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期待

「確かに、費褘殿の仰ることはごもっともです。長安を抜け、中原を平定し、魏を滅ぼし、北伐を成すには、もっと情勢が大きく動くのを待たねばならないでしょう」

「……一体、何を考えている」


「お互いの顔を立てましょう、費褘殿。今や民による北伐への期待は抑えがたいものとなっているはずです。しかし、本格的に軍を動かすのは、今ではない。今必要なのは、北伐を行った事実と、勝利を一つ。私に兵を一万お授け下さい。涼州内部の羌族の反乱に乗じ兵を進めます。調練だと思ってくだされば結構。一つ勝ったなら引き上げましょう」


 初めてかもしれない。あの費褘を、姜維が理を持って制したのは。

 ただ、恐らくこれは姜維の独断によるものではあるまい。

 陳祇が、不敵に微笑んでいる。

 なるほど。劉禅は胸の内に、不意な高揚を覚えた。


 確かに民衆の北伐に対する期待値は未だ衰えていなかった。

 いくら群臣らの意見を掌握しても、この民意を抑えるには、どうしても出兵という事実が必要である。


「……良いだろう。されど、一万だ。決してそれ以上の兵力を伴ってはいけない」

「無論、自分で言ったことです。必ず守ります」

「更に、漢中において軍を編成する際は、張翼将軍を必ず伴うことを約束してほしい」

「それは我らの一存では……陛下、如何でしょう」


 姜維に問われ、劉禅は少し唸る。

 張翼将軍は、軍中の位は廖化に並ぶ重鎮であり、その戦歴も長い。

 実質的に、姜維に次ぐ軍権を持った将軍であった。


 ただ、廖化とは違い、張翼の考えは極めて費褘に近く、北伐を否定こそしないが極めて慎重な意見を持っている。

 その為に軍議では姜維と正面切って対立する事がままあり、その不仲が故に、劉禅を悩ませる。


 個人的な能力を鑑みれば、姜維の補佐に最も相応しい将軍であった。

 高い戦術眼を持ち、兵法や用兵術など、どれをとっても第一級なのだ。

 一方、廖化将軍は圧倒的な経験値や統率力こそあれど、軍議においてはあまり自分の意見を持たない。

 戦術は全て姜維任せなところがあった。


「分かった。副将に、張翼将軍を任じよう。姜将軍、張将軍は朕が自ら任じた将であり、そなたの副将としてこれ以上にない適任であると思う。互いに意見こそ異なれど、尊重し、歩み寄りを忘れてはならぬ。必ずや、勝利の凱旋を果たしてくれ」

「御意」


 姜維は、国内の異民族の討伐という名目で、一万の兵を編成。

 副将に、廖化、そして張翼という堂々たる布陣。

 実際に益州西部、山脈を越えた地は羌族の影響下である為、度々、その山々を越えて羌族が賊徒化する事があった。

 その賊を姜維は一瞬で蹴散らすと、軍を漢中へ移動。

 一万という少数の兵である為、兵の任地の入れ替えであろうと魏は見ていた。


 しかし、一万の蜀軍は素早く装備を整えると、一気に魏領へと侵攻。

 肝を冷やす様な、あまりにも素早い進軍だった。


 目指す先は、やはり、涼州である。

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