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恋は花火の如く美しい

時系列としてショッピングが終わった後三日後、時計の針は二時を指していた。俺は今まで更新していたラノベも完結してそろそろ新作を書かなければならない時期でもあり、それと同時に新人賞向けのラノベも書かないといけない状況に陥っていた。現状ジャンルやシナリオも何も決まっていない。俺はここ一週間程アイデアを求めて地元を散歩してみたり、ちょっと遠出してみたり、他作者のラノベを読んでみたり、自分の過去作を読んでみたりしてアイデアを探してみたがなんの意味もなく今に至る。

「はぁ…どうしよう……」

俺が深くため息を吐くと姉さんが俺の部屋に入ってきた。

「まだ出てこないの?」

「あ、あぁ…なんだかんだでもう一週間だよ…こんなに不調が続くのは初めてだから流石に焦るよ」

過去の俺は書きたいものがストックしてあるほどだったが、ストックも底をつき考え直しだ。

「どうするの?結局このままだったら夏休み終わっちゃうよ?」

夏休みも残すところあと二週間程しか無い。

「そうだ!そういえばアレがあった!」

姉さんはなにかを思い出したのかスマホを取り出しハイスピードで何かを調べている。

「これだよ!」

「うん?なにこれ?」

俺は既に半液体状に近い状態だった、そんな状態で姉さんのスマホの画面を見ると俺の肉体は固形物に戻った。

「多摩川の花火大会だよ!今日やるんだって!」

「お、おう…行ってみるか」

もちろん俺はいつメンに連絡を入れた。案の定混雑が予想されるから場所取り係を任された。


   ~しばらくして~


「じゃあ行ってくるよ…」

「行ってらっしゃーい!」

状況を説明すると、我が家にいつメンが来る前に、まだおやつの時間にもかかわらず場所取りをして来いと追い出されたのだ。

俺はレジャーシートと万能端末などを入れたリュックを持っていざ出陣する。大荷物で電車に乗るのはこれまでに恥ずかしいとは知らなかった。辺りには同じ目的だろうか、そこそこ大きな荷物を持つ人が多く見られた。

そんな俺は大荷物の中、二回乗り換えをこなしてやって来たのは地元と同じ東京は二子玉川だ。流石に遠かった…。

「ふぅ…長かった……」

そこそこ混んでる車内からところてん方式のように押し出される。それと同時にポテッと少し転ける。

そのあとはすぐに改札を抜け多摩川の河川敷へと急ぐ。少なからず場所取り組が見られる。俺は急いで場所を確保する。

「ふぅ…とりあえずミッション完了!」

一安心した俺はレジャーシートの上で仰向けになる。河川敷で横になるなんてはじめてだ。小鳥のさえずり、ランニングの足音、川の流れる音、電車が通る音、車が通る音。俺の脳内には様々な音が駆け巡る。初めての環境下で少しぐらいはアイデアが出るかな…なんて考える。ファンタジー、ラブコメ、様々なジャンルのシナリオが脳内を駆け巡るがどれもピンとこない…。

「はぁ…やっぱりアイデアが浮かばぬ…」

いつまでたってもこの状態だ。

時間は四時過ぎ、開始までだいぶ時間があるが今の俺には時間を潰す手段はそんなに無かった。そんな俺はなにをしたか?なんの事はない、音楽を聴こう。そうやって俺は音楽を聴いて時間を忘れる。聴いてる曲は基本的にはアニソンだ。ごく稀に気に入った曲を盛り込んでくる。九分アニソンで一分その他の割合だ。

しばらくすると人が増え始めてきた。場所取り合戦を繰り広げているが勝ち組の俺にはなんの影響もない…のだが音楽からの影響があった。眠い…非常に眠い…横になってたから尚更だ。

「ふわぁ…ねみぃ…」

俺は大きく欠伸をする。右腕で視界を暗くしてもいいのだがそうなると荷物が不安だ。

流石に眠くなり過ぎだと俺はイヤホンを外す。スマホで時間を見るともう五時過ぎだった。開始まであと一時間を切ったからかさっきより人が多くなった。そんな時、俺のスマホが震えてる。姉さんからの電話だった。

『今どこ?』

「えっと…」

場所?こんな中で場所を伝えろなんて…。

そんな難しい課題にはこうやって対処すれば良き。

「今送った」

『送った?』

しばらく間が空いた。

『ふふっ、ありがとう』

「じゃあ待ってるね」

そう言って電話を切る。もうすぐ着くようだ。

数十分すると姉さん達が来た、それも浴衣姿でな。

「「「じゃーん!」」」

「どうかな?似合ってるかな?」

「どうですか?似合ってますか?」

「似合ってるよね?そうだよね?」

三人からの圧力がすごいが…。

「すごく似合ってるよ!可愛いよ」

絶賛しよう、すごく似合ってる!

「だよね!時間かけて正解だったよ!」

「マー君は私たちよりなっちゃんの方が気になるんじゃない?」

「んな!そんな事…」

ふと奈津希さんを見ると耳先まで茹で上がってる。

「ま、まぁ…早く座りましょうよ!私疲れちゃいました!」

「そうだね、早く座ろ」

「私も疲れた〜、マー君背もたれになって〜」

「断る」

そんなこんなでいつも通りの俺たちに戻る。その後は差し入れを頂き開始時間までの数十分の時間を潰す。開始数分前、オープニング的なアナウンスが流れた。それからついに開始された。

綺麗な花火が目の前で打ち上がる。そしてそれを目で追うと綺麗な円形を描き、一つ一つ個性がある。

「た〜まや〜」

「綺麗だね!」

「スゴいです!」

女性陣は目をキラキラさせて花火を楽しんでいる、もちろん俺もだ。こうして花火大会に行くのはなんだかんだで初めての事だったからものすごく嬉しいし、こうやって友達と花火を見れてるから尚更楽しい。

始まって数分、姉さんと叶は空腹の為屋台へ買い出しに。俺と奈津希さんは二人で花火を見る。

「「––––––––––––––––」」

気まずい沈黙がしばらく続く。それからしばらく、動き出したのは俺ではなく意外にも奈津希さんだった。

「ひゃ!」←俺の声。

驚く理由は簡単だった。奈津希さんの手が俺の手の上に…。

「ご、ごめん!」「ごめんなさい!」

同時に謝罪する。それから少し間を空けてから、奈津希さんが微笑む。

「ふふッ、いつもこうだね」

「アハハ、そうだね」

やっぱりまたいつものようにしばらくの沈黙が続いた。

「あ、あの…」

そう言ったのは奈津希さんだった。でもさっきの微笑んでた時とは違った。顔を少し赤くしてる気がする。

「ん?」

俺が聞き返す。そしてその後に想像もつかない言葉が出た。

「私…正宗さんのことが……好きかもしれないです…」

花火が鳴る中、その声だけがハッキリと聞こえた。決して彼女が大きな声でその想いを伝えた訳じゃない。でもそれだけが、なぜかハッキリと俺の心に響いた。

いつまでも黙ってるわけにはいかず、俺は返答する。答えには迷わなかった、ただ一択それだけだった。そして俺はその想いを言葉にする。

「俺も…奈津希さんの事が好きだよ」

それを聞いた奈津希さんは顔は真っ赤に茹で上がっていた。でも心なしか少し微笑んでいた気がした。

それと同時に俺は脳内に今まで求めていたものを見つけた。

「そうだ!次回作は奈津希さんをヒロインにする!」

この台詞に聞き覚えがある人は分かるだろう、全くそれと同じ台詞が書かれたラノベがある。もちろんこの台詞はアレに影響されてる。(詳細は伏見つかさ先生執筆のエロマンガ先生第一巻をご覧下さい)

「……えっ?」

「だから!次回作では奈津希さんをヒロインにするの!君と出会ってから今までの事全てを描いた小説を俺は書く!」

思いっきり変な発言をした俺氏、それを聞いてた奈津希さんはしばらく黙ってからこう返した。

「そっか…分かった!それなら彼女である私の力が必要ですね!」

そっか…もう友達じゃなくて彼女なのか……。

「おう!めちゃくちゃに頼ってるぜ!」

こうして俺に、新しい相棒ができた。

そんなこんなで盛り上がってる時、買い出しから姉さん達が戻ってきた。両手に袋を持って。

「はい、なっちゃん達の分」

「ありがとうございます」

そう言って奈津希さんに渡された袋には焼きそばなど屋台ではメジャーな食べ物が入っていた。

「うわぁこんなに…お金いくらでしたか?」

「いいよいいよ〜なんてったって今日は一大イベントだったからね♪」

なんだこの悪魔の微笑みみたいな感じは…姉さんも叶も二人してなにか悪意を持っている、それだけは見て分かる。なんてまぁ、そんな事は置いておいて今は花火を楽しむ。夏の一大イベント、それに…記念日の思い出としてね…。

花火も終盤に差し掛かり、とっておきをどんどん打ち上げている。それに周りの人たちは「きれいだね」「すご〜い!」など盛り上がりを見せている。それは見ている俺たちにも当てはまる。俺たちもさっきの様なリアクションをする。

楽しい時間はやっぱりあっという間だ。あんな事があったにも関わらずほんの数分の事に思えた。

『これにて全てのプログラムを終了します』

なんて放送が流れる。それからすぐに撤収を始めるグループが見られる。俺たちもそれに続いて撤収を始める。

そういえば女性陣は浴衣だったな。やっぱり改めて見ると美しいし可愛い。

「それじゃあ帰りますか…」

「「「うんっ!」」」

それから俺たちは人混みに流されながら駅へと向かう。行く時は数分で着いたが帰りは勝手が違った、人混みの影響で数十分かかった。そうしてやっとの思いで駅についた俺たち一行。ここからは帰るのだが…うん…知ってたけどさ…ここまでとはさ…思わないよ……。

「あ…あはは…」

俺たち全員の口からこれが漏れた。ホームには圧倒的人!流される俺たち、積み残される人、俺たちも乗り込むのに二本分待つ事になった事は言うまでも無い。

「ふぅ…やっと乗れた…」

でも乗れたは良いがやっぱり混雑はしてる。俺たちはドア付近に立ち俺は女性陣を圧力から守る役になってる。

「しゅ…終点まで行っちゃおうか…」

「そ…そうですね…」

「「そ、そうする…」」

そんな訳で約三十分ほど揺られる事、やっとの思いで終点に着いた。でもまた乗り換え、数分間の乗車だ。周りにはまばらだが浴衣姿の女性が見られる。でも乗り換え客は見た感じ俺たち一行しか居ない。

「「「はぁ…やっと座れた……」」」

お疲れ様です…。俺は心の中でそれを伝えつり革につかまる。

「マー君大変だったね…」

「あ、あぁ…でも楽しかったから良いよ」

「でも正宗くんずっと私達のこと考えてくれたじゃん!帰りの電車の時潰されないように守ってくれたじゃん!」

「まぁ…せっかくの浴衣だしさ、崩したくないし…負担かけたくないし…」

俺はもう片方の手をつり革に通してそう言う。

「やっぱり正宗さんは優しいなぁ…身体張ってでも私達の事考えてくれるし…場所取りもしてくれるし…どんな事お願いしても快く受け入れてくれますし」

「そ、そう言われると流石に照れるよ…」

つり革に通した手で頬をかく。それと同時に電車は減速し駅に滑り込む、俺は慣性の法則に従い進行方向側に少し傾く。それをこれ含め二回程行われると地元に戻ってきた。

「「やっと着いたぁ」」

姉さん達はあの混雑に揉まれたせいかややグロッキーだ。

「それじゃあ一旦俺の家に行こうか」

「うん!分かった!」

 そんな訳で着替えを取りに一旦家に戻る。家に着いたらもちろん俺は玄関前にて待機だ。数分すると戻って来た。奈津希さんは私服と思いきや浴衣のままだった。

「じゃあ俺は奈津希さんを送るから姉さんは叶を頼む」

「はーい!」

「それじゃあまたね奈津希ちゃん!」

「はい!今日は楽しかったです!」

そんな訳で家を出てから姉さんは叶を送り、俺は奈津希さんを自宅まで送る。やっぱり夜道を女の子一人にさせる訳にはいかない。

「あの…ありがとうございます…」

「あ…良いんだよ…友達としても、彼氏としてもやっぱり君を一人で帰す訳にはいかないからさ」

そう言うと奈津希さんは少し微笑み、こちらを向いた。やっぱり可愛い…尊さのあまり肉体が蒸発しそうだ…。

その後は駅へと向かい、隣駅の奈津希さんの最寄りまで向かった。相模大野の駅からはまた少し歩く。駅前は明るく人で溢れかえってたが少し離れると閑散としてる、やっぱり時間のせいなのか辺りは暗くなっている。

「あの…一つお願いがあるんですけど……」

「ん?」

「あのね……」

ためるごとに奈津希さんの頬は赤くなり、声も小さくなっている。

「そのぉ……」

 声が小さく聞き取れない。それが奈津希さんにも伝わったのか行動に表してきた、なんと手を繫いだのだ。右手には温かくて…柔らかくて…力加減を間違えたら崩れちゃいそうに繊細で…小さな手がそこにあった。詳しくは問わなかった、いつも通りラノベの事だったり夏休みの思い出だったり、いつも通りに接した。それが一番俺も楽だし、奈津希さんも楽だろう。

 しばらく話してると奈津希さんの家の前に着いていた。

「気づいたらもう家ですね」

「それじゃあここで俺の役目は終わりだね」

「ここまで送ってくれてありがとう!今日は楽しかったよ!」

「それは良かったよ、じゃあ夜も遅いから…またね…」

 俺は奈津希さんに手を振ってから駅に戻ろうとしたその時。奈津希さんが追いかけてきた。

「正宗さん!」

 俺はその声に呼ばれ振り向く。その時想定外すぎる事が起こった

「———ふにゃ?」←俺の声。

 右の頬で何かが起こった。状況を把握するのに時間がかかった。結論から言うと、キス(・・)をされた。キスをした後奈津希さんは、頬を少し赤めて小悪魔の様な微笑みで足取り軽く「じゃあね♪」と言いながら自宅へ帰って行った。

 俺は奈津希さんが視界から消えてしばらく、ここでやっと状況を理解した。それに伴い俺は顔を真っ赤にした。

 まぁ、恋愛経験のなかった俺にはあれは早すぎた気がした。でも…嬉しかった…、それと同時に奈津希さんが彼女で良かったと心に思った。


そしてこれから、俺達は新たな物語を描くことにした。



  *花火大会当日の奈津希さん*


「ふにゃぁ…今日はどうしようかなぁ…」

 今は朝九時過ぎ、今日のスケジュールは一切決まっていない、課題はやっちゃったし…小説を書く気分でもないし…外は暑いし…いつものように部屋でグダグダする予定だった。

そんな時、お姉ちゃんがソファでの転ぶ私にこう言う。

「奈津希ぃ、今日もグダグダするの~?」

「うん~その予定だよ~」

「これを正宗君に見られたら彼どういう反応するかね…」

 お姉ちゃんはニヤニヤしながらそう呟いた。私は慌てて飛び起きる。

「だめぇ!動画とか取ってないよね⁉」

「もちろんだよ…むしろこんな姿見せられないよ…」

 完全に夏の部屋着スタイル、薄いTシャツに下着姿。見られたら完全にお嫁に行けなくなる…。

「まぁ…それは…」

「それは…?」

「夏だから仕方ないよ!」

「ま…まぁ…確かにね…」

 そう言うお姉ちゃんも私と似たような服装をしている。唯一の相違点というのが…「なんで私より胸が大きいの⁉」という事だ。

「はぁ…どうしたものかなぁ…」

「お母さんもお父さんもいないし…どうする?」

 しばらくシンキングタイム、二人してリアルに考える。それで行きついた結果が二人でゲーム対決!

 パーティーゲームやアクションゲーム、レースゲームで勝負をした。結果は…私の勝ち!

「アハハ!」

「楽しかったね!」

 お姉ちゃんとゲームなんていつぶりだろうか、純粋に楽しめた。これが正宗さんとだったら…なんてね☆

「はしゃぎ過ぎたらお腹空いたね…」

「じゃあ何か作ろっか」

 そう言ってそうめんを作る。暑いからちょうど良きかもしれない。

「「いただきま~す!」」

 クーラーの効いた涼しいお部屋で冷たいそうめんを食べる。

「「ごちそうさまでした!」」

 食後の洗い物をしているそんな時だった。机の上に置いてあったスマホから着メロが鳴る。

「あわわ!ちょっと待って」

 私は慌てて相手を確認する。

「正宗さん⁉」

「デートのお誘いじゃないか?」

「いや…そんな訳……」

「そんな事より早く出てあげなよ…」

 私は慌てて電話に出る。

「もしもし⁉」

『お…おう…奈津希さんだよね…?』

「あっ、はい!合ってます…けど、どうしたんですか?」

『あ、あぁ…今日な多摩川で花火大会をやるらしくて…良かったら一緒に行かない?』

 ま…まさかお姉ちゃんの言う通りに…。

『あ、言っておくけどみんなと行くからね』

 ソウダヨネーシッテタヨー。

『だからさ、三時過ぎに俺の家に来てくれる?』

「分かった!」

 そう答えると電話の向こう側でバタバタしている、すると電話の向こう側から愛美さんの声が聞こえた。

『あっ、なっちゃ~ん!ついでに浴衣持ってきてね~!』

「分かりました、ちゃんと忘れず持って行きますね」

『じゃあまったね~♪』

 そう言われて電話が切れた。

「どうだった?」

「いや、デートのお誘いってわけじゃないけど…」

「けど…?」

「花火大会行こうって誘われた…」

「マジで⁉」

「それと…浴衣を準備してほしいんだけど…」

 私がそう言うとお姉ちゃんはダッシュでリビングを飛び出し階段を駆け上がり二階でドタバタしてる。

「お…お待たせ…」

 そう言って持ってきたのは浴衣だった。

「ありがとう!」

「サイズは問題ないと思うけど…」

 だってこれ買ったの中二の時だよ?どうせ私の身体は成長してませんよ…。

「何時に行くの?」

「正宗さんのお姉さん曰く三時過ぎに来てねって」

「じゃあ二時半ごろに出ないとだね」

 今の時間は二時過ぎ、私は慌てて部屋に向かいダッシュで着替える。多分タイムを測ったら過去最速の記録が出るレベルの速さだと思う。

「じゃあこの服で…」

 そんな訳で、浴衣を持って家を出る。

「それじゃあ行ってくるね!」

「いってらっしゃい!楽しんでね」

 そう見送られ私は駅へと向かう。暑い…溶けちゃいそう…。

 家を出て大体三十分が経過した頃、やっと正宗君の家に着いた。

「ふにゃぁ…溶けちゃいそうです…」

「お疲れさま、ほらっ、クーラーの効いた部屋へどうぞ!」

 中へと踏み入ると程よくクーラーが効いていて涼しい。

「あれ?正宗さんは?」

「あぁ、場所取りをお願いしてさっき出て行ったよ」

 正気ですかお姉さん、こんな暑い中場所取りに行かせるなんて…しかもまだ三時過ぎですよ?正宗さん死んじゃいますよ?

 そんな心配をしつつ、私たちの方も準備を始めようとしたときインターホンが鳴り、叶さんが来た。

「ふにゃぁ…溶けちゃう…」

 あれっ?なんか言い覚えのあるセリフが聞こえた気が…。

「すっずしぃ~!」

 展開もさっきと近い物を感じる。

「それじゃあ、早く始めちゃおうか」

 そう言って浴衣の着付けを始める。

「お姉さん上手ですね」

「まぁね♪母さんに仕込まれたから着付けはお手の物よ」

 とお姉さんは得意げに言う。

 次々に着付けをこなし、立場は逆転、今度は私がお姉さんに着付けをする番になった。

「なっちゃんも上手だね」

「はい、私もお母さんに教えてもらったのでバッチリですよ♪」

 そんな訳で全員の浴衣の着付け作業が終わったのが四時前だった。

「それじゃあそろそろ行こうか」

「「はいっ!」」

 そう言って私たちは家を出た。そこからはバスに乗り―の、電車に乗り―の、乗り換え―の、また電車に乗り―の、目的地に着いた。

「「「ふにゃっ!」」」

 三人そろって電車から押し出された。

「すごい人ですね」

「そうだ!その間にもマー君の居場所確認しないと」

 お姉さんはスマホを取り出しLINEの電話で正宗さんの居場所を確認している。

「ふぁ?」

 一体どんな会話をしているの?場所の確認だよね?

「ふふっ、そういう事ね…」

 数秒の間をあけてからお姉さんは微笑んでそう言った。

「正宗さんなんて言ったんですか?」

「これだよ」

 そう言ってスマホの画面を見せてもらうとMAPアプリにピンを立てて位置を知らせている。

「ふふっ、確かにこれなら分かりやすいですね」

「確かに、正宗らしいよ」

 二人して納得、それを参考に正宗さんを探す…けどやっぱり迷うことなく見つけられた。

「おぉ!やっと来た…ん?浴衣?」

「「「じゃーん!」」」

「どうかな?似合ってるかな?」

「どうですか?似合ってますか?」

「似合ってるよね?そうだよね?」

 まぁ、そんな件はさっき見てもらったから少しカットするね。

 時系列としては二人きりになるところだよ。


 気まずい…なんか良い雰囲気だし…。でもこの場は何とかしないといけないから…。

 そうやって解決策を考えてると無意識に私の手が正宗さんに当たっていた。それに気づいた正宗さんは「ひゃっ!」と驚いた。それを聞いて私も状況を把握し、慌てて謝罪する。

「ごめんなさい!」「ご、ごめん!」

同時にその言葉が聞こえた。しばらくして私は微笑んだ。

「ふふッ、いつもこうだね」

「アハハ、そうだね」

それからしばらく沈黙が続いた。私の課題でもある、正宗さんとの会話で沈黙を作らない事!今決定した。その課題を達成するために私からこの沈黙に終止符を打つ。

「あ、あの…」

「ん?」

「私…正宗さんのことが……好きかもしれないです…」

 私はふと口にしてしまった。私は事の重大さが分かってない、からくり人形のようにカタカタとうつむく。そして心の中でこう叫ぶ。

「私今なんて言った⁉いやいや、確かにその想いはあるけど!なんで今この場なの⁉タイミングとかさバッチリだけどさ!ふと出すものじゃないよね⁉私ってば何やってくれちゃってるの⁉あぁもう!絶対変な子だって思われたよ‼いきなり告白なんてありえないよね⁉」私はやっと事の重大さを理解し、心の中でそう叫んだ。顔を赤くした私はふと正宗さんの方を見る、すると正宗さんの口が動いた。

「俺も…奈津希さんの事が好きだよ」

それを聞いた私は顔は真っ赤にしていた、体が熱い、恥ずかしすぎて体が熱い。でも…嬉しかった。ちゃんと私の想いは彼に伝わったんだ。

すると正宗さんは何か心に決めたようにしてバッと立ち上がりこう言った

「そうだ!次回作は奈津希さんをヒロインにする!」

「……えっ?」

 私はその言葉に頭が真っ白になってしまった。告白の成功と今の発言のダブルパンチだ。

「だから!次回作では奈津希さんをヒロインにするの!君と出会ってから今までの事全てを描いた小説を俺は書く!」

それを聞いた私は、彼と同じようにバッと立ち上がり正宗さんを見つめてこういう。

「そっか…分かった!それなら彼女である私の力が必要ですね!」

「おう!めちゃくちゃに頼ってるぜ!」

こうして私に、新しい相棒ができた。

二人で盛り上がってる時、お姉さんと叶さんが戻って来た。

「はい、なっちゃん達の分」

「ありがとうございます」

 そう言ってもらった袋の中には焼きそばなど屋台ではメジャーなものがそろっていた。

「うわぁこんなに…お金いくらでしたか?」

「いいよいいよ〜なんてったって今日は一大イベントだったからね♪」

 そこには小悪魔感あふれる微笑みがあった。お姉さんも叶さんも「私達はすべてを知っている」感を出している。まさか見られてないよね……。でも、そんな事は置いておいて今は花火を楽しむ。夏の一大イベント、みんなとの思い出。それに…記念日の思い出としてね…。

花火も終盤に差し掛かり、とっておきをどんどん打ち上げている。これが今回のメインになるのか、とてもきれいだ。

「きれい…」

 無意識にその言葉が漏れた。

楽しい時間はやっぱりあっという間だった。あんな出来事があったにも関わらずほんの数分の事に思えた。

『これにて全てのプログラムを終了します』

なんて放送が流れる。それからしばらくしてから私達も撤収を始める。

「それじゃあ帰りますか…」

「「「うんっ!」」」

それから私たちは人混みに流されながら駅へと向かう。こんな人混みは初めてだった。行く時は数分で着いたけど帰りは勝手が違った、人混みの影響で数十分かかった。そうしてやっとの思いで駅についた私達一行。ここからは帰るけど…うん…知ってたけど…ここまでとは…思わないよ……。

「あ…あはは…」

私たち全員の口からこれが漏れた。まさかここまで混んでるとは思わなかったよ…。

「ふぅ…やっと乗れた…」

でも乗れたは良いがやっぱり混雑はしてる。私たちはドア付近に立っている。人の圧力から守るために正宗さんが私たちの盾になってくれている。こうやって体を張ってでも私たちを守ってくれたり、私たちの事を考えてくれる彼が好きだった。

「しゅ…終点まで行っちゃおうか…」

「そ…そうですね…」

「「そ、そうする…」」

 それから三十分程、その電車の終点まで行き、またそこから乗換をする。周りにはまだ人がいる、かなり遠くからも来ていることが見て分かった。

「「「はぁ…やっと座れた……」」」

お疲れ様です…。私は心の中で彼に対して伝え、席に座る。

「マー君大変だったね…」

「あ、あぁ…でも楽しかったから良いよ」

「でも正宗くんずっと私達のこと考えてくれたじゃん!帰りの電車の時潰されないように守ってくれたじゃん!」

「まぁ…せっかくの浴衣だしさ、崩したくないし…負担かけたくないし…」

あぁ!もう好き!この人を彼氏にできて良かった‼

「やっぱり正宗さんは優しいなぁ…身体張ってでも私達の事考えてくれるし…場所取りもしてくれるし…どんな事お願いしても快く受け入れてくれますし」

「そ、そう言われると流石に照れるよ…」

正宗さんはつり革に通した手で頬をかく。それと同時に電車は減速し駅に滑り込む、彼は慣性の法則に従い進行方向側に少し傾く。それをこれ含め二回程見ていると地元に戻ってきた。

「「やっと着いたぁ」」

お姉さんと叶さんはあの混雑に揉まれたせいか、ややグロッキーだ。

「それじゃあ一旦俺の家に行こうか」

「うん!分かった!」

 そんな訳で着替えを取りに一旦、正宗さんの家に戻る。家に着くと正宗さんは外にて待機し、私たちは着替える。でも私は浴衣姿のままでいた。

「あれ?奈津希ちゃん着替えないの」

「はい、このままで居たいですし…」

 私はそう言う。こっちの方が良いもん…。

 それから着替え終わった私たちは正宗さんの待つ外へ出る。

「じゃあ俺は奈津希さんを送るから姉さんは叶を頼む」

「はーい!」

「それじゃあまたね奈津希ちゃん!」

「はい!今日は楽しかったです!」

 私はお姉さんと叶さんに手を振ってから別れる。そして二人きりで歩く。

「あの…ありがとうございます…」

「あ…良いんだよ…友達としても、彼氏としてもやっぱり君を一人で帰す訳にはいかないからさ」

 やっぱり優しいなぁ…嬉しいよ…。

その後は駅へと向かい、隣駅の私の最寄りまで向かう。相模大野の駅からはまた少し歩く。やっと地元に戻って来たよ。

「あの…一つお願いがあるんですけど……」

「ん?」

「あのね……」

やっぱり恥ずかしいよぉ…。

「そのぉ……」

 少しずつ声が小さくなってしまう。でも伝えるのは恥ずかしいから、私は行動で表す。私は正宗さんと手を繫いだ。左手には冷たくて…がっちりしてて…緊張しててドキドキしているのが手に取るようにわかる…そんな大きな手がそこにあった。それに彼は詳しくは問わなかった、いつも通りラノベの事だったり夏休みの思い出だったり、いつも通りに接してくれた。それが彼なりの配慮だった、優しすぎます…。

 しばらく話してると私の家の前に着いていた。

「気づいたらもう家ですね」

「それじゃあここで俺の役目は終わりだね」

「ここまで送ってくれてありがとう!今日は楽しかったよ!」

「それは良かったよ、じゃあ夜も遅いから…またね…」

 そう言って正宗さんは私に手を振ってから駅に戻ろうとしていたその時。私の身体が正宗さんの元へと走りだしていた。

「正宗さん!」

 彼は私の声に呼ばれ振り向く。私は迷わずに行動に移した。

「———ふにゃ?」←彼の声。

 私は彼の右の頬にキスをした。初めて男の人にするキス…初めて彼にするキス…。そんな様々な想いを込めて私は彼にキスをした。キスしたあと私は小悪魔の様な微笑みをしながら「じゃあね♪」と言いながら自宅へと戻る。

 玄関で私は顔を真っ赤にした。

「私ったら…彼にキスしちゃった♪」

 私は目を✕にしてそう言った。

 やっぱり正宗さんを彼氏にしてよかったと心に思う。


そしてこれから、私達は新たな物語を描くことにした。



そうして二人の短くて長い時間が終わった。

その後、二人とも家で枕に向かって叫んで居たことは秘密。

「えっ?」「ふぇ?」

皆様お久しぶりです。

本日は「俺のラノベってつまらないの?(仮称)」を最後まで読んでいただきありがとうございます。

最近は日に日に気温が暑くなり夏が近づいてくるのを実感しますね。執筆時にはかき氷が食べたくなってきますwそれに投稿日なんかとても暑くて暑くて…

まぁ、そんな事よりも…。

いかがでしたでしょうか、今回は短いパートとなってしまいました。ですがこの話で一気にシナリオは進みました!正宗と奈津希との距離は一気に恋人のキョリになりました!

おめでとう正宗!おめでとう奈津希!

私にもその幸せオーラを分けてください!ww

まぁ、後半部にもありましたが、次回より本格的に彼らによりつくられる最高のラノベの制作に入ります!

次回作をお楽しみに!

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