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最弱の強者  作者: 夢火
18/18

最近の学生はすぐキレる

感想や訂正箇所、その他なにかありましたら指摘のほう、よろしくお願いします。



 例えば、この物語の脚本が突如異世界に飛ばされた主人公が世界の平和を脅かす魔王を倒す勇者となって旅をするようなテンプレ的な内容ならまだ納得が出来たかも知れな……いや、やっぱ納得できねぇな、こりゃ。


 でもさ、RPGと言えば、可愛いヒロインや頼もしい仲間達を連れて迫り来る刺客に四苦八苦しながら魔王打倒へと向かうような王道的な物語がやはり頂点だと思うんだ、俺は。

最近のRPGはどうも無駄にひねりを入れた内容の物が多いが俺はそんなのよりも主人公が何も喋らず『はい』か『いいえ』かの二択しか選ばない、ちょいと古臭いRPGの方が好きだ。四の五の言わずにただ黙々と運命に従って世界を救う、そこに二択主人公という独特の美徳があると俺は思うんだ。


 ……でっ、要するにさっきから何が言いたいのかと言えば俺は王道が好きだって事だ。

つまり、魔王や魔物の居ない地球と殆んど生態系が一緒な異世界に飛ばされて、何の特殊能力も持たない喧嘩と体力以外能力値が一般ぴーぽー以下の俺が主人公の物語なんて俺にとっちゃクソゲー以外の他でもないってこと。

悪いがそういうのは誰か他を当たってくれ、そもそも俺に主人公なんて大役は不釣り合いだし。

大体、さっきは王道的な内容の方が好きだと言ったが、プレイヤーになるのとキャラクターになるのとじゃ話は別だ。あくまでそういうのはゲームや漫画の中だけで十分なんだよ。


 だから俺をもとの場所に帰してくれよ、出来れば停学期間の一週間以内で……



 ◇ ◇ ◇




 未だこの状況に頭がついていけてない学生だったが、とりあえず自分とそっくりさんである灰髪に言われた通り猫を渡した。そしてそのついでに学生はそっくりさんの灰髪に自分はこの辺の地域に詳しくないから少し大通りまで道を案内してくれないか、と頼んでみる事にした。


 この薄暗い路上や、周りにある石造りの建物等は自分住んでいた地元どころか、ホントに日本かどうか疑いたくなる風景だが、ここがどんな場所であれ余程ぶっとんだ所じゃない限りはタクシーでも拾えば帰れるだろう。幸いにも雑魚(チンピラ)を倒した際に財布を十分に潤せたので資金面は問題ない、そんな考えがこの時点ではまだ学生の頭の中にあった。


 思いのほか、そっくりさんの灰髪は自分と対象的な性格をしていたようで二つ返事でそれを了承してくれた。因みにそれを聞いて灰髪の隣にいた西洋風の顔立ちをした金髪少女が何やら不服そうな表情をしていたが、どうにか灰髪がそれを巧く丸め込んで納得させていた。


 チンピラ共に喧嘩を売られ、一週間の停学を喰らい、空からパンツ一丁のオッサンは降ってきたかと思えば、灰色の奇妙な埃に襲われ、気付けば見知らぬ場所で、目の前には可愛い子ちゃんを連れた自分のそっくりさん……全く奇妙な一日だ、こんな日は早く寝るのに限る。帰ったら即ベッドにダイブしよう。


 灰髪たちに道を案内されながら学生は今日起きた一連のイベントに苦笑しながらそう思いつつ、無意識に手に持った木刀を見て『さっきの所で捨てときゃよかったな〜』などと軽くため息を吐いた。


 だが、案内されて着いた場所に学生はまだこの奇妙なイベントが終わってない事を嫌でも思い知らされることになった。


「………えっと、つかのことお訊きしますが、ここって日本デスカ?」


 普段絶対に使うことのない敬語が学生の口から思わす飛び出た。語尾がカタコトになっているのはこの光景が彼にとって余りにも衝撃が大きかった所為であろう。


 信じらんねぇ……だってこのご時世に馬車が普通に走ってるんだぜ?


「ニホン? 大陸外の国ですか? すみません。俺、大陸出身なものなんで大陸の外の国の事はあんまり詳しくないんですよ」


 ふざけた様子もなくただ真面目にそう答えた灰髪に学生は疑うかのような眼を向けた。


 日本を知らないだと? ふざけんな。じゃテメェが今使ってる言語はどこの国の言葉なんだよ。


それとも自分が無意識の内に灰髪たちの言語を脳内変換して日本語として聞き取っていたとでも言うのであろうか?

いや、ありえない。英、国共に万年欠点の自分がそんな神業的なスキルを所持してる筈がない。それなら日本語が自分の知らない内に世界共通言語になっていたという仮説を立てた方がまだマシだ。


 いや、っていうか大陸外ってなんだよ。


「なぁ、一応聞いておくが、ここって何て言う国だ?」

「はぁ? アンタさっきから何言っんの? ここは帝都ラフラ・ローレじゃない。因みにアンタがさっき居たのが東部のターヘク地区、それで今いるのが北部のセリナ地区よ」


 痺れを効かしたかのように若干、イライラした口調で金髪少女が代わりに学生に答えた。


「全く、アンタ見たところ東の出身みたいだけど、帝都(ここ)に来るんだったらせめて土地ぐらいは覚えておきなさいよ? さっきのターヘクなんて地元の人間でも迷う事がある地域なのに」


 腰に手を当て、叱るようにそう言葉を続けた金髪少女だったが、学生の方は殆んどそれを聞いてはいなかった。


 日本を知らないと言った灰髪の言葉に、ここが少なくとも日本ではないと予測はしていたが、まさかここまで予測の遥か斜め上を行くものだとは思っていなかった。


 ていと、らふらろーれ? なんじゃそりゃ、まるでRPGに出てくるラスボスが城建てて構えてそうな街の名前じゃねぇか。


「はは、こりゃ、笑うしかねぇな……」


 力の抜けたような渇いた笑いを発しながら学生は灰髪にそう返して改めて目の前に広がる光景を見た。


 薄暗い路上を出て現れたのはまるで中世のヨーロッパを思わせる煉瓦や石造りの建物が並ぶレトロな街並みだった。

大きな通りには馬車が往き来し、威勢よく声を上げて酒場に客を呼び込む中年の男性や会話を楽しむ娘、街中を杖を付いて歩く老人まで道行く人全員が学生が普段見ることのない色彩溢れる髪の色や瞳をしているその光景は間違いなく彼の知る日本では見れなかった。


「ハァ……何がどうなってやがるんだか……」

「誰かー!! その人を捕まえてー!!」


 頬をつねっても醒めないこの夢幻にもはや諦めすら籠ったため息を吐いて学生はとりあえずこれからどうしよう? と考えていると通りの向こうから食材のようなものが入って紙袋を抱き抱えた男とそれを追うメイド服を着た若い娘が走って来た。


「……何だァ?」

「どけぇ!!」

「グヘッ!?」


 声の方向に振り向こうとした時、学生は走って来た紙袋を抱えた男に突き飛ばされた。


「あっ! 恋斗さんにミナカちゃん、ちょうどよかった、あの人を捕まえて下さい!」

「どうしたの? 睦月」

「さっきあの人にマスターに頼まれて買った食材を盗られたんです」


 突き飛ばされピクピクと地面で体を震わす学生に気付いていないのか、急いだ様子でメイド服の娘は灰髪と金髪少女にそう話した。


「成る程、そういうことですか、ミナカさん頼みました」

「わかってるわ」


 灰髪はそう金髪少女に言うと少女は右手を走って行く男の背中に向けた。その時、


「吹き飛びな──」



「っざけてんじゃねぇぞ、ゴラァァァァァァぁぁぁ!!!!」




 地面に倒れていた学生がこめかみを激しく痙攣させながら勢いよく立ち上がり獣の如き猛りを上げた。


その瞬間、ピタリ、と全ての音と動きが停止したかのような錯覚が辺り全体に染み渡った。


 ニコニコを浮かべていた灰髪はその表情がピシャリと固まり、右手を男の背中に向けていた金髪少女は腕を垂らして学生の顔に視線を移し、メイド服の娘はオロオロと体を震わせた。



 突如として響いたその怒声に逃げていた男は思わず紙袋を落としそうになり、そして興味本意で恐る恐る後ろを振り向いた。



──そこには鬼のような目をした悪魔が立っていた。


「こちとら今日は、色々とハプニングが多すぎて頭ン中で処理しきれてなくてパンク寸前なんだよ、今にもプッチーンてイッチまうくらいに」


 学生は口元を三日月のように歪めてただ静かに笑っていた。


「だからさァ、今はちょーっと肩がぶつかって謝んなかったくらいでソイツを八つ当たりと称してボッコボコにしちまうほど頭がキテんだよ、俺は」


 血で赤く染まった木刀を手に学生は一歩、また一歩と紙袋を持った男へと距離を縮める。


「く、クソ! こっちにくんじゃねぇ!!」

「危ない! その人は能力者です!」


 紙袋を抱えた男が学生に片方の手のひらを差し出したのを見て灰髪が咄嗟に声を上げた。


「ハッ、喰らっとけ!」


 言葉と共に男の手から木刀サイズの氷柱が三つ連なって発射された。

ヒュン、と風を切る音を立てながら学生に勢いよく向かう氷の刃に灰髪はもうダメだと思った。

だが、学生の方はそんな灰髪の事など知るよしもなく、ギュッと木刀を握る手の力を強めた。


「聞こえなかったかなァ? 今の俺はとォっても機嫌が悪いんだぜ?」


 パリン、パリン、パリン、とまるでワイングラスを床に叩きつけて割ったような音が三回立て続けに響いた。


「な!? 今アイツ、木刀で全部叩き割った……?」


 まるで信じられない光景を目の当たりにしたかのように金髪の少女が言葉を漏らした。


学生のとった行動は至極単純な事で、ただ木刀を降り下げ、降り上げ、そして再び降り下げただけだ。

だがそれら全ての木刀の軌道が恐ろしく疾く、尚且つ氷柱の腹の部分を正確に捉えていたのだ。


「オイオイ、こりゃガチでファンタジーだな、今のは何だ? ブリザドか? それともマヒャドか? まっ、どっちも今は同じメーカーだがな」


 叩き割られた事によって地面に散らばった氷柱の破片に鋭い眼光を向けながら学生はそう言い捨てた。


 普段の彼ならこの魔法のような現象に驚愕していたかもしれないが、些か今の彼には"常識"という枷が思考から外れかかっているようだ。


「な、なんなんだよてめえは!?」


 目の前の少年に木刀なんかで自分の能力を防がれた事により自尊心を打ち砕かれた男は後退りしながらも再び氷柱の刃を学生へと向けて何度も放った。


「なにって、ただの学生さ」


 表情を一ミリも変えずに迫り来る氷柱をまるで蚊を払うかのように叩き割って再び男の方へとゆっくり歩を進める学生。


「ただなァ、最近のキレる学生を止めるのにそんな低級魔法じゃ、ちっとばかし役不足だ」


 何度も何度も木刀という惰弱な武器で己の能力を無効化され、とうとう男は紙袋を置いて逃げ出してしまった。その様子は肉食獣に食われんと必死に足掻く草食獣のようだ。

すると学生はそんな男の背中を確認して木刀を野球のバッターのように構え始めた。


「今の俺を止めたきゃ究極魔法(アルテマ)でも唱えやがれ、この似非魔導師がッ!!」


 ビュン! と木刀をフルスイングして真横回転をかけて飛ばし、勢いよく宙を舞ったそれは見事に男の後頭部に直撃した。


「あ〜スッキリした……でもこれからどうしよう」

「「……………」」


 一連の出来事に開いた口が閉まらない状態の灰髪と金髪少女とメイド服の娘を他所に学生はポリポリと頭を掻きながら疲れるように息を吐いた。



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