初恋
好きな人が出来た。生まれて初めての恋と言ってもいいかもしれない。それまで恋愛というものにとんと疎かった自分に、好きな人が出来たのだ。それは事件であり、自分にもその様な感情があった事に、驚きと安堵があった。
通勤途中の駅で、初めてその女性を見かけた瞬間、身体に電気が走る衝撃を感じた。色白で長い黒髪の白いワンピースを着た、清楚感漂う女性。
それ以来、仕事中も、食事の時も寝る時も、僕の頭の中を女性が支配した。何も手につかない。女性の事しか考えられない。考えたくないのだ。最早、このモヤモヤを解消する為に、方法は一つだけだった。女性に告白する事にしたのだ。
朝の駅のホーム、いつもの時間、いつもの場所に佇む女性に、僕は声を掛けた。
「おはようございます。突然で驚かれると思いますが、僕はあなたに恋をしてしまいました。僕と付き合ってください」
飾り気のない、嘘偽りない自分の本心からの言葉だった。
突然の男からの申し出に、女性は困惑した表情になり、
「お気持ちは嬉しいですけど、そんな、困りますわ。だって、私とあなたは釣り合わないですもの」
と、愛と美の女神ヴィーナスは、貧乏神である男に告げた。