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最弱の強者  作者: 夢火
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強者と強者



一般的に能力者の戦い方と剣や銃等の武器を用いた戦い方は根本的な面で異なる。

武器の場合、その形状を見ればその攻撃方法やリーチ、威力等が大体見て分かるが、能力者の場合はそれら全てが状況に応じて変化可能な物も在れば、見ただけでは判断出来ない、むしろ見る事すら出来ない不可視能力が付いた攻撃方法も存在する。

そんな枠に捕われない戦い方が出来るからこそ、無能力者の人間は例えランクEの能力者が相手であってもそこに戦力差が生じる。


 なら、その"枠に捕われない者"同士の戦いではどのような部分で戦力差が出て勝敗を決するかと言うとそれは単純に"能力の質"だった。

質とはつまり能力の純度であり、例えば質の高い能力者が生み出した蝋燭に灯る程度の小さな炎であっても、質の低い能力者では洪水になる程の水量を編み出しても炎は決して消す事が出来ない。尤も、質が低い能力者では、力の規模にも制限が出てくるが。

スキルランクでは確かにランクを決める際に軍事価値の高い強力な能力が重視されて付けられると同時に、それは必然的にランクの上位に位置する能力者は皆が質の高い能力の持ち主だという事が分かる。

スキルランクの制度で順位が変わってもランクが変わらないのは、この質が大きな理由である。


 これらの事を踏まえて考えれば、ランクAのミナカがランクB程度の実力とされるセヴィラ相手に苦戦するなんて理由はある筈がない。


 だが、実際にはランクAはランクBを相手に苦戦を強いられていた。


「ハッ! さっきまでの勢いはどうしたァ! 小娘!!」


 雲掛かった満月の淡い光に照されるは、対峙する二人の能力者。

二人が対峙する周囲に目をやれば、コンクリートの地面は所々削られ、積み木のように重ねられたコンテナは無作為に飛ばされ、色んな方向でそこらに転がっている。


「……クッ!」


 ミナカは自身の周囲に発生させてある風を機動力にして後ろに下がり、悠然とした態度で迫り来るセヴィラと距離を取りながら腕を十字に振るって生み出した巨大な風の刃で横と縦の方向から同時にセヴィラへ攻撃を仕掛ける。だが……


「邪魔だ!」


 そう言ってセヴィラは手に持った背丈程の長さを誇る両刃剣を迫り来る十字を型どった風の刃に向かって軽く斜めへ振り上る。


 キィン……


 その瞬間、風の刃と両刃剣の衝突部分からまるで鈴でも鳴らしたかのような透き通った金属音が響き、それと同時に風の刃が何処へともかく消滅する。


「……チッ! なら、これは!!」


 風の刃が消されたのを見て舌打ちをしたミナカは直ぐ様、自分との距離を詰めようとするセヴィラに両手を向け、今度は彼の前後左右に四、五メートル級に圧縮された荒れ狂う竜巻を出現させ、四方向からの同時攻撃を仕掛ける。


「ったく、懲りねェ小娘だな……何度もやっても──」


 セヴィラは余裕の笑みを浮かべながら剣を持つ左手の手首を使い、柄をくるりと回転させて逆手に持ち変えて、腰の位置で剣を構える。


「──効かねェんだよッ!!」


 逆手に持ち変えた事と居合い切りに似た構えにより横に振るう力が強くなり、勢いを付けて加速した刃がセヴィラの周囲に出現した竜巻の腹に横一閃。


 キィィィィン……


すると、今度は先程の鈴のような金属音が重なり合うように長く鳴り響き、セヴィラを囲む前後左右、四つの荒れ狂う竜巻がまるで何もなかったかのように跡形もなく消える。


「ッ! これもダメなの!?」


 目の前で起きた光景に愕然としたミナカは体の動きを少しだけ鈍らせてしまう。勿論、セヴィラの鋭い眼光はそこに出来た隙を見逃さない。


「ハハッ! 止まっる暇なんてあるのかよ、小娘ェ!!」


「!!」


 かなりの長さを誇るセヴィラの両刃剣がミナカを捕らえるのには、瞬時に距離を詰める事の出来る踏み込みを一度するだけで十分だった。


(防御を……っ!!)


 刹那、斜め下から空気を切り上げる音を聴いたミナカは自身の周りに展開した風で防御をしようとしたが、襲い来る凶刃は鈴に似た音を立てながらそれを無効にする。


(クッ、防御がダメならっ!!)


ザンッ


 セヴィラは剣を切り上げた時に宙を舞った物を見る。

それは血ではなく、衣服の破片だった。


「チッ、避けられた上に反撃まで喰らうとはな……」


 セヴィラは忌々しげな眼でミナカのいる方を見ながら、さっきの攻防の一瞬に付けられたと思われる頬の切り傷から流れる血を指でなぞった。


 風を使ったのか、先程までセヴィラの目の前に居たミナカは既に十メートル程、距離を取っていた。


「ハァ、ハァ……」


 緊張が解けきれてない表情で肩で息をしながらミナカはセヴィラをしっかりと睨み付ける。服の真ん中をバッサリと切られて胸元が見える隠れした格好だが今はそれを気にしている暇はない。


 あの時ミナカは回避に成功したものの、普段、風の護りで体を覆っているミナカは避けるという事をしない彼女が敵からの攻撃時に咄嗟の判断で回避をするというのは少こし無理があったようで、まさに紙一重で避けれたようなものだ。


 だが、ただ単にランクAはやられてばかりではなかった。ミナカはさっきの一連の出来事である点に疑問を感じていた。


(あの剣……防御に使った風を切り裂いた時、音の他に少しだけ光っていた……)


 セヴィラの握る長身の両刃剣を見つめながらミナカは更に思考する。


(それに、回避際に放った咄嗟の風は無力化されなかった……?

もしかして、奴の能力は……)


「成る程、風使い(エアマスター)か。それも実力はランクAの上位と言ったところ……」


 ミナカはセヴィラの言葉に思考を一旦、中断して彼の動作を警戒しながら見る。


 すると、セヴィラは左手で逆手に持っていた剣を再び手首を使って回し、逆手持ちのスタイルを止めて今度はしっかりと両手で柄を握って構えた。


「……だが、残念だったな小娘。

俺を能力で倒すならランクSぐらいの化け物でも呼んでくるんだなっ!」


 ダンッ、と地面を強く蹴りあげ、勢いを付けながら上段突きの構えで向けられた鋭い剣先の矛はミナカへと突進して行く。


(もしも、奴の能力が私の仮説通りなら……)


 風の刃、前後左右からの竜巻による同時攻撃、と立て続けに攻撃を無力化されたミナカは迎撃よりも、回避の方を優先した。


(試してみる価値はある……!)


 だが、回避を選んだミナカよりも先にセヴィラが踏み込みの動作に入った。


「もらったァ!!」


 剣を握り直し、鋭く研がれたセヴィラの刃の間合いがミナカの体を捕らえて襲い掛かる。


(この距離じゃ、左右に避けても直ぐに追撃が来る! それならっ!)


 ヒュンッ、と剣が空気を切る音が鳴ったがそこにはミナカの姿が居ない。


「なっ!……上かッ!」


 一瞬にして視界から消えたミナカの居場所を直ぐに突き止めたセヴィラが顔を上げると、そこには満月を背景に照らされたミナカが風を纏いながら拳サイズの空気を圧縮した小さな球体を放っていた。


「チッ! 何度もやっても同じだ!」


 セヴィラは瞬時に剣を構えて球体を迎え撃とうとしたが、球体の進行方向はセヴィラへではなく、彼から二、三歩辺り離れた位置のコンクリートで出来た地面だった。


「! ハッ、どこを狙って──」

「残念だったわね、狙いはそっちよ!」


 圧縮された空気の球体は地面に触れると同時にシャボン玉のように弾けると、中から凝縮された膨大な空気の塊が溢れした。


「何ッ!?」


 暴風となってコンクリートの地面を抉りながらその破片が散弾銃のような勢いで飛び散り、凶器と化したそれが辺り一面に無差別に降り注がれた。





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