夏は去り、秋来る
日の暮れて後、天を仰げば夕映えの色の褪せつつある空には、穏やかな青灰色の鰯雲が流れ行く。
小路を見れば秋桜の花が影の裡に揺れ動く。
尽日、やかましい程に梢で鳴いていた蝉はその数を減らし、草むらのうちに鳴く虫の音は厚くなった。
田の上、畠の上を飛び交う蜻蛉は次第に増え、その身の色は一段と赤い。
思えば風も涼しくなったものだ。
障子窓を開けば、なんとも心地よい風が部屋のうちに吹き込んで来る。
「ああ、夏が去り行く、秋はもうそこまで来ているのだ」と、風を受けるその時に気が付いた。