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神崎さんは困っている

 どうも、みなさんこんにちは。 私は椋木琴羽っていいます。 どこにでもいるような普通の高校生です。

 そして、私の隣の席にいる背が高くてかっこよくてすごくやさしいくて、私と同じ文芸部のこの男の人は、神崎さん──。




 神崎さんはあまりクラスでは目立たない。 誰も気づかないけど、どうやら神崎さんは、困っているらしい。


 朝、登校してきたとき、みんなと挨拶するときも。


「おはよーこうざきー」


 なにか聞かれるときも。


「なぁなぁこうざき」


「こんにちは、こうざきさん」


 授業で先生に指名されるときも。


「じゃあ、ここ分かる人。 こうざき、やってみろ」


 神崎さんはあらゆる時、あらゆる場所で。


「こうざき」


「こうざきさん」


「こーざき」


「こうざきくーん」


 神崎さんは困っている─。




 あれは神崎さんが転校してきたときの話。


「えー、今日は転校生が来てます。 えー、とりあえず、ほら、入って」


 知らない制服の男の人が教室に入ってきて、それまで静かだったみんなが急にひそひそ話をしはじめてた。


「ねぇ、あれどこの制服?」


「えっ、なにちょっと、かっこいいじゃない」


「みたことないねー」


「背、たけーなー」


 みんな、転校生に興味津々だった。


「えー、転校生の、こうざき 怜だ。 あー、君は、そのー、あのー、あの人の、一番右の、一番後ろの席だ」


「あっ、はい。 あ、でも、あの」


「なんだね」


「……………あ…、いえ…」


 神崎さんはクラスでは目立たない。 けど、その見た目と転校生であるということが知名度が上がる要因となって、またたくまにその名、“こうざき”は広がった。

 それから次の日あたり、部活動に入るため神崎さんは文芸部部室にやってきた。 当時、部員は私だけだったけど。


「こ、ここは文芸部で、いいんですよね」


「そうだよ。 えっと、こうざきさんだよね。 文芸部に入りたいの?」


「え、あ、そうなんだけど」


「だけど?」


「こうざきじゃなくて、か、かんざき」


「えっ」


 そう、神崎さんはこうざきさんじゃなくてかんざきさんだったのです。


 それから、野々村先生が読み間違えたことがきっかけで、今でも“こうざき”と呼ばれてる。 何度か訂正しようとしたんだけど、完全に定着しきっちゃったその呼び名を正すのは大変で。


「ねぇみんな、こうざきじゃなくてかんざき、だよ?」


「は? そんな訳ないじゃん。 ねぇこうざきさん」


「あ、え、あ、う、うん」


 へっ!?


 どうやら、内気で弱気な神崎さんは今更違うとは言えなくなってしまったみたい。




 だから、神崎さんは困っている。

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