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適任者

「では、お前の意見を聞かせよ」

「費褘様を継ぐことが出来るのは、一人だけで御座います」

「陳祇か」

「はい」

「しかし……」


 言葉が続かない。

 何となく感じていたことだ。陳祇には決定的に欠けている部分がある。


 あれは、優しく、純粋すぎるのだ。

 誰かの補佐役とすればその有能さを如何なく発揮する人材だが、自ら主導を行うには向かないだろう。


 陳祇と深く心を通わせている劉禅は、それを確信できた。

 ただ、費褘の任を継ぎ、国政を裁くことが可能な程の優秀な者は、陳祇をおいて他には居ない。


「そなたの父や、蒋琬、費褘。彼らと陳祇は、質が異なる。上手くは言えぬが、適任ではない気がするのだ」

「仰られたいことは分かります。なので、国政の大部分は陳祇様が引き継ぎ、国政の長の立場を別の者が担当する。本来、皆を牽引する能力と、政務を裁く能力は異なります。それこそ、先帝と、我が父の関係性の如く」

「では、長には誰が適任か」

「陳祇様が強く推す人物を据えるべきでしょう」


 答えは、分かりきっていた。

 陳祇は間違いなく、姜維を推すだろう。


 しかし既に、姜維は軍事を司る者だ。

 それが国政をも手中にするとなれば、その権力は絶対的であり、諸葛亮にも並び得る。


 国策は自ずと、北伐の強行へ傾いていくに違いない。

 ただ、そんな強き意志を、見据える先の光景を、姜維と同じように感じる事の出来る人間が居なければ、それは姜維一人の夢となってしまう。


 その夢を皆に見せるのが陳祇であり、暴走を止めるべきなのが、劉禅自身となる。


 これは、賭けであった。危うい賭けである。


「分かった。後日、陳祇に尋ね、文武百官の前で正式に推薦してもらう事にする。今は、お前が国政をまとめ、二人の補佐をしてほしい」

「必ずや陛下の御期待に応えてみせまする。陛下もどうか心をお安めになり、気丈な顔を民に見せてあげてください」

「……相父の亡き後、塞ぎ込んでいた朕に、蒋琬が同じような事を言ってくれたな」

「ならば、私から言う事は何も御座いません」


 諸葛瞻は大きくひれ伏した後、速足で部屋を後にした。

 静寂が、後悔と、不安、様々な想いを押し付けてくる。


 それに圧し潰されてしまわないよう、自らの膝に爪を深く突き立てた。

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