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最弱の強者  作者: 夢火
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ツンツン少女とターゲット

ずいぶんと間が開いてしまいました。(--;) 次からは出来るだけ早く更新出来るように心掛けます。

ミナカ・イルピリスはランクAの第四位、能力は『視界領域に存在する空気の掌握』だ。

上位ランクの能力者はその威力もさることながら、それがもたらす効果範囲もかなりの距離を誇る。

とはいっても確かにミナカも目に見える範囲なら能力を使用出来るが、彼女の有する『空気の掌握』は他の能力の中でもかなり正確さが要求される能力で、その時の天候や風向き、土地の影響、絶妙な力加減等を全て精密にコントロールして始めて絶大な威力を発揮できる。

だから実際にミナカがランクAとしての本領を真に発揮できる範囲は精々、歩幅百歩分程度である。


だが、ミナカにとって歩幅百歩分は十分過ぎるくらいの範囲だった。


「うわぁぁぁぁぁぁ!!」


ミナカが指をヒョイと動かすだけで人が宙を舞う。


「グアァ!!」


ミナカを囲っていた黒づくめの男達の一人がボーガンを取り出して引き金を引くが、矢はミナカに当たる前に彼女の周りを覆っている風の障壁に阻まれ、更には風によって矢は軌道をあらぬ方向へ変えて突き進み別の黒づくめに刺さる。


ミナカが正面突破を開始して約五分。その手際は余りにも大胆だった。


まず最初に門の見張りをしていた男達に放った『死なない程度の』竜巻が門と周りの鉄格子ごとを破壊し目立つように敷地に侵入。因みに竜巻が放たれた場所が地面を丸々削り取られたよう抉れている光景は本当に『死なない程度』の竜巻だったのか疑問に思える。


そして敷地の侵入と共に風の絶対防壁を自分の周りに展開して、後は優雅に散歩をするかのようにして一直線に敷地の中心へと歩いて行く。本来なら積木のように乱雑に配置されたコンテナが迷路のような道を作り出して真っ直ぐには行けない筈だが、ランクAの彼女にとってそれらは何の障害にもならない。


最初、ダムクライツの連中もコンテナを風で吹き飛ばしながら散歩の足取りで自分達の敷地を一直線に進む少女という色々と異常を越した侵入者に困惑を隠せなかったが裏世界(プロ)の人間としての直感がミナカを危険と察知して迎撃に出た。

そして今に至る。


「あ〜もうっ!! 雑魚はいいから早くアンタ達の親玉を出しなさいよ!」


ミナカは自分の周りを囲む黒づくめの男達にイライラしながら怒鳴りつけた。正直、ランクA(強者)の彼女が格下相手に死なない程度に手加減をして能力者を使うのはけっこうストレスが溜まる。

まぁ、実際には自分の周り以外の酸素濃度を調整して酸欠を引き起こして気絶させる方法もミナカにとっては造作もなく簡単に出来るが、あくまでも今回の自分の役割は囮。無能力者奴隷の開放をしている恋斗に敵の目がいかないよう出来る限り派手に戦わなければならない。その事もあって余計に彼女をイライラさせていた。


だが、相手がそんな彼女の愚痴に耳を傾ける筈がない。いや、正確には絶大な風の力を操る正体不明の侵入者を前に耳を傾ける余裕など彼らにはなかった。

いくらダムクライツファミリーの構成員が皆、能力者で構成されていると言ってもランクAの能力者相手ではこの反応は当たり前なのだ。


「ったく! 人の話しくらい聞きなさい!!」


どうやら今のミナカの前でははその当たり前の反応すら許してもらえないようだ。

イライラした感情をそのまま表したような暴風がミナカを中心に巻き起こり、彼女を囲っていた数十人単位の人間がつむじ風に吹かれた落ち葉のように宙を舞い、縦に飛ばされた者はそのまま重力落下で地面に落ち、横に飛ばされた者は周りのコンテナに体がぶつかるまで勢いよく地面と平行に飛ぶ。


ミナカが放った強力な風を受けた者は全員がぐったりとしているが、それでも彼らに死者はいない。


門の時に死なない程度で竜巻を放ったのもそうだが、基本的にスキルランクの任務では相手が悪党であっても死人を出してはならないと決まっているからだ。


能力者の蔓延る世界の『力の均衡』を保つのも目的の一つであるスキルランクのランカーが自己の命が危機に陥った時の正当防衛以外で無闇に死人を出せば、それこそ『力の均衡』は本末転倒である。


スキルランクはあくまでも個人が能力を私利私欲に使うの阻止する為に能力を使用する。これを掲げるからこそ、帝都が発した制度であっても上位クラスの能力者は帝都外でも大きな権力を持つ事が出来るのだ。


だが、それは所詮『表向きは』であり、裏では上位クラスの能力者を使って非能力者国家の要人を暗殺するなどが任務にもある。


ミナカはその性格からしてそのような仕事は絶対にしないし、受けた事もない。

しかし受けた事はないといっても記憶を失った一年半前からの話しであり、今のミナカは過去の自分がどんな人物か全く知らない。


だからミナカは自分という人物を知る為に記憶を求め、一年半前に失った記憶に関わりのありそうな情報を手当たり次第に探している。


今回の任務を受けたのも、無能力者達(力なき者)を奴隷にするダムクライツの連中が気に入らないという個人的な感情理由もあるが、一年半に出来たこのファミリーがほんの僅かでも自分の記憶の手掛かりになる事を知っていれば、という藁をすがるような思いも含まれいる。


「ふぅ、派手にやりすぎちゃったかしら……」


風で黒づくめの男がめり込んだコンテナや亀裂の生じた地面が広がる辺り一面が災害に遇ったかのようなその光景にミナカは思わずため息を溢した。どうやら先程の一撃でミナカの周囲に居たダムクライツの連中を一掃してしまったらしく、ミナカは被害に遇った場所のちょうど真ん中にポツンと一人で立っていた。


(まぁ、恋斗の方に敵が行かなきゃいい話しだから別にいっか……)


そう思いつつも、やはり囮にしては少しやりすぎたと感じたミナカは改めて能力の制御に心掛けようと考えた。


「……アイツの方は無事かしら」


一人になった敷地で何気無く口から出た言葉の内容に気付いてミナカは直ぐ様、首をブンブンと横に振って顔を若干赤くした。


(な、何考えてるのよ、私は〜!! 大体、なんで私がアイツの心配なんて……)


己の中で何かと葛藤し続けていたミナカだったが、その時。


「ほぅ……どんなじゃじゃ馬が俺の敷地で派手に暴れていると思ったら、まさかこんな小娘だったとは……」


「……!!」


突然の声に警戒の色を強めたミナカは声がした方向の前方のコンテナを咄嗟に見た。夜の所為で余りはっきりと見えないが、その人の輪郭を捉える事が出来た。


「……まさか、ターゲットの方からみすみす出てくるとは思ってなかったわ。まぁ、お陰で探す手間が省けたわね。セヴィラ・ダムクライツ」


「ハハッ、小娘よ、目的は俺の首か?」


最初は輪郭しか捉える事が出来なかった人物の姿が雲掛かっていた満月の光に照らされた事によって明らかになった。


年齢は大体、三十代前後、髭をたくわえて年期の入った顔立ちは裏世界(プロ)としての威厳を放ち、髪型は銀のオールバック。身に付ける衣服は黒づくめの男達が着ていた物と同じようなデザインだが、ボタンなどが純金で装飾されている。


「大方、スキルランクの任務で俺を捕えに来たランカーと言ったところか」


セヴィラはそう言いながら目の前に地面で倒れ込んでいる部下の腹を蹴り飛ばして、ミナカの方へ一歩ずつ近付く。


「ふんっ、わかってるなら話しは早いわ……」


ミナカはそんなセヴィラに軽蔑の眼差しを送りながら両手に風の渦を生み出す。


「アンタの歪んだ根性、私がこの手で粛正してやるわ!」

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