失った巫女と離れた魔法使い
空を雲が多い、嵐は止む気配を見せない。殴りかかるような雨が降り、雷が落ちる。
幻想郷を大きな嵐が包んでいた。
嵐の真ん中に台風があり、その台風の目は不思議なくらい快晴で、ただそこのみが穏やかだった。
「さて、ここが拠点だ……」
「結界を越えていけばチョロいものだな。」
男と魔理沙がそれぞれ言った台詞を、龍二は後ろから聞いていた。
「まさかアイツにも似たようなものがあったとはな。」
「スキマ妖怪が特別に許可を出しているんじゃないか?よくわからないが……」
二人が話し合っている間も龍二は遠くの穴蔵を見据える。
(あそこに雪菜が……)
「大丈夫か?」
魔理沙は龍二の様子を伺う。
平然と龍二は答えた。
「あぁ大丈夫だ。さっさと行くぞ。」
刀を鞘から取り出し宙に浮く。
続いて魔理沙や男も宙に浮いて先に向かった龍二の後を追っていった。
穴蔵から100mの所で妖精や毛玉が現れる。
「こんなときでも、元気なやつらだな!」
魔理沙はレーザーを当てながらそう言った。
龍二と男は刀で凪ぎ払いながら進む。
穴蔵まで後少し、というところで誰かが道を止めた。
「ととっ!急に現れるなよ!」
魔理沙は二人の少女、文と梨子にそう告げる。
「この先は私達も同伴させて貰うわ。」
「……断る。」
そう言ったのは男だ。
「これからやることがやることだ。お前達がそれを許す気がしない。特に……お前はな。」
文を見て男は告げる。
「今回こそ、大人しく帰って結果のみを知るべきだ。その方がダメージは低い……」
「スクープは自分が足を運んで見つけるものですよ。」
そう答えられ、男はため息をついた。
(……これは、口で言ってどうにかなることじゃないな。)
そして、龍二と魔理沙に合図を送る。
察する事が出来た二人はすぐに二人を越え、穴蔵の中へと入って行った。
「おっと!逃がしませんよ!」
「それは俺が……っ!」
文を食い止めようとしたが、先に弾幕を撃たれる。
避けた男だが、文には逃げられてしまった。
「……気まぐれな妖怪だな。」
「……アンタに言われたくないわ。」
梨子は男に聞く。
「なんで今まで敵という関係だった二人が手を組んでいるのかしら?」
「……愚問だな。」
「その様子だと、相変わらずな理由のようね。」
「あぁ……それともうひとつ、ちょっとした事情があるが……」
刀を穴蔵の方に向かって投げてから、男は梨子に答えた。
「それはまぁ秘密だ。教えるつもりはない。急いでるんでね。とっととどいてくれるかな?」
投げられた刀は、龍二が手に入れた。片方のみ逆手持ちで構える龍二。
すぐに文に突っ込んでいった。
「避けやすい……遅すぎる!」
文は僅かな動きのみで避け、追加で攻撃しようとした。
しかし、それよりも早く懐に入られてしまう。
「!」
「百花……繚乱!!」
その場で2回転ながら周りに弾幕を放つ。
文は一度龍二から離れ、周りをみた。
(魔理沙さんがいない……今から追いたいですが、ここは龍二さんを止めますか!)
文は宙に浮き、穴蔵の中で飛び回る。
あまり広くはないが、それでも縦横無尽に飛び回り、弾幕をばら蒔いた。
「降りかかる火の粉は払う。」
そう呟き、流れてくる弾幕を払いのけていった。
二人の弾幕ごっこから上手くまいた魔理沙は穴蔵の先が見える場所まで来ていた。
「ここは……遺跡というか、神殿というか……面白そうな場所だな。」
穴蔵を抜けた先は、石で出来た建物。こんな所にも妖精がいることに驚いた。
「こいつら……どこにでもいるんだな。」
しかし、すぐに別の何かが魔理沙を襲う。かろうじて避けた魔理沙だが、その勢いで菷から落ちてしまった。
「いたたたた……なんだよ急に!」
菷を拾い、先を見る魔理沙。
そこにいたのは赤い髪の小柄な少女だった。
「この先にどんな御用で?」
「先にもしかしたら異変の首謀者がいるかもしれないからな。もしかして、アンタが今回の異変の黒幕か?」
魔理沙の問いに対し、少女は肩を竦めた。
「いや、俺は違う……と、言っておくかな。」
「関係者っぽいな……先に通らせてくれないか?友人の為にもこの先に行かないといけないからな!」
魔理沙は菷に股がりそう言う。すると少女は素直に道を開けた。
「君はまぁどかせても良いかな……と、思った。」
「……そうかい。」
魔理沙はそう応え、少女の横を通り過ぎた。
「ホントに何もしないな!?」
「しないしない。」
少女がそう答えると、魔理沙は先へ進んでいった。
遠くなったのを見てから、呟くように少女は言う。
「……どうせ結末はひとつだからな。俺はつぎのステップの為の準備をするか。」
いつの間にか少女の姿はなかった。
一番奥は、広くて日の光がよくあたっている場所だった。
そこにいたのは霊夢と早苗と、雪菜。既に雪菜の身体はボロボロだった。
「……夢想封」
「ストップ!待ってくれ霊夢!」
雪菜と霊夢の間に魔理沙が割り込んだ。
唖然としている雪菜と早苗。
霊夢は睨みながら聞く。
「……なんのつもりかしら?」
「もう少しだけ待ってくれ!このままだとコイツが消えちまうかもしれないんだ!」
「えぇ……だから早いところ消えて貰うのよ。」
「!!………」
脅えながら霊夢を見る雪菜。
しかし魔理沙はそこをどくつもりはない。
「なら、弾幕勝負で私を倒してからだ!」
「……会ったことないはずだ。なのに僕に肩入れする理由はなんなんだ?」
「知ってるからだ。」
雪菜の問いに魔理沙は答える。
「大切な人が消える時の悲しさ……何も出来なかった自分を悔やんだりとかさ、そういうのを私は知ってるんだ。」
「魔理沙……?」
「アイツが消えて、暫くずっと泣いていたのは、お前だけじゃないんだよ!!」
そして霊夢の名前を叫ぶ魔理沙。
しかし霊夢は懐からお札を取り出す。
「……私は、そいつを助けるつもりはないわ。」
「!」
「……勘だけど、貴方が言っているのは誰かを犠牲させる方法でしょ?」
「…………」
「図星かしら?だったら私は犠牲になる人を救う。初対面の人間に対してそこまでするつもりはないわ……」
「霊夢…………」
一度歯を食いしばってから呟いた。
「わかった……なら、始めるぞ。」
「えぇ……わかってるわ。」
二人同時に飛び上がり、弾幕を張った。
先にレーザーを放つ魔理沙だが全て容易く避けられる。
(つか、速すぎだろ!相変わらず余裕で避けやがって……)
そう思ったその時、いつの間にか紅い札が目の前にあった。
間一髪で回避する魔理沙。しかし次々と針や札が魔理沙の方へと流れ込んでいく。
(相変わらずじゃない……いつも以上にか!!)
霊夢の方を見る。
確かに、彼女の目はいつもより本気だ。下手したらあっという間に勝たれてしまう。
「成る程……邪魔するなら容赦しないっていうのは本気のようだな!!」
懐から取り出すのは、いつものミニ八卦炉。
いつも通り、恋符系のスペルカードかと霊夢は考える。ならばと、霊夢は目を瞑る。
「霊符…夢想封印……!」
複数の光の玉が、魔理沙に向かって流れていく。その後どうなるか、確認する前に玉が爆発した。
(魔理沙には悪いけど、時間がないのよね……)
そう思い、雪菜の方を向く。
その時、後ろから何かが飛んでくる。それが魔理沙だというのはすぐわかった。
「……あの中に隙間が?」
「流石にヤバかったぜ……なんとかなったけどな。」
「八卦炉の使い道は?」
「接近を狙ってたんだが……飛びすぎたようだ。」
元からあのミニ八卦炉は、スペルカードの為ではなく、素早く移動するために使う予定だったようだ。
「まぁ、ギリギリだったんだけどな。ホント、ギリギリだよ。」
ボロボロの服につく土埃をとりながら、魔理沙は霊夢に答えた。
「そう……そんなにギリギリなら、諦めてくれた方が私は助かったんだけど!」
再び針を投げ始める霊夢。魔理沙もまた、避けながらの攻撃を続ける。
「そこまで抵抗して……あんたに利益があるのかしら?」
「私にはないかもな。だが、アイツが報われる。偽符、オーレリーズサン。」
球体が複数現れる。
それらは、魔理沙の周りを回りつつ、弾を放った。
「行く途中、アイツから聞いたんだ、アイツがこの子のことをどう思っていたのか!話してる間の顔は嬉しさ反面に悲しさ反面って所だったな。」
「……そのアイツがどう思っていたかは、私はわからないわね。」
「いいや、わかるさ……!アイツがもし雪菜に会ったら、その時の顔を見たら、多分お前にもわかるさ……」
「そう……ならそうなる前にっ!」
夢想封印・寂を唱える。
散乱する光弾は魔理沙には当たらなかった。しかし魔理沙の周りを飛んでいた球体には命中した。
周りを飛んでいた球体はそのまま消滅し、魔理沙は無防備になる。
「……お前はなんでこの子を消そうとするんだ?アイツにとって家族のようなものなのに……!」
魔理沙は問う。
霊夢は暫くしてから口を開いた。
「…………家族なら尚更よ。貴女は知らないものね、家族が目の前で消えていく悲しみを。」
俯きながらの回答。しかし彼女がどんな感情だったかは言葉だけで十分だった。
「そいつが犠牲になるなら、その子は喜べるのかしら?」
「それは……」
「そうだよ。」
突然雪菜が口を開く。
二人は雪菜の方を向いた。
「その人が誰かは大体想像がつく。あくまで、そうでありたいって、願望かもしれないけど……でも、もし僕が想っている人と同じなら、その人が犠牲になるのは全然嬉しくない。」
雪菜はそう言う。
今までの事を思い出しながら。
いつの間にか彼は、自分の事を敵対視しなくなった。そして頼みとは言え、自分を助けようとしている。
「その人はどうなるのかしら?」
霊夢は聞いたが、魔理沙は答えなかった。
「そう……ま、とっとと終わらせてもらうけどね。」
再び、弾幕勝負は始まる。