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「次のニュースです。今日未明、特定指定暴力団有栖川會々長、有栖川皐月(ありすかわさつき)容疑者三十七歳が違法薬物輸入、及び使用の罪で逮捕されました━━━━」



 彼、有栖川皐月は刑務所を出所し、街を歩いていた。時が経つのは早いもので、あのニュースが流れたのは今から四年前になる。


 有栖川會。傘下の組の組員も含めると構成人数は三千人にも上る特定指定暴力団であり、この国でも一、二を争う集団犯罪組織である。主な活動は違法薬物の国内販売や銃を含めた違法物の密輸。また、長い歴史を持つ組織であるため国内に大きな根を張っており一斉検挙などは不可能。取引現場を押さえても蜥蜴の尾のようにすぐに切り離すため幹部を逮捕することなど本来は不可能であった。


 彼はその日、チャイニーズマフィアとの取引のため、有栖川會の直参である姫川組の本部に来ていた。そこへ、警察の捜査が入り彼は逮捕。覚醒剤の営利的な輸出、及び使用の罪により彼には懲役四年が言い渡されたのだった。


「ったくよぉ。勤めが終わって娑婆に出てきてみりゃ、迎えはお前一人ってどういうことだ?」

「すみません。親父が務所に入ってからいろいろあったもんですから‥‥‥」


 ペコペコと頭を下げるのは運転手。こいつを責めて何かがあるわけではないことは分かっているため、やり場のない怒りを車窓を眺めることで発散しようと、フロントガラス越しに車の前方に目をやる。


「おい芳郎。前━━━ッッ」

「んなっ、うわァァァァ━━━━」


 そこで目にしたのは右前方から俺が乗る車に向かって走ってきた一台の大型トラック。交差点の信号が青になり車を発車させた俺の車に、完全に赤信号であるはずの右横から突っ込んできた。居眠りか不注意、はたまたギリギリイケるとアクセルを踏んだのか、俺にはわからない。


 強い衝撃を受け視界が暗転した俺には、そのようなことを考える余裕は無かった。




 ◇◆◇◆◇◆



 目を開けるとそこは真っ白な空間だった。


「ここは‥‥‥」


 辺りを見回してもそこには白しかない。一面白であるため部屋がどこまで広がっているのかすら分からない。ただ白いだけの空間の中、ポツンと置かれた簡素な椅子に座っていた。


「目覚めましたか? 有栖川皐月さん」


 立ち上がって辺りを探索してみようと考えたとき、澄んだ女性の声がした。人の気配すら感じておらず、そもそも一度周囲を見渡した時に人影がなかったのだから、俺は突然かけられた声にビクッと肩を跳ねさせた。


「後ろですよ」


「あ、あんたは‥‥‥?」


 慌てて振り返るとそこには圧倒的なまでに美しい女性が椅子に座っていた。生気を感じられるか怪しいまでの真っ白な肌に同じく真っ白な神。果ては来ている服まで真っ白という全てが純白に包まれたその女性で唯一白でない場所があるとすれば、それは黄金のように煌々と輝く瞳だけ。


「私はヴェルディ。世界の管理者です」


 ヴェルディと名乗ったその女性は女神が慈愛を向けるかの如く優しく微笑んだ。


「神ってことか?」

「そうですね。その認識で結構です」


 どうやら目の前にいるヴェルディは女神様であるらしい。死んだら三途の川を渡るのだと思っていたら閻魔を飛び越えて神が出てくるとは驚いた。

 閻魔ですら扱うことができないほどの犯罪を犯したつもりはないのだがと内心困惑したが、生前様々な罪を犯し、死ぬ直前まで刑務所に入っていた俺が極楽浄土できないことくらい自分でも分かっていた。

 つまり、神様が直々に俺に引導を渡しにきたということであり、さしずめここは地獄への入り口ということだろう、と頭の中で結論付けた。


「そうですね。確かに貴方は生前に多くの罪をおかしました。本来なら輪廻転生の法則に則り、畜生道━━━つまり家畜として生まれ変わった後に再び人間として生まれ変わることになります」

「地獄行きじゃねえのか?」

「貴方は直接人を殺めたことはないので畜生道となります。あと少し罪を重ねていれば餓鬼道でした」


 なるほど。紙一重のところで家畜だったということか。


「そうなります」


 心の中で納得しているとヴェルディがその通りだと縦に首を振った。ずっと思っていたのだが、俺が心の中で考えただけだとしてもヴェルディと会話が成立している気がする。


「当然です。神なのですから心くらい読めます」


 目の前の女神が自慢げに無い胸を張る。どうやら餓鬼の頃に読んでいた転生系のラノベや漫画と同じ展開らしい。


「胸はありますッ。失礼なこと言わないでくださいッ」


 俺の心の声を拾うことができる女神が頬を膨らませて怒った。心を読まれていることが分かったのはいいが、実にやりにくい。心の中で何を思おうが勝手だろうに、この空間には思想の自由が認められていないのだろうかと抗議したくなったものの、どうせこれも聞かれているのだろうから敢えて口に出すことはせず、無難に質問したかったことを口に出した。


「それで、いつになったら家畜にされるんだ?」

「取り敢えず落ち着いてください。話はまだ終わってませんから」


 椅子に深く腰掛けなおした俺を見たヴェルディが、気を取り直すように一つ咳払いをして話をきり出した。


「こほんッ。先ほども話したように本来であれば貴方はこのまま家畜に転生となります。今回は豚のようですね。ちなみに熊本在住の黒豚さんの八人兄弟の三女として生を受けることになります。飼い主は、山下源三さん。夫婦で小さな━━━━」


 どうでもいい情報を垂れ流すな。しれっとTSしてるうえに、山下源三か何だか知らないが、勿体ぶった言い方をするんだから俺の今後には関係ないはずだ。前置きは短めにさっさと本題に入って欲しい。


「し、失礼しました。それでですね。ご察しの通り、このまま豚さんに転生するところなんですが、少々問題が発生しておりまして」

「問題?」

「ええ。それが、最近皆さん生前に罪をおかしすぎていて、極楽浄土どころか三善道ですら少ないんですよ。ですから今現在、転生家畜業界が満員でして転生させることができないんです。拘置所で転生の順番待ちをしている方は多いです」


 転生家畜業界とは一体何だろうか。文字通りの意味であるとすればとんだパワーワードが登場したものである。

 そもそも死んだやつは皆揃って家畜になっているのかとツッコミを入れたい。去年車に引かれて死んだキャバ嬢の真里ちゃんも家畜に転生してるんだろうか。


「あ、冴木真里さんでしたら現在太平洋でウツボとして泳いでいますね。ちなみに種類はオニウツボで、未成年の頃から喫煙や万引きを繰り返していましたので人間として転生できなかったようです」


 真理ちゃんの情報を聞いて何とも言えない気持ちになる。入れ込んでいたわけではないが、清楚系が売りだったのだろうに‥‥‥。人間なんて嘘ばっかりだな。


「じゃあ、俺は何になるんだ? カタクチイワシか? それともクサフグか?」

「いえ、神々で相談した結果。貴方には今回異世界に転成してもらいます」

「異世界!? つまり、アレか。薄々思っていたが、これはあの異世界転生の瞬間なのか!?」

「そうです。所謂トラック転生ですね」


 なるほど。言われてみれば確かに転生のテンプレの轍を踏んでいた。すっかり忘れていた青春時代の頃の記憶が甦ってくる。あの頃は、仲の良いオタク友達と趣味に身を投じていたっけ。

 親父の跡目を継ぐことが正式に決まってからというもの、オタク趣味は消滅するように止めてしまったが、あの頃は楽しかったな。


「この転生は社会復帰を目指す更生プログラムもかねています。テンプレ的な異世界転生とは言え、普通の高校生が世界を救うために送り込まれる展開ではありません。十分に留意しておいてください」

「赤ん坊からやり直すのか?」

「赤ちゃんからやり直す必要はありません。向こうに新しい肉体を創造しますので、そこに魂のみ入ってもらう形となります」


 ヴェルディはそんなことを言いながらタブレットの液晶画面をタップするように、何もない宙を指でつつく。

 すると、驚くことに何もなかった空間に液状画面のようでいて液晶画面ではない、不思議な画像が浮かび上がった。


「それは?」

「これで新しい肉体を作ります。なにせこれから長い間生活する肉体なのです。気に入る体でなければ苦痛でしょうから、これから自分で作って貰います」


 ヴェルディの言葉が終わったのを合図にするように、その液晶画面が俺の前へと移動してくる。


 画面には『あたらしいからだをつくろう!!』というタイトルがやたらとポップな字で書かれていた。


 俺は無言で『はじめる』をタップする。


「まずは性別設定ですね。どちらも選べますよ」

「じゃあ、男性で」


 ヴェルディの口頭説明のもと、俺は『男』をタップし、再び画面が切り替わる。タイトルは『しゅぞくをえらぼう!! そのいち』だ。平仮名には突っ込まない。


「次は種族です」

「白人とか黒人を選べるってことか? それともまさか‥‥‥」

「そのまさかですね。異世界なのですから人間だけとは限りません。【人間種(ヒューマ)】は勿論のこと、【獣人種(アニマ)】【森精種(エルフ)】【土精族(ドワーフ)】など種族はその他にも様々。勿論、各種族にも様々な派生があります。たとえば【獣人種(アニマ)】を例にすれば、【猫人族(キャティア)】【兔人族(ラビリア)】【獅子人族(レレオン)】等ですね。今後の人生で最も重要と言っても過言ではないほどの選択ですので、よくお考えください」

 

 確かにヴェルディの言うとおり、画面に並んでいる種族は様々だ。【天使種(セフィラ)】【龍種(ドラゴニス)】【巨人種(ギガンティア)】【妖精種(フェアリ━)】と言った興味深いものも多い。


「質問いいか?」

「勿論です」

「テンプレを貫くなら種族差別なんかがあってもおかしくなさそうだな。例えば宗教によっては【人間種(ヒューマ)】以外を人と認めない的な感じのがな。そこら辺はどうなる?」

「ご察しの通り、宗教の中には確かに存在します。ですが、そうでない国もありますので、それを踏まえて種族差別のない国に転生させます。国教として私達の系統の神を進行しているので問題ございません。ですから、どの種族を選んでも何の心配もいりませんよ」


 そうか。それなら安心だ。


「この【魔人種(サターネ)】ってのが気になるな。名前的にも強そうだ」

「【魔人種(サターネ)】は簡単に言えば悪魔で、とても強い種族です。転生する国の国民にも【魔人種(サターネ)】は少なくないです。特殊な種族を選ぶよりも人に溶け込みやすい【魔人種(サターネ)】は非常にオススメできますね」

「なるほど。じゃあ、【魔人種(サターネ)】で」


 『【魔人種(サターネ)】』をタップすると画面が切り替わり、『しゅぞくをえらぼう!! そのに』が表示される


「次に選ぶのは種族の族の方ですね」


 画面には【魔人種(サターネ)】系統がズラッと並んでいる。【魔人種(サターネ)】と一口に言ってもどうやら沢山に派生しているらしい。【悪魔族(デビル)】【鬼人族(デモニ)】【魔角族(ドラフィム)】等の強そうな名前が沢山だ。俺的には【夢魔族(インキュバス)】に興味を引かれたのだが、それよりも更に視線を釘付けにした文字がある。


「【吸血族(ヴァンパイア)】ってのはアレか?」

「アレですね。【魔人種(サターネ)】の中では少数派ですが、非常に強力な種族ですよ」

「そうか。でもな‥‥‥」


 【吸血族(ヴァンパイア)】が物語に登場する設定通りであるとすれば、確かに強いのだろうが弱点も多そうだ。ニンニクや銀、流水、十字架も勿論だが、とりわけ昼間外を歩けないというのはデメリットとしては大きすぎる。

 興味に心を駆られて勢いで選んで後々苦労するよりは、無難に強力な他族を選ぶ方が現実的な気がする。


「次に能力設定がありますから。その時に<種族弱点耐性>も獲得できますよ」

「<種族弱点耐性>?」

 

 俺が理想と現実の狭間で揺れていると、ヴェルディが可笑しそうにクスクスと笑いながら助言してくれた。


「<種族弱点耐性>とは簡単に言うとスキルの一つです。皐月さんには次の画面で選んで貰う筈だったのですが、迷っているようですからね。<種族弱点耐性>とは弱点を持つ種族の方が手に入れられるスキルです。【吸血族(ヴァンパイア)】は弱点が多い種族ですので当然獲得できます。それを取得すれば日光を浴びても平気ですし、ニンニクを食べても大丈夫になります」


 それは有難いな。つまり、<種族弱点耐性>を獲得すればデメリット無しに強力な種族となれるわけだ。俺は迷っていた心を一つに決め、『【吸血族(ヴァンパイア)】』をタップした。


 再び画面が変わり、『しゅぞくをえらぼう!! そのさん』が表示された。


「その三?」

「【吸血族(ヴァンパイア)】はさらに派生があります。【真祖(スペリオル)】【貴種(ノーブル)】【純血(ブラッド)】【従属(サーバント)】の四種です。強い順に並べていましたがここは素直に【真祖(スペリオル)】を選択した方がいいと思います。希少かつ強力な種族ですし、出来ることも増えますよ」

「ならそれで」


 『【真祖(スペリオル)】』をタップして、画面は今度こそ『すきるをえらぼう!!』へと移り変わると思ったのだが、表示されたのは『ようしをえらぼう!!』だった。


「あっ、すみません。容姿が先だったみたいです」


 謝るヴェルディを一睨みしてから画面に目を向けた。ヴェルディから平均値や向こうのセンスなどを聞きつつ、身長180センチの細身にし、顔もかなりの美形にしてみた。余談だが、これからお世話になるであろう息子の大きさも選べたのでビッグにしておいた。

 【吸血族(ヴァンパイア)】は紅目と尖耳だけは変えられないとのことで、選べた髪の色は金髪にしている。ちなみに尖耳とは、【森精種(エルフ)】の笹穂耳ほど長くはなく、普通の人間サイズの耳の先端が若干尖った程度だそうだ。


 そして容姿を選べば、やっと現れる『すきるをえらぼう!!』の画面。


 矢鱈滅多に選べる分けではなくスキルポイントによって選ぶ仕組みであるようで、所持しているのは300ポイントだ。


 俺は取り敢えず最初に<種族弱点耐性>を50ポイントで取得した。本来であれば100ポイントであったようだが、真祖割引で半額だったようで早速得をし、残り250ポイント。ここからは慎重に考えなくてはならない。


「ここで選ばなかったスキルを後々得ることはできるのか?」

「状況にもよりますができないことはありません。ですが、希少価値が高い強いスキル等は入手しにくいと思います。隣の星の数で分かる仕組みになっています。青い星が希少価値。赤い星が強さ及び便利度です」

「なるほど‥‥‥」


 やはりと言うべきか、星の数が多いほどポイントは高い。


「種族スキルは会得しておくことをオススメします。【吸血族(ヴァンパイア)】のみが会得できる固有スキルですし、真祖特典で強力かつ低価格になります」

「種族スキル?」

「はい。【吸血族(ヴァンパイア)】の種族スキルは<変身><血液魔法>の二つです。<変身>では蝙蝠、狼、蟲、霧の四つに変身可能で、<血液魔法>は使用時までに吸った血を剣や盾等に変化させることができます」

「血を吸った奴を吸血族にすることはできないのか?」

「それはできませんね。その代わりの<血液魔法>だと思っていただければと思います」

「なるほどな‥‥‥」


 俺はヴェルディの言うとおり、<変身>と<血液魔法>を取得した。それぞれ20ポイントずつで、残りは210ポイントとなる。


「ステ振りとかはないのか?」

「それは次の画面にありますね。ですから、物理特化や魔法特化、または両方を均等にするかを考えて取得することをオススメします」


 見た感じ残りのポイントで取れるスキルは多そうであるため、オールラウンダーにすることを決めた。異世界には魔物が溢れているらしく、それらを討伐するとなった時に必ず良き仲間に恵まれるとは限らないため、できるだけ一人で何でもこなせるようにはしておきたい。


 <剣術><体術><六属性魔法><隠密>を選び、<武術能力増加><魔法威力増加>も取っておくと残りは90ポイントとなる。<六属性魔法>は非常に高かった。


「戦闘に使えそうなやつは粗方選んだが、他にオススメはあるか?」

「<亜空間収納>と<鑑定>はあると便利ですね。<亜空間収納>は取得したものを亜空間に収納できるようになりますし、<鑑定>は取得したものが何かを鑑定できるようになります。戦闘以外では非常に便利になるでしょう」


 テンプレだなと思いつつ、その二つを選んで10ポイントだけ残った。10ポイントで得られるものは少なかったため、ヴェルディに10ポイントサービスしてもらって<魔法詠唱省略>を取得し、晴れて全てのポイントを使いきった。

 念のためカートの中のスキルを確認し、何か便利なスキルを漏らしていないかと上から下までスクロールしてから『けってい』をタップする。


 再び画面が切り替わり、今度は『すてーたすをふりわけよう!!』の文字。レベル等は存在せず、初期設定後に数値を見ることはないとのことだったので、オールラウンダーになるようにステータスを振り分け、敢えて言うなら速度重視だ。


 『けってい』を押すと、『これでおしまいだよ!!』という文字が移し出された。最初から最後まで平仮名を貫き通したその意気に敬意を払うべきなのだろうか。


「お疲れ様でした。直ちにこの情報を元に新しい肉体を創造します。その間にいくつか世界の説明をさせたいただきますね。質問もその後受け付けます」


 これから送り込まれるのは未知の世界だ。異世界転生ものでは転生してすぐにヒロインに出会って何不自由なく暮らせることが多いが、俺がそのテンプレを踏むかは分からない。

 たまにあるように、転生直後に危険な目に遭ったりするかもしれないし、道中魔物に襲われるかもしれない。一人しかいないのだから常識を教えてくれる者もいないだろう。

 それを考慮すると、ヴェルディからはなるべく多くの情報を得ておく必要性がある。


「それでは説明に入らせていただきます。お手元の資料をご覧下さい」


 ねえよ。


「し、失礼しました。つい神会議の癖で‥‥‥‥」


 先程から何かとおっちょこちょいな部分が多いため、ヴェルディがネタ女神である可能性が浮上した。


「ネタ女神ではありませんッ! こほんッ。えっと、先ほども言いましたが皐月さんには向こうに用意した肉体に入っていただきます。早く帰ってこられても困りますのでなるべく亡くならないようにお願いします」


 そんな無茶な‥‥‥。


「もし亡くなってしまった場合は生前、あ、ここでは異世界でのことです。ええっと、生前の善行などを含めて再び地球の輪廻転生に戻っていただきます。場合によっては拘置所送りになることもありますのでなるべく帰ってこないようにお願いします」


 向こうで善行を積めっていうことか。めんどくさいな‥‥‥。


「そうおっしゃらないでください。あと、今回の転生は更生プログラムですので何か特別な使命があるというわけではありませんので普通に楽しく生きていただいて構いません。世界の終わりが近づいているとか、魔王が現れたとかはない筈です。既存の説明は以上になります。何か質問などはございませんか?」


 既存の説明の情報量が少なすぎる。質問が無数に思い付いてしまう。


「向こうの文明レベルはどれくらいなんだ? 地球よりも発達しているのか?」

「文明レベルは中世ヨーロッパくらいです。銃や大砲、機械などはなく、剣と魔法の世界です。皐月さんは<六属性魔法>を取得していましたので、魔法も使えます」


 そう言えばそうだったな。科学の世界に生きてきたため、魔法が使えるというのは地味に楽しみだ。


 <六属性魔法>とは【火】【水】【土】【風】【光】【闇】が使え、全属性と言っても過言ではない。【光】には<回復魔法>も含まれており、自分でヒーラーの役割も果たせる仕組みになっている。使いこなせるかは知らないとして、能力だけ見たら普通にチートだ。


 赤ん坊からならまだしも、転移のような形で異世界に放り込まれるのだから、チートでも無ければすぐに死んでしまうだろう。もしくは盗賊に捕まって奴隷にでもなるかだ。


 そして、俺はそんな生活は真っ平後免である。


「なるほど。ゲームなんかにあるHPやMPなんかはあるのか?」

「数値としての概念は存在しません。首をたたれれば死にますし、いくら軽症でも血を多く流しすぎれば死にます。あとは気持ち次第です。これは地球と変わりません。ただ、MPに関しては、魔力という形で存在します。魔力量は多めに設定しておきますね。魔力を使うのは<六属性魔法>のみで、魔力が枯渇すると倦怠感に襲われますのでご注意ください」

「じゃあ、他に転生者はいるのか?」

「現在はいませんし、皐月さんが亡くなるまでは送る予定もありません。物語でよくある勇者召喚等は存在せず、転生は神のみにしかおこなえないので間違いありません」

「魔物ってのは沢山いるのか?」

「はい。街は城壁に覆われていて、その外には魔物がいます。大きな街道の側には出てくることは少なく、そこから離れたり、森等の人の手の入っていない場所に行くと普通に現れる筈です」


 なるほど。ドラ○エに似てるな。


 それから幾つか質問をし、それらを全て頭に叩きこんだ。


「それでは、最後におまけ特典について話させていただきます。私からのサービスとして、<鑑定妨害>と<創造神の加護>を差し上げます。言葉も通じるようにしていますのでご安心ください」

「加護は何か良いことがあるのか?」

「いえ。ステータスが少し上昇するのと、教会で私と会話できると言ったところでしょうか。それほど強力というわけでもないですからあまり気にしなくても結構ですよ。強いていうなら聖職者に強気に出てると言ったところでしょうか」

「なるほど。<鑑定妨害>をつけたのは覗かれるのが危険だからか?」

「皐月さんは強いですし何かあるとは思えませんが、強すぎるのが知られるのもどうかと思うので差し上げました。かなり貴重な能力を持っているとばれると拉致されて奴隷にされ、死ぬまで道具のように使われるなどといったことありますしね。最高神である私が直々に着けた能力ですので絶対に見破られません」


 あんた最高神だったのか。


「言っていませんでしたっけ?」


 言ってないな。まあだからといってどうでもいいが。


「全く不敬ですね。本当なら跪くところですよ」


 ほう、なら五体投地でもしてやろうか。


「やめてください。冗談ですよ」


 冗談なのか。まあ、そんなことはどうでもいいか。



「特典はそれで終わりか?」

「はい。以上になります。では転生の準備に入りますね」


 俺の座る椅子の前に円状の幾何学的な模様が現れる。おそらくこれが魔方陣というやつだろう。

 ヴェルディに言われ、魔方陣の真ん中に立った俺にヴェルディが微笑む。


「では行ってらっしゃいませ。貴方に神の祝福が在らんことを」


 こうして、俺は異世界に旅立つこととなった。


 ふと思ったが、神の祝福が在らんことをって、神はお前だろ。




 ◇◆◇◆◇◆



 皐月さんが旅立った後に資料整理等の後処理をしていると、突然私の名前が呼ばれた。


「ヴェルディ様。彼は出発しましたか?」


 訪ねてきたのは音楽の神リューレ。私の親友神だ。私は敬語じゃなくていいといつも言っているのだが、なかなかやめてくれない。最近では彼女の個性だと思っている。


「ええ、ちょうど先ほどに‥‥‥。あれ? 送る座標を間違えたかしら」

「え!? 大丈夫なんですか?」


 慌ててリューレが叫ぶが、私はその座標の位置を確認して静かに頷いた。


「大丈夫でしょう。送る国は変わっていませんし、もしかしたらこの間違いが吉と出るかもしれません。いえ、皐月さんならきっと吉になるでしょう」







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