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張翼

 どうして姜維は、この様に一瞬にして魏領へと侵攻できるのか。

 漢中から雍州へ入るまでの道のりは極めて険しく、進軍するだけで、兵の数を損なう程である。

 更に、道中の険しさの為に兵站を保つ事が極めて難しい。

 素早く進軍できるはずがないのだ。


 諸葛亮でさえ、北伐の度にその兵站に頭を悩ませ、万全の準備を整えてからでは無いと決して進軍をしなかった。

 だからこそ魏軍も十分に迎撃の準備を整える事が出来ていた。


 ところが姜維は、兵站は二の次として考えている節がある。

 軍を保つには、兵糧は何よりも大事なのだが、この絶対の前提を、姜維は軍を起こす度に覆すのだ。

 兵站を整えている間に勝機を逃してはならない。兵糧は、敵地で賄えばいい。

 つまり、足りない食料は、魏領から奪っているのだ。


 民の不満を買っても構わない。何よりもまず、勝つ事が重要である。

 この思い切りの良さこそが、姜維の神速の如き進軍の秘訣と言えた。



 現在、雍州守備軍の主力は、陳泰に率いられて涼州の反乱の鎮圧を行っている。

 その為に郭淮は予備軍の三万を率いて防衛の為に出陣。副将は、夏侯覇である。


 夏侯覇は、先の興勢の役にて魏軍の退却時、殿として僅かな兵力で王平軍に包囲されていた。

 必死にこれに食い下がって殿の務めを果たしている。

 全身に傷を負いながらも、単独で包囲を切り抜ける程の武勇を誇る猛将。

 そのような功績もあって、雍州軍における第二位の軍権を手にしていた。


「将軍、此度の戦の目的は何でしょう」


 隣では張翼が馬に揺られていた。

 今回の戦に関しても、益が少ないと難色を示していたが、いざこうして戦場に出てまで文句を言う人物ではない。


「涼州において、大小の反乱が勃発している。既に間者を放っており、魏に靡いている涼州の豪族達から人質を確保させた。これらの民を全て蜀の領内に移住させる。今回はそういう戦です」

「確保、ですか。それは有体に言えば、誘拐でしょう。不満を買う恐れがあるのでは?」

「戦なのです。それに、殺す訳じゃない。涼州の荒廃した土地から、益州という安住の地に移すだけです」

「承知しました」


 張翼。その先祖は、歴史上最高の名軍師との呼び声が高い「張良ちょうりょう」という。

 極めて名門の家柄の出身である。

 諸葛亮の北伐に従軍し功績を重ねた将軍であり、戦場の全体を考えながら戦略を編むことの出来る、極めて優秀な将軍だった。

 端正で厳格な顔つき、長く綺麗に生え揃った髭が、その育ちの良さを伺わせる。


「現在、郭淮と夏侯覇は三万の兵を率いて、こちらに向かっています。このままでは恐らく、涼州へ入る前に衝突するかと」

「涼州の陳泰率いる主力軍の三万はどうでしょう」

「距離が遠すぎますね。時が経てば合流するでしょうが、こちらは短期決戦が狙いです。念頭には置かなくてよろしい」

「では、軍を三つに分けましょう」


 姜維は、廖化、傅僉、蒋斌の三人を傍に呼んだ。


 此度の戦で特に不手際さえ無ければ、蒋斌もようやく将軍へと昇格できる段階まで来ていた。

 傅僉と比べれば些か遅い出世ではあるが、年齢は蒋斌の方が二つ下であり、これでも異例の速さの出世である。


 実情を言えば、将軍らの高齢化が進み、また先の戦で、王平の抱えていた将軍や校尉が数人死んでいる。

 急ぎ有能な校尉を引き上げ、その穴を埋めなければならないのだ。

 蒋斌はその先駆けとなるだけに、周囲からの期待もひとしおである。

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