ある条件でたどり着いた結末
「……今更、」
振り絞るように言葉を放つ。
「今更、……助けに………?」
龍二は頷く。雪菜は失笑した。
「……今更だなぁ。まさか、今になって、僕の事を、好きになった……とか?」
「……今更、そんな皮肉に似たしゃべり方するのか。」
近づき、龍二は早苗から雪菜をもらう。
「記憶はもう戻ってる。」
「!」
「だからこそ、俺はお前を助けに来た……今度こそ。」
男から離れるジェスチャーを貰った早苗は、数歩下がる。
「……なんで、」
「?」
「なんで、君は僕を助けようと思った……?」
「……倒すより、助ける方がお前の為にもなるかなって……そう思っただけさ。」
二人を中心に、結界が展開される。
男の提唱する姿を見て雪菜は龍二に聞く。
「今から何を……?」
言うことに躊躇ったが隠さずに答えた。
「俺の身体をお前に授ける。そうすれば、お前は助かるんだ。」
「……君はどうなるんだ?」
「………………」
いなくなる
そのたった五文字の言葉を言うことが出来ない。
「いなくなる、のか……?」
龍二は黙ったまま、雪菜をギュッと抱きしめる。
しかし、雪菜は抵抗するように動く。
「君が僕に……そこまでする必要が、あるのか……?」
「…………ある。」
結界は円柱の形に変わり、結界の中が少しずつ明るくなる。
「お前は、俺のせいで巻き込まれたんだ……そのせいで何年も無駄にしただろう。」
「そんなの……」
「だからこそ、お前はまだ消えちゃいけないんだ……お前は、雪菜は雪菜自身の為に生きるべきだと俺は思う。」
「……本当にそんな事思っていたの?」
頷く龍二。
しかし、そんなことは先程思いついた理由だった。
「………………でも、」
少しの沈黙の後に、雪菜は答える。
「でも、君がいないのは嫌だ!君がそこまでしても、僕は……!」
結界の中の光が強くなる。
きっと、もうすぐで終わるんだろうと龍二は予想していた。
泣きながら反論する雪菜に最期の一言を告げる。
「……今になって、そんなこと言われても困るよ……」
光に包まれる。
その中で、龍二は嬉しかった。
(ようやく……これでようやく報われる……)
霊夢が追いついたのは、術が終わったあとだった。
「…龍……二?」
呼びかけるが、俯せで寝たまま反応しない。
代わりに、男が答えた。
「……そいつはもう、藤崎龍二じゃない。」
その時、ボロボロの魔理沙がやって来た。
そして男は三人に現状の説明と今回の目的を告げた。
「じゃあ……成功したのか?」
「さぁな。後は任せておく。」
背中を向ける男に魔理沙は聞いた。
「おい、どこ行くんだよ!?」
「……龍神の所だ。」
術を使った以上、龍神は誰かが手助けをしたと考える。
まず先に、疑われるのは自分だと男は推測した。
「あとは、頑張って三人でなんとかしてくれ。」
「あ、あぁ……わかった。」
答えたのは魔理沙だけだった。
早苗は無言だが頷く。しかし霊夢だけが、何も答えず俯いたままだった。
「霊夢……」
魔理沙は名前を呼ぶが、何も反応しない。
それを見た男は霊夢に告げた。
「……残った者の気持ちは、去った者にはわからない。去った者の気持ちも、残った者にはわからない。」
「だが、おそらく残った者の気持ちも、去った者の気持ちも、どちらもそれぞれ共通するものがあるはずだ。」
「…………どういう意味よ?」
「……あいつが自分を犠牲にしてまで助けた理由も、博麗靈夢がお前を助けた理由も……多分似ているはずだ。」
「似たように、そいつの気持ちと私の気持ちも似ているって言いたいの?」
男は頷き、続けて霊夢に告げる。
「だから、あまりこいつを責めないでくれ。」
今、その言葉を告げたのは男だった。しかし龍二も同じ事を言うだろうと霊夢は思う。
彼は、龍二の気持ちを代弁してくれたのだろう。
「……わかったわよ。」
ため息をついた後、霊夢はそう答えた。
そして、男はその場から去っていった。霊夢達は出口にいた三人と合流し、結果を話した。
異変は無事最善の形で解決された、と。
「んっ……ここ、は……」
目が覚めると、そこは和室だった。いや、それよりも自分が生きているという事。
それが雪菜にとって一番、切ない事だろう。
「守矢神社よ。」
先の呟きに答えたのは、横で雪菜を見ていた神奈子だった。
「……僕が生きている、てことはこの体は……」
ちらちらと見える前髪が青い。
「えぇ、龍二は貴方の犠牲となったのね……」
言葉が出てこなかった。
次、なにかを話そうとすると、泣き叫んでしまいそうだった。
自分のせいで、愛する人がいなくなってしまった。
その事がとても嫌で、雪菜は思わず謝ろうとした。しかし、それよりも先に神奈子が謝ってきたのだ。
「ごめんね……」
「えっ……」
「私がもっと早く気がついていれば……そもそも、貴方の思念がいなくなった時に、もっと疑うべきだった……!」
再び、何度も謝る神奈子。
雪菜は首を横にふり、答える。
「……アンタは悪くないよ。」
「でも……」
「そのおかげで、僕は龍二と会うことが出来た。それに、過ぎた事はもう……仕方がない事なのかもしれない。」
「残された僕は、彼がやって欲しかった事をする。」
これからするのは申し訳ない気持ちで生きることなんかじゃない。
「彼の分まで……僕は生きる。」
「……そっか。…………そうだな!」
神奈子は強く頷き、雪菜を立ち上がらせる。
「さ、ならまずは飯だな。大丈夫か?」
「うん…………有難う。」
居間へ向かう途中、良い匂いが漂ってくる。台所には早苗が一人で料理を作っていた。
「丁度出来上がる頃ですよ。」
「そしたら、皿を運ぶとするかね。」
神奈子がそう言う。それに対し雪菜は頷いた。
先に神奈子が運びに行き、雪菜も食器を持つ。その時に、早苗に話しかけられた。
「気分はどう?」
「うん……まぁまぁかな。」
「そっか。」
食器を持ち、台所から出ようとした雪菜。
ふと、ここで早苗に伝えたくなった。
「あのさ、早苗……」
「んー?」
「その……これからも、よろしく、お願いします。」
言われた早苗は、手を止めて振り返る。
そして笑顔で雪菜に答えた。
「こちらこそ、あらためてよろしくね。」
雪菜が台所を出たあと、早苗は一人呟く。
「似てるなぁ。」
それはある時、一人の少年が幻想郷で最期を迎えた話。
彼の結末は偶然か、必然か……
それを知る者は誰一人いない。
残された者達は、彼の最期を境に、意志が変わっていた……
「料理は出来たかしら?」
いつの間にか、扉には霊夢がいた。
あのあと、霊夢は結局守矢神社について来ていた。決して夕飯をたかりに来たとか、そんなのではない。
「持っていくわよ~」
「有難うございます。魔理沙さん帰ったんでしょうか……?」
「いや、諏訪子と遊んでる。」
廊下で、霊夢は聞いた。
「あんたは……大丈夫なの?英雄さんがいなくなったけど。」
その質問に、早苗は笑顔で答えた。
「大丈夫ですよ……いなくなったなら、私も彼の意志を継ぎます。雪菜ちゃんが、平和に生きていけるように……」
「そう……」
居間につくと、神奈子の手伝いをしている雪菜がいた。
諏訪子と魔理沙に呼びかけてる辺り、どうやら気まずい気持ちとかはなくなったようだ。
ふと、雪菜と目があう。首を傾げた雪菜に早苗は微笑んだ。
(今度は……私が助けるんだ。)
にいなです。
これにてシリーズは終了です。
あ~長かった……
ところで、なんでこれを公開したかについてですが、
まぁ簡単な話、勿体ないなあと思っていたので。
内容は酷くても、なんだかんだ、高校の頃頑張って書いたので、
あとは、リメイクするのも考えていましたが、正直長いし修正箇所多かったので、断念しました。
ただ、もし書くとしたら過去編とされていたものをリメイクする予定です。
メインキャラを一新し、筋もある程度変えて書く予定ですので、形になったらまた報告いたします。
それでは次の作品でお会いしましょう。
ここまで読んでいただき、有難うございました。
にいなでした。