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最弱の強者  作者: 夢火
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最弱と元弱者


 それは戦いと呼ぶには余りにも一方的過ぎる展開だった。


 恋斗に言われて渋々といった様子でミナカが戦闘に加わってから数分足らず、その僅かな時間だけで戦闘は既に終了していた。

先程まで自分たちの周りを囲んでいた四十人近く居た黒づくめの男達全員が例外なしに地にひれ伏して辺り一面は沈黙した夜の背景に戻り、一連の出来事を目にしていた睦月の表情まさに驚愕といった色で塗り潰されていた。


 彼女のした事は至極、簡単な作業だ。

まず最初に『巻き込まれたくなかったら私の後ろに下がってなさい!』と言って前方に出ていたセヴィラを半強制的に下がらせ、能力影響範囲を相手の居る場所だけに絞る。

そして絞った範囲の空気の濃度を薄く調整。

それだけで後は勝手に敵が呼吸困難を起こして戦闘不能になるのを眺めるだけとなる。


無論、気絶程度なので誤って死なせない様に濃度調整にはかなり集中力が必要となり、相手もそんな隙だらけの敵を無視する筈もなく攻撃をしてくる。


 とはいっても、ミナカであれば一分も掛からずに調整が終わるし、仮に攻撃がミナカに向かったとしても、彼女を囲うように展開される風の防護壁でそれは全て遮断されることになる。この障壁は並大抵の能力者では突破する事など不可能に等しい。


 余談だが最初にセヴィラと対峙した時も彼女はまず最初にこの手段を使ったが、能力の性質上に置いてセヴィラの無能力化(キャンセラ)は相手が悪かった為にミナカは随分と苦戦を強いられてしまったのだ。


 敵の攻撃は調整中のミナカだけではなく、その後ろで戦闘に参加していない恋斗と睦月にも攻撃は飛んできたが、下がっていたセヴィラがそれらを全て一つ残らず斬り消したので二人に被害はなかった。


「何度も見てきた光景ですが、流石は天下のランクAと言ったところですね」


 戦闘が終わり、地面に踞っている黒づくめを見渡した恋斗の最初の感想がそれだった。

彼の表情は驚いているのか、それとも呆れているのか、判断し辛い雑じり気のある笑みだった。


「"浄化されし魂を持つ者"……改めて能力者と呼ばれる者の力を思い知りますね」


「……えっ?」


 流れるような自然の口調で言った恋斗の言葉。

だが、側でそれを聞いた睦月には、どうにもその言い回しに違和感があるように感じた。


「あっ、いえ、ただの独り言です。気になさらないで下さい睦月さん」


 不思議そうな視線を送る睦月に気付いた恋斗は直ぐ様いつもの笑みを浮かべてそう答えた。


「……………」


 そんな二人のやり取りを近くで聞いていたセヴィラはその鋭い表情をより一層深くしてヘラヘラと笑っている灰髪の少年の方を見ていた。まるで何かを探るかのように、


「ふぅ、……雑魚相手に手加減するのも肩が凝るわね」


 じっと恋斗を睨んでいたセヴィラが何か思い切ったように口を開こうとした時だった。

さっきまで戦場の前線に居たミナカが肩を回して愚痴を漏らしながら恋斗達の元へ帰ってきた。疲れた様子で眠そうな顔をしているのは無理もないだろう。


 いくらランクAとはいえども今日一日だけで、能力を派手に使った正面突破と敵を引き付ける為の陽動、そしてセヴィラとの戦闘の直ぐ後に起きた先程の戦闘と、立て続けに能力を使えば疲労も蓄積する。神の奇跡を起こせたとしても、それを仕様するのはあくまで"人間"──いや、それ以前に彼女はまだたった十三の少女なのだから。


「お疲れさまです、ミナカさん」


 そう言葉を掛けつつ恋斗は疲れた様子で戻ってきたミナカの元へいち早く向かい、有無を言わさないかのように彼女の体を抱き上げた。もちろん抱き上げ方はお姫さま抱っこで。


「ちょ、ちょっと恋斗!? これくらい自分で歩け──」

「すみません、ミナカさん」


 いきなりの、それも人目も気にしない恋斗の行動に困惑しながらも止めるように彼を怒鳴ろうとしたミナカだったが恋斗が途中で彼女の言葉を遮った。


「ど、どうしたのよ急に……」


「ミナカさんにこんなにも負担を掛けさせたのはイレギュラー要素を考えずに容易に作戦を提案した俺の責任です。もっと俺がしっかりしていれば……」


 彼の表情からは完全に、とまでは言えないが笑みが消えて、声のトーンも普段より低いものだった。


「……恋斗」


 いつもと違う恋斗を見てミナカは無意識に彼の名を呟いた。今までミナカは笑みのない恋斗の表情を余り見たことがなかった彼女にとって、こんな時にどのような言葉を掛ければいいのか分からなかった。


「今日はもう休んでも構いません。後の処理と報告、それと彼をあの時庇った理由も含めてあなたが休んでから説明します」


 だから、と最後に言葉を付き足して恋斗は微笑みを浮かべた。赤子を安心させるような、今にも崩れてしまいそうな、優くて哀しそうな微笑みを、


「今はゆっくりと眠って下さい」


 その言葉と笑みに安堵したのか、それとも疲労がピークに達したのか、恋斗がそう言った直ぐ後にミナカは糸が切れたかのように瞼を閉じて眠ってしまった。


 恋斗はミナカが眠ったのを確認すると、そのまま近くのコンテナの影まで彼女を運び、身に付けていたポーチを外して中身を出してそれを枕代わりに使いミナカを寝かせた。


「睦月さん、ミナカさんを少し見ててくれませんか? どうやら彼が俺と二人っきりで話したそうな顔をしているので」


 ずっと警戒の籠った視線を送っているセヴィラに社交的な笑みを向けつつ、恋斗は睦月にそう頼んだ。


「えっ! あ、はい。分かりました」


 それを聞いてセヴィラと恋斗の顔を見比べた後に睦月はミナカが眠っているコンテナの方へ向かって行った。


「さて、これでお互い話しやすくなりましたね」


「……少し警戒心が足りないようだな小僧。俺達は敵同士だ。今すぐお前やあの無防備の風娘を殺すかもしれないぞ?」


 剣を構えつつ殺気を言葉に纏わせるセヴィラに対して恋斗はなんのリアクションもせずに、同じ態度のまま悠々とそれに答えた。


「ははっ、確かに。あなたがファミリーを騙してでも、睦月さん達を保護している優しい人だと知っても一応、敵同士には変わりませんしね〜」


 皮肉のようにも聞こえる恋斗の答えに舌打ちをしながらセヴィラは構えていた剣を降ろした。警戒や殺気は未だにそのままだが。


「……あの娘から聞いたのか?」


「ええ、大体の話しは聞かせてもらいました」


 恋斗はセヴィラの視線をしっかりと受け止めながら言葉を続ける。


「話しを要約すると、あなたは奴隷売買の為だと口実にし、実際は能力者至上主義の国家によって住む場所を失った人や迫害された人を賊や"本当の"人売り達から彼等を保護し、住む空間と生きる為の食料を与えていた、と……」


 そこで一旦、話しを切り恋斗はセヴィラの表情を伺うようにして、こう尋ねた。


「しかし分かりませんね……

能力者、それ以前にマフィアのボスである貴方が仲間から反感を買うような真似をしてまで無能力者達を助けるのは何故です? 事実、ファミリーは貴方を消そうと先程の裏切りまで企てた……」


「ハハッ、仲間だって? あんな私利私欲にしか興味がない屑と一緒にするんじゃねェ!!」


 どんなに深い悲しみや強い憎しみを持ったとしてもそれらが行き着く場所は同じ──それは超越した純粋な怒り。

彼の口から発せられた言葉に籠められた感情は正しくそれそのものだった。


「能力者のお前達には分かる筈もねェよなァ……

小僧、この世界で弱者がどんなに理不尽な目にあって生きているか知ってるか……?」


 その問いに恋斗は答えられなかった。

確かに恋斗はこの世界で無能力者がどんな扱いを受けているかは"知識として"知っている。

だが、この問いは"知識として"ではなく、"経験として"知っているかを問われている。知識しか知らない恋斗には、この男が求めるような答えを返すことが出来なかった。


 恋斗が何かを答える前にセヴィラは語り始めた。


「俺も最初は弱者だった。とても優雅とは言えなかったが、今よりはずっと楽しかったさ……あの時まではな」


 その後、セヴィラは自分に起きた理不尽な過去を、その怒りを感情のままに話した。国を潰され、家族を踏みにじられた男の憎しみ、悲しみ、そして怒り。


「…………一つ、いいですか?」


 セヴィラの話しを聞き終えた恋斗が口を開いた。

セヴィラが語った中でずっと胸の中で疑問にあった言葉があったのだ。


「あなたは最初に弱者だった言った。

となると、あなたのその力は第三者に与えられた、という事ですか?」


 普通に考えればそれを疑問に思うのは当たり前だろう。無能力者がある日突然、能力者に目覚めたなんてことはありえない。

セヴィラ自身ですら、この事に関しては今でも疑問に感じていることだ。


この少年も未だ前例のない話しに疑いを持っているのだろう、そう思っていたセヴィラだったが恋斗の質問には続きがあった。


「彼女に……、委託(ギフト)に会ったのですか?」




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