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強き者達

 これが、今の蜀軍を支える三人の将軍達である。

 費褘は彼らを見渡しながら、何故か胸が熱くなるのを覚えた。


 三十半ばか、それより少し上か。最も若いのが、馬忠や張嶷から南蛮の統治を継いだ閻宇将軍である。

 あまり大きい体では無いが、岩の様に盛り上がった筋肉と、神経質そうに歪んだ眉が特徴的だった。

 偉大な前任者と常に比較されながらの統治は、よほど苦労が掛かるらしいというのが、その顔を見るだけで分かる。


 六十を過ぎたばかり、最も年長の将軍が、鄧芝から東方を託された宋預将軍である。

 細く、小さな体は軍人に似つかわしくないが、その眼光は強すぎるまでに煌々としている。

 特に、出っ張った額が目を引いた。

 何十年という長い間、あの豪胆な鄧芝の副官を務めた人間である。

 鄧芝に負けず劣らず、宋預もまた、豪胆な気概を持った男であった。


 そして、姜維。

 銀色の鎧、朱色の羽織。その才気は周囲を貫き、気高き意志は衰えを知らない。


 閻宇も、宋預ですら、姜維に気で押されていた。


「忙しき中で、お集まりいただき、感謝の念に堪えません」


 ただ一人、費褘のみがそんな姜維の視線を正面から捉え、柔らかく微笑む。

 この挨拶で、場の空気もいくらか解れたものになった。


 姜維は不機嫌そうに鼻を鳴らす。

 やはり、鄧艾を未だ崩せていない事に悩んでいるのだろう。

 いや、それよりも、好きに戦場へ出て行けなくなった自らの立場に腹を立てている、そんな風に見えた。


「儂ら以外に、此度の軍議に参加するのは、どちらでございましょうかな?」


 まず意見を述べたのは、宋預であった。

 その辺りも含めて最初に説明しようとしていた費褘は、出鼻を挫かれた形となる。

 流石にあの鄧芝殿の影として勤めてきた御方だと、苦い思いと同時に、頼もしくも感じた。


「陳祇、張嶷殿、そして陛下も」

「なんと」

「勅書も、陛下自らがしたためになりました。これは、私の進言ではございません」

「左様か、いやはや。先帝もお喜びであろう」


 懐かし気に、宋預は目を細める。

 この場において、劉備が記憶にあるのは、宋預のみであった。

 あれから長い月日が経った。

 絶望的な状態で国を継いだ劉禅が、今こうして立派に国主として未来を見据えるようになっている。

 古参の将軍らならば、この時の流れに胸を打たないものは居ないであろう。



 やがて、張嶷が到着した。

 難しい顔のままであった閻宇の顔が、一気に朗らかなものになる。

 よほど張嶷に心服しているのだろう。張嶷もまたいつもの調子で、愛すべきかつての配下の尻を杖で叩いた。


 そして間もなく、陳祇と共に現れた劉禅。

 常に影を落としていた表情も、今や晴れやかなものである。

 劉禅が玉座に付くと、諸将はその場にひれ伏した。


「良い、顔を上げてくれ。特に三人の将軍方には、急な呼び出しで苦労を掛けたな」

「これしきの道中、気晴らしには丁度良いくらいでした」


 諸将を代表し、姜維が答えた。

 それを聞き、劉禅はほっと胸を撫で下ろす。


「今日、この様に皆を集めたのは、今後の方針について合議を図りたかったのだ。各地方を率いていた将軍達から、代が変わった。人が変わるという事は、考え方も変わるという事だ。その意識をそれぞれが理解しておかねば、軍は分裂してしまう。これからの蜀軍を率いるのは、他でもない貴殿達なのだ」

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