続・旅の始まり
時間がたつのは意外と早いもので…というか、ほぼぼんやりと空眺めてただけなんだけど、気づくと日が傾いて段々と空が緋色に染まり始めていた。
街からそんなに離れてないから戻ってもいいのかもしれないが、道中に魔物がいると街に戻るのも一苦労なので今日はここで野宿決定。
おかしい…。私の予定では草原を抜けて隣国の国境近くまで行ってから野宿するはずだったんだけど。まぁ、必要になりそうなものは大量に持ってきてるから別にどうってことない。例え遭難して半年とか助けが来なくても、余裕で過ごせる量は持ってきている。
「さてと…。じゃぁ私は野宿の準備に取り掛かるから、魔物がこっちこないように見張っててね~。」
「いや、準備手伝うよ。一人じゃ大変だろう。」
申し出はありがたいけど、この人旅は初めてって言ってなかったっけ?手伝ってもらえればもちろん、助かるよ?でも、手伝うというなの邪魔だったら物凄く遠慮願いたい。
「………出来るの?」
「問題ない。」
そう言い切ると荷物から『初めてのキャンプ』と書かれた本を取り出し、私に見せる。思わず私は頭を抱えた。
どこから…どこから突っ込んだらいいの!ていうか、明らかにボケてるんだよね?!むしろ、そうであってほしい。
「ウン、手伝いはいいから見張りしてて。オネガイシマス。」
「何故だっ…2人でやった方が早いじゃないか!」
「そもそもキャンプじゃないから。」
私の言葉を聞くとラトナは項垂れて、渋々と見張りを始めた。……マジで本見ながら手伝うつもりだったのか。
そんなラトナを横目に、私は倉庫を開いて必要な物を見繕い、取り出す。テント、魔物除け、料理道具に食材、薪。
まずテントを張る場所と火をおこす場所を決めてその周りに魔物除けを置く。これかなり大事。魔物が来ると愉快な追いかけっこが始まって、いつ終わるのか分からないから真っ先に対策しておく。
そして手早くテントを設置する。組みあがったものを倉庫にしまってるから実は取り出すだけっていう楽さ。テントっていってもそんな大層なものじゃなくて、雨よけ出来る程度の簡易的な物だ。
「よし!準備できたから魔物除けの範囲内に来て。」
テントの横に設置した小さめの椅子を指して、見張りに立っていたラトナを呼び込んだ。
「もうできたのか?!」
「うん。あ、ここの薪に火つけてもらってもいい?」
驚かれるのは想定内なので軽く返事をしてスルー。何事もなかったかの様に足元にある薪を指さす。
「火種はどうしたんだ?」
「あるよ?でも面倒だし、魔術でちゃちゃっと着けてよ。」
「僕を火種扱いか?!」
魔術をなんだと思ってるんだ、とかぶつぶついいながら短く呪文を唱える。指を鳴らすと立てられた人差し指に小さな炎が出て、それを薪に移してくれた。
文句は言うけど結局やってくれるあたり、なんだかんだ優しいよね。そう思うと自然と笑みがこぼれる。
私は夕飯の準備をしながら、明日以降の事を考えていた。この調子だと予定より大幅に遅れて隣国の『勇者様』と合流になるだろう。ラトナは魔術師だから出来るだけ早く他の『勇者様』と合流して、敵を攻撃することに専念させてあげたいところだけど…。仲間と合流するだけなのに物凄く時間がかかる気がする。なんたって、まだ今日出発した街の明かりが見えるところにいるんだからね。…進んでないよりマシだけど。
ラトナのレベルも上がったことだし、装備新調して頑張ってもらうしかない。
そんなことを考えつつ手元は休めず作業していたので、今日の夕飯が完成した。お皿に取り分けて配膳する。
「外で作ったとは思えない夕食が出てきた。」
「どんな物がでてくると思ってたのよ。」
「干し肉とか干し芋。」
簡易食卓に並んでいるのはパンと塩肉じゃが、野菜スープ、果物。いくら何でも栄養偏って旅の途中で倒れたとか洒落にならないもの。食事だって手を抜いちゃダメでしょ。
とはいえ、手に入れられた食材と調味料ではこのくらいが限界だ。
この世界は信じられないくらい食文化が発展してないことが分かった。味付けはすごくシンプルだし、調理法や調味料もシンプルな物ばかり。流通している物が国によって異なるという話を聞いて納得した。
料理スキルのレベルを上げるついでに色々作り置きしておきましたよ。後は他の街や国に立ち寄った時に、都度足して完成させるだけ!あぁ…『倉庫』って本当に便利。入れた食材が腐らないなんて、ゲームの中だけかと思ってたよ!
「………美味い。」
その言葉をもらえただけで私は満足。っと、話がずれてしまった。装備の事を話そうと思ってたんだ。
「ラトナ。レベルが上がったみたいだから、装備新しくしよっか。」
「そうだな、次の街についたら新調しよう。」
「何言ってるの!そんなこと言ってたら、どのぐらい先になるか分からないじゃない!」
あんまり想像したくないわ。どう考えてもこの亀ペースだと何ヵ月かかるか分からない。っていうか、次の街までそのままで行くつもりだったんだ…恐ろしい事実を聞いてしまったよ。装備の確認しておいて良かった。
「うぐ…。でも、最初の頃よりは倒すの早くなっただろ!」
「装備変えただけで大分変わると思うよ~。夕飯食べた後に、手持ちで作れそうなの作るから、明日からは新しい装備で戦ってね。」
「え?」
私の言葉を聞いて、驚いたような顔をする。装備の力は偉大なのだ!実力に合った装備をちゃんとするだけで、あら不思議。今まで強く感じていた敵と普通に戦えるようになったりもするのだ。…これゲームの知識だから実際どうなのかはやってみないと分からないけどね。
「『え?』って何よ…。嫌な訳?そんなに魔物と追いかけっこするの好きなら薦めないけど?」
「いやいや!そういう事じゃなくて。作れるのか?!」
「作れるよ?」
ちょっと、何そのいかにも怪しんでますみたな顔。
「普通武器は鍛冶屋で買うだろう。防具だって防具屋で買うじゃないか。そもそもティアが作れるって発想ができない。」
「旅支度ついでに習得しておきました。」
「ついでって…。」
市場を色々見てて、『倉庫』に沢山詰め込めるなら適度に装備を新しくするのが便利だろうなとか、お金の節約になるかなと考えた。そういう理由で鍛冶、裁縫のレベルも上げておいたんだよね。自分の装備も作りたいし。何より街に寄れない場合がある、今回みたいに。
おかげで私の製作スキルが充実しましたよ。生産技術職街道まっしぐらデスヨ。
「今の装備は旅に出る前に揃えた物だよね?」
「いいや?随分前の昇級試験を受けた時に使ったものだ。まだ使えるから十分だろう。」
「……。」
私はラトナの事を か な り 甘く見ていたようだ。これが素なのか!通常運転なのかっ?!ヤバイどうしよう、頭痛くなってきた。コイツとこの先、長旅をしないといけないのか…。色々な事が予想の斜め上過ぎるよ。
いくら冒険初心者と言えど、スタートする街で装備をある程度は揃えるでしょ!っていうか、支給されるよね?!……もう、めんどくさいから全部作ろう。そうしよう。