『ちゅうしよ!』
「ちゅうしよ!」
え、な、なにを言ってるんだコイツは。
見ず知らずのオレに向かっていきなりそんなことを口走るなんて。
どういうつもりなんだ。
しかも真顔で言っている。
よく見ると丸い大きな瞳は少し潤んでいて、ほんのり薄紅にそまる頬。
なんとも愛らしい薄桃色の唇。
その柔らかそうな口もとが更にオレの鼓動を速くする。
「ちゅうしよ」
彼女は悪びれもせずに、またその天使のような姿で悪魔の囁きをする。
こんなにも美しい人がこの世にいるものなのか。自分の目を疑う。
そんな彼女からの『ちゅうしよ』のひと言は、遥か何光年も先から地球を目指してやって来た宇宙艦隊、その母船から我々人類が最終攻撃を受けている……それほどの衝撃を覚える。
体中にピリリとなにかが走る。
「え、そんな急に言われても」
そうだ、今ここで出逢ったばかりなのに。
心の準備がまだ整っていない。
突然の出来事に体中の紅い液体が逆流する思いだ。
季節はもう秋だというのに、身体の中からふつふつと湧き上がるこの感情は一体なんなんだ。
まるで夏に逆戻りしたような気にさえなる。
「ちゅうしよ」
そう言って彼女の指し示す先を見て、オレは唖然とした。
せっかくだったのに。
楽しみにしていたのに。
『本日の“みんなで愛でよう、秋の紅葉狩りドキドキツアー”は中止となりました』
楽しみにしていたのに。
彼女は言う。
「中止よ」
紅葉の葉が一枚ハラリと舞っていた。
ちゅうしよって。
せっかく楽しみにしてたのに!!
中止だなんて!
がっかり……。
あ~ん、笑って下さ~い。
コメディー初挑戦なんで、大目にみて下さい(_ _)
お読み下さりありがとうございました!