発現
…嫌な夢を見た。
それも鮮明に覚えてる
男か女かも解らないあの無機質なそれでいて機械音ではない肉声のような声。
暗い部屋の中、ベッドの上
昨晩の夢を思い出しながら意識と身体を結合させて行く
重いまぶたを開け、枕元のスマートフォンで時間を確認しようとしたときだった。
おかしい
紙がない。
確かに握りしめて寝た。
簡単には取れないようにテープで固定までしていたのに
汗か何かで剥がれたのだろうか
とりあえず灯りを点けて部屋を確認しよう
ベッド脇のカラーボックスの上のスタンドライトに灯をつけた
「うああぁあぁぁ!!!何だよこれ!!!」
昨日の紙を握っていた左手の掌が赤黒く燻んでいる。
急いで手を洗いにいったが色は一向に落ちない
というより皮膚の色素そのものが赤黒くなったような、とにかくどうやってもこの掌が元に戻らない
まさか昨日のあれは夢じゃなかったってのか?
そんなはず…
どうみてもここは俺の家で、
いたって変わったことはない。
この掌以外。
何がどうなってる…
落ち着け、
ここは一度情報を整理だ
時刻は午前5時15分、俺の家、身体の異常は掌以外は特になし、
変わったものは…
何気なく窓の外を見ようとしたが少し戸惑った。
ここで外を見て辺境の地へ家ごと飛ばされていたり。
巨大な竜が空を飛んだり
ゾンビが歩き回っていたりでもすれば間違いなくここは異世界であることが確定するわけだ
心の準備ができてない
いや、できるはずがない
でもこのまま何も分からないままでは埒があかないのも事実…
外を見る見ないの一見すれば非常にくだらないであろう思考をひたすらに堂々巡らせていたときだった
ブーーーッ ブーーーッ ブーーーッ
「っ!!!?」
携帯のアラーム音だったがこんな状況ではわずかな音さえ俺の心臓が叩かれるほど驚いた
そしてその2秒後には更なる動揺が生まれた
俺のスマートフォンが木っ端微塵になっている
それも真っ黒な鉄槌により
さらに補足すれば
俺の手首から生えた
真っ黒な鉄槌によって。