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最弱の強者  作者: 夢火
10/18

男の過去と贈り物

随分と間が開いてしまいました(--;) 今回は今までと違い、卑猥な表現が出てきているのでご注意下さい。



 五年前、帝都とは少し離れた平穏な小国で農業を営む夫婦の間で育った青年が居た。


 やや強面の実年齢よりも歳上に見られる顔立ちで、その口調はまがり間違っても丁寧とは言い難いものだったが、近所の老いた老夫婦が営む畑の収穫を手伝ったり、賊や自然災害で家族を失った子達に水や食料を与え、時には遊び相手になってあげたりと、弱き人々を見ると放っておけない面倒見の良い、周りの人々から人気のある青年だった。


 そんな日々を送る彼にある日を境に悲劇が訪れた。



 彼の住む国は小国とはいえ、国全体の機能を担う国王が佇む城がある。

その城と比較的、国の中では他よりも金持ちが居る城下の民家が何者かの手によって襲撃されたのだ。


 それは人の手で行われた所業とはかけ離れた光景だった。


 一晩、たった一晩で城を含む城下の建設物は何百年も時が経ったように朽ち果て、灰が降り注いだ白と黒のみが広がる廃墟と化し、

そこに住む人々が最期に居たで在ろう場所には埃に似た白い塵が積もっていた。


 これ程まで人外を異した現象を起こせるとすれば能力者、それもランクS相当の力を持つ者だ。

襲撃犯の目撃情報は数少ないが、その日の襲撃が起きる前の昼頃にこの辺では余り見掛けない顔の十二か三の少年が、ちょうど被害にあった城と民家を見渡す事が出来る山に向かったとある。


 不幸中の幸いといったところか、小国の中でも末端に位置する場所で民家を構える彼と周りの住民はこの時には被害がなかった。


 だが、彼にとってこの事件は不幸の引き金になった。

 小国にも関わらず、この国が平穏を保っていたのは国王を中心とする政治、貿易の両面がしっかりと機能を果たしていたお陰だ。

その中心となっていた国王が消えた今、国は国としての機能を完全に失い、破綻してしまった。


 その後の出来事を想像するのは簡単だ。


 国が所持していた領土は直ぐに隣接した近くの国に吸収され、だからといって彼等の小国の生き残りは全くの補助もなく、それどころか生き残り達を排除する為に、その国は賊を雇って彼らを襲わせた。


 武器や能力者を用いる賊に対抗する術もなく、男や老人達は賊に虐殺され、女は犯され、子供達は売られた。


 ──なんで俺達がこんな目にあわなきゃいけねェんだ?


 賊達の品のない笑い声が耳から遠ざって行く。好き放題に殺し、犯し、奪い、さぞ満足なのだろう。

彼らは青年にまだ息の根があるとも知らず背を向けて帰って行く。


 ──俺達が何をしたって言うんだ?


 顔は殴られて膨れ上がり、身体中のあちこちの骨が折れて、指先一つ動かせない。腹の傷口からは血が止まることを知らぬかのように流れる。


死神の足音はもう直ぐまで側で聞こえて来る。


 ──アイツ等の所為だ。俺達の国を壊した能力者達の所為だ……!!


 そう思って拳を握りしめようとするも握れない。

今の彼には握る力がない。叫ぶ力もない。泣く力さえ、ない……


 ──力が、俺に力さえあれば……


 願っても能力者になれる筈がないと分かっている。能力の有無は生まれた時に決まっている。自分にそれがないことも知っている。


膨れた瞼の向こうから入る、見慣れた人々の無惨な姿が彼の心を抉る。


少し前まで、一緒に作物の収穫を手伝ってあげていた老夫婦は原形を止めていない程、見るに絶えない屍と化し、笑顔が輝いていたあの若い娘達は服を裂かれ、賊達の白濁の欲望にまみれ気を失っている。


 ──俺に……!!







「力が欲しいの?」


 突如、声が聞こえた。澄んだような少女の声が


 ──! だれ、だ……?


 突然の声に驚いたが、言葉を発しようとしても思うように唇が動かせず、首を何とか回して声の主の姿を捕らえようとした。


「随分と酷い……これも能力者の仕業なの?」


 何とか声の主を視界に捕えることが出来た青年が目にした人物は十五、六くらいの若い少女、そしてその傍らには少女の半分くらいの年齢と思われる幼女がしっかりと腕にしがみついていた。


 ──この辺の住人じゃない、旅の人間か?


 そう判断したのは少女の着ていた服装だった。

傍らの幼女の方は紺色のボロそうな布切れで作ったようなローブを頭から羽織っていたが、少女の方は東の国特有の『浴衣』と呼ばれる民族衣装を身にしており、この地域一帯では見掛けない格好だった。


「ねぇ、お兄さん。もし力が手に入れば、あなたはその力で何がしたい?」


 カラン、カランと特有の履き物から音を鳴らしてながら少女は青年が倒れている直ぐ側まで近付き、そこでしゃがみ込んで青年の顔を見下ろした。

ぼやける瞳でしっかりとの表情を捕えることが出来なかったが、青年には少女が何処か寂しそうな顔をしているように思えた。


 この少女は何が目的で死にかけの自分にそんなことを問うのだろうか、それともたまたま通り掛かって興味本意で自分に話しかけているのだろうか。


まぁ、いい……どうせ死ぬんだ。それくらい答えてやろう。


 薄れてきた思考の中でそんなことを考えつつ彼はぼろぼろになった体から力を振り絞って震えながらに口を開いた。


「ふく、しゅう……だ……俺達を、こんな目に合わせた……奴等に、能力者達に……!!」


 喉から声を絞り出し、青年は最後の叫びを響かせた。頬に流れて落ちる雫と共に……


「……そう、ならこれは不幸なあなたへの私からの"贈り物"」


 叫び終わり、ぐったりとして反応がなくなった青年を見た後、少女は虚ろげな瞳で見詰めながら彼の額を軽く指先で弾いた。


「後はそれを使い、何をするかはあなたが決めることよ……」









 それから三年半後、稀有な能力を持った男が当時、結成したばかりの能力者主体のマフィア『ダムクライツ』に入団。


その数ヶ月後、男は僅か数人の仲間を引き連れ、三年半前に隣国を吸収し領土が拡大したある国の政治的要人、王族を全て消し、実質上の国取りに成功。

マフィアによる国取りという前代未聞の成績を残したその男の実力とカリスマ性を認められ、入団から僅かな期間でファミリーのボスにまで成り上がった。




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