてよりも運営の方が多いのかもしれない。
公式試合でオーダーを組むのなんかも、今年度から試しに主将に任せていた。
普通は監督がオーダーを組むものだけど、選手の自主性を尊重させた方が良いというのは紅白戦をみていても実感したから、試しに任せてみた結果。主将に任せたつもりが最終的に皆で考えるという感じになったって女子マネの子達が前に言ってたっけ。
「そういえば先生」
「ん? どうしたの」
「ずっと聞きたかったんですけど。監督が就任した最初の年は、なかなか成績振るわなくて四苦八苦してたって先輩から聞いたことがありますが。一体何があったんですか?」
「そうだねぇ…」
私が感慨に耽っていると、チームの四番である小倉君が、聞き辛い話をここぞとばかりに聞いてくる。
初年度の時は本当に色々あったから、その話になりそうなときはうまくスルーしてたんだけど…。今となっては良い思い出だから、まぁ…答えましょうか。
「ちょっと分かり辛いかもだけど、どれだけ発破かけても勉強しない子供に、どうやって勉強をさせようかあらゆる手段を手探りでやってた感じだね。当時の3年生の子からは、取り敢えずそこで突っ立って何もしなくて良いですよ。とか言われたぐらいだから」
教師生活1年目と当時に、この野球部の監督に就任した当時の私は。この子達の先輩方を見て愕然とした。
元々万年1回戦負けというのは知っていたけど。
”自分は高校で野球辞めるつもりなんで指導とか適当でいいっすよ”
まさかこんな事を部員から言われるとは思わなくて、逆に新鮮だった。
私が通った高校はスポーツが盛んな高校だったから、硬式野球部とか全員が甲子園を目指すのに必死で、他の高校も大体似たような感じなんだろうね。なんて思っていたぐらいだからね。
「皆も知っているとは思うけど、うちの学校ってそもそもスポーツが盛んな高校じゃないから、どうしてもやる気のない子が多くてねぇ…。今でも真面に強い部活っていったら、下手したらうちの部活ぐらいなものよ」
最近うちの高校からインターハイに出場した部活ってあったかな。正直いってそんな事を考えてしまうレベルの学校だ。
「そんなうちの学校でも、昨年の秋大会は選抜出場校に1点差負けでしたからね。正直快挙だと思いますよ」
私の横に居た野里さんはそう言うけれど、監督である私の立場からすれば、出た結果が全てだ。一発勝負の世界で嫌と言う程今まで経験してきた私だから分かるけど、あの高校よりうちのチームが足りないものがまだ幾つもあったのは事実だからね…。
とはいうものの、夏と違って南北が真面にぶつかった秋大会で、うちがベスト4になれたのは奇跡に近い。1校しか出れない全国でも超激戦区の北海道でのベスト4は、3年前のうちではとても考えられなかった。
そんな良い成績を残して来たこの子達から離れてまで転勤を決めたのは、秋大会後のある出来事だった。




