小さな星とおまじない
小さなお子様に読み聞かせられるお話を目指しました。
しかし一部少し難しい単語や表現もあるため、小学生位向けかもしれません。
今年も七月七日、七夕の日が近付いて参りました。
七夕は彦星様と織姫様が一年ぶりに会う、とっても素敵な日なのです。
天の川の星たちも、みんな大喜びの大賑わい。
七夕のお祝いに合わせて、星たちは幸せのおすそ分けをしようと地上を見下ろしています。
「おや、あの短冊、『サッカーが上手くなりたい』と書いてあるな。よし、サッカーの練習が沢山できるよう、晴れのおまじないをかけてやろう」
「あら、あの短冊、『おじいちゃんの病気がすぐに治りますように』って書いてあるわ。ちょっと難しいお願いだけど、少しでも早く良くなるよう、おまじないをかけてあげましょう」
天の川の星たちは短冊のお願いを叶えてあげようと大忙しです。
そんな中、ひときわ小さな星がおりました。
まだ新米のお星さまです。
「よぉし、ぼくも短冊のお願いを叶えてあげよう!」
小さな星はどの短冊のお願いを叶えようか、一生懸命目を凝らします。
ある笹に吊るされた、真っ赤な短冊が目に止まりました。
「何々……『お母さんがザリガニになりますように』だって……?」
この子はお母さんとケンカでもしてしまったのでしょうか。
こんなお願い、もし叶ってしまったら大変です。
「別のにしよう」
今度は青い短冊が目に止まりました。
「何々……『何もしなくても大金持ちになれますように』だって……?」
そんな難しいお願い事をされても、まだ小さな星にはおまじないをかけてあげる事は出来ません。
「別のにしよう」
今度は桃色の短冊が目に止まりました。
「何々……『タカシ君がミキちゃんの事をキライになりますように』……だって?」
そんな酷いお願い、叶えてあげる訳にはいきません。
今度は緑色の短冊が目に止まりました。
「何々……どうしよう、字が汚くて読めないや……」
小さな星が首を傾げていると、大きな星が声をかけてきました。
「やぁ、小さいの。あの短冊には『字が上手になりますように』と書いてあるようだな。どれ、字の練習にやる気が出るおまじないをかけてやろう」
大きな星は、あっという間に緑色の短冊を書いた子におまじないをかけてしまいました。
小さな星はまた短冊を探さなければなりません。
「困ったな、どうしよう」
短冊は沢山あるけれど、どれも小さな星にはまだ難しいお願いか、すでに他の星がおまじないをかけてしまっているのです。
「うぅん、難しいなぁ」
自分でもおまじないをかけてあげられそうな短冊は、中々見つかりません。
「おや、あんな所にも短冊があるぞ!」
小さな星は、たった一枚の短冊しか吊るされていない笹を見付けました。
でも、その短冊はとても大きな木の陰に隠れていてよく見えません。
その大樹はどこかの神社の御神木のようです。
「なんて書いてあるのかなぁ? よいしょっ」
もっとよく見ようと、小さな星が身を乗り出したその時です。
「へい! ちょっと通るよっ!」
いつも元気いっぱいの流れ星くんが、ドンッと小さな星の背中ににぶつかりました。
「うわぁ、危ない!」
小さな星は、まっ逆さま!
ひゅーん、と地上に向かって落ちてしまったのです。
「わ、わあぁ!」
大変です!
小さな星は、サクッと大樹のてっぺんに引っかかってしまいました。
空を見上げると、仲間の星たちの姿がとても小さく見えます。
「遠いなぁ。どうやってお空に帰れば良いんだろう」
小さな星が困っていると、大樹がワサワサと葉っぱを揺らして話しかけてきました。
「小さいの。ワシの頭に何の用かね?」
「ぼく、天の川の星なんだ。お願い! ぼくをお空に投げてくれないかい?」
小さな星がお願いすると、大樹は残念そうにため息を吐きました。
「ワシは木だ。せいぜい枝や葉を揺らす事しか出来ないよ。すまんのぅ」
「そんなぁ」
小さな星は悲しくなって、チカチカ、チカチカと青く光ります。
すると木の下の方から別の声がかけられました。
「あれぇ? どうしてクリスマスみたいに、木の上に星が飾ってあるんだろう?」
声は、ずっとずっと下の方から聞こえてきます。
下を向くと、男の子が不思議そうに木を見上げているのが見えました。
小さな星は大きな声で答えます。
「ぼく、天の川の星なんだ。お空から落ちて、木に引っかかっちゃったの。お願い、助けて!」
男の子は気の毒そうに言いました。
「それは可哀想に。でもぼく、この木は登っちゃダメってお父さんに言われてるから、助けてあげられそうにないよ」
「そんなぁ」
もう天の川に帰れないのでしょうか。
小さな星が諦めかけた時、大樹がザワザワ、ガサガサと大きく揺れました。
「わ、わ、わぁ!」
「何だ、何だぁ?」
風も無いのに枝葉が揺れて、小さな星も男の子もビックリ仰天。
小さな星はひゅーん、と地上に落ちてしまいました。
「おっと、危ない!」
男の子は慌ててパシッと小さな星を受け止めました。
「ビックリした。大丈夫?」
「受け止めてくれてありがとう。大きな木さんも、下ろしてくれてありがとう」
小さな星はお礼を言ってチカチカと黄色く光ります。
男の子は小さな星を抱えたまま、どうしようかと難しい顔をしました。
「空に帰れないの?」
「遠すぎて、ぼく一人じゃ帰れないよ。お願い、ぼくを天の川まで投げてくれないかい?」
男の子は首を横に降ります。
「そんなに高く、投げられないよ」
小さな星はとうとう泣いてしまいました。
「早く天の川に帰らないと、七夕が終わっちゃう。ぼく、まだ誰のお願いも叶えてないのに」
それを聞いた男の子は、「そうだ!」と小さな星を連れて歩き出します。
着いたのは大きな木のすぐ隣。
短冊が一枚しかない笹の前です。
「この笹、ぼくのお父さんが神社に来てくれる人の為に用意したんだ。待ってて。今すぐぼくの短冊を書き直すから」
男の子は吊るされた短冊を外すと、鉛筆で大きくバッテンを書き、裏側に何かを書き込みました。
「何て書いたんだい?」
「君が空に帰れますようにって書いたよ」
なんという事でしょう。
大切なお願い事の短冊を、この男の子はわざわざ書き直してくれたのです。
小さな星は嬉しくて胸がいっぱいになりました。
「ありがとう! もしぼくが帰れたら、君のお願いが叶うようにおまじないをかけてあげるね!」
「それは嬉しいなぁ」
二人はニコニコと笑いあいます。
するとどうでしょう。
小さな星の体が金ピカに輝き始め、フワリと体が宙に浮かび上がるではありませんか。
どうやら男の子のお願いを、誰かが叶えてくれたようです。
「わぁ、体が軽い! これならお空に帰れそうだ」
「良かったね。もう落ちちゃダメだよ」
男の子は満足そうに手を振っています。
小さな星も感謝の気持ちを込めて精一杯ピカピカと光りました。
「本当にありがとう! それじゃあね!」
「バイバイ」
男の子の姿がどんどん遠ざかっていきます。
「大きな木さんも、バイバイ」
「それじゃあの」
大樹もどんどん遠ざかり、小さくなっていきます。
こうして小さな星は無事に天の川に帰る事が出来たのです。
「あぁ、良かった。そうだ、さっきの男の子のお願い事は、何だったんだろう」
小さな星は今度こそ落ちないように気を付けて、目を凝らします。
「落ちた星が空に帰れますように」と書かれている短冊の表側には、バッテンの下に「神社にたくさんの人がお参りにきてくれますように」と書かれていました。
「これならぼくにもおまじないがかけられそうだ!」
小さな星は張り切って、あの大きな御神木のある神社に人が訪れるようにおまじないをかけました。
時間が経つにつれ、短冊がたった一枚だった笹は少しずつ賑やかになっていきます。
「やったぁ! これでぼくも、立派な天の川の星だぞ!」
自信をつけた小さな星は、七夕が終わるまでの間、沢山のお願い事におまじないをかけるのでした。
もしかしたらあなたの願い事にも、優しい星たちのおまじないがかけられてるかもしれません。
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キーワード「七夕と大樹」で何か書くという悠蓉様の企画に、急ぎ足で乗ってみました。
私にはこれが精一杯でした。